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外測度とカラテオドリの拡張定理とは?可測性条件から測度の構成まで

上のすべての部分集合に「長さ」を数として割り当てたい。素朴にそう願うと、すぐに壁にぶつかる。平行移動で不変な長さを、可算加法性を保ったままあらゆる集合へ広げることは、選択公理のもとで不可能だと知られている。そこで戦略を変える。まずは条件のゆるい「大きさ」をすべての部分集合に配っておき、そのあとで測度と呼ぶにふさわしい行儀のよい集合だけをふるい分ける。この配られる大きさが外測度であり、ふるい分けの基準を与えるのがカラテオドリの方法である。外測度は、あらゆる部分集合に対して大きさを定義しようとする概念だが、一般に加法性を満たさない。適切な部分集合族に制限することで、はじめて真の測度が構成される。

外測度の定義

集合 上の外測度とは、 のすべての部分集合に 以上の値( も許す)を割り当てる関数 で、次の 3 つを満たすものをいう。まず空集合の大きさは である。

次に単調性、すなわち大きい集合ほど大きさも大きい。

そして可算劣加法性。可算個の集合の合併は、それぞれの大きさの総和を超えない。

ここで目を引くのは、等号ではなく不等号だという点である。3 番目の条件が「」ではなく「」でしか成り立たないところに、外測度の弱さと使いやすさが同居している。なぜ加法性まで求めないのか。集合を別々に覆って大きさを測ると、覆いが重なった部分を二重に数えてしまい、和の大きさは個々の大きさの合計「以下」にしか抑えられないからだ。逆に言えば、劣加法性はどんな覆い方でも破れない、ゆるくて頑丈な条件である。この頑丈さのおかげで、外測度はすべての部分集合に対して例外なく定義できる。

外測度の構成:被覆による近似

外測度は、天下りに与えるものではなく、「被覆による近似」から自然に湧き出てくる。土台として、 の部分集合族 で空集合を含むもの()と、その各要素にあらかじめ「コスト」を割り当てる関数 (ただし )を用意する。このとき任意の に対し、

と定めると、これはつねに外測度になる。被覆が存在しないときは と約束する。

やっていることは直観的である。測りたい集合 の部品で残さず覆い、使った部品のコスト を足し上げる。覆い方は無数にあるから、そのなかで総コストがもっとも小さくなる覆い方の値、すなわち下限を の大きさとみなす。いわば「いちばん安上がりな包み方の値段」である。

この型にルベーグ外測度がぴたりとはまる。 とし、 を区間の全体、 を区間の長さにとればよい。すると、たとえば 1 点集合 の外測度は になる。長さ の区間 ひとつで覆えて、 はいくらでも小さくできるからだ。さらに驚くのは、有理数全体 の外測度さえ だという事実である。 は可算なので と番号づけ、 を長さ の区間で覆えば、総コストは に収まる。 とすれば外測度は である。数直線にびっしり詰まって見える有理数が、長さの意味ではまったく無視できてしまう。

HTML
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<div class="cover">
<svg viewBox="0 0 420 210" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="集合 A を区間 E1 E2 E3 で覆う様子">
<rect x="0" y="0" width="420" height="210" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<path d="M 158 112 C 138 84 202 74 226 90 C 264 78 296 110 270 134 C 282 158 220 164 194 150 C 158 160 138 134 158 112 Z" fill="#e2e5ea" stroke="#9aa0a8" stroke-width="1.3"/>
<rect x="126" y="62" width="96" height="100" rx="6" fill="#cfe0fb" fill-opacity="0.45" stroke="#5b8def" stroke-width="1.3"/>
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<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" fill="#3468d6" stroke="#fafbfc" stroke-width="3" paint-order="stroke" text-anchor="middle">
<text x="150" y="56">E₁</text>
<text x="238" y="66">E₂</text>
<text x="300" y="100">E₃</text>
</g>
<text x="206" y="122" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="15" fill="#1b1d22" stroke="#e2e5ea" stroke-width="3.5" paint-order="stroke" text-anchor="middle">A</text>
<text x="210" y="198" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="11.5" fill="#5b6169" text-anchor="middle">A を覆うコスト総和 Σρ(Eₙ) の下限が μ*(A)</text>
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</div>
.cover { margin: 0; text-align: center; }
.cover svg { width: 100%; max-width: 420px; height: auto; }

図の が覆いの部品で、 をはみ出し気味に、ときに重なりながら包んでいる。重なりやはみ出しはコストの無駄になるから、下限を追い求める過程でそれらは切り詰められていく。

外測度だけでは測度にならない

ここで肝心の問いに向き合う。外測度はすべての部分集合で定義できるのに、なぜそれを最終目標の「測度」と呼ばないのか。理由は、劣加法性どまりで、互いに素な集合に対してすら大きさの足し算が保証されないからである。測度に求めたいのは、重なりのない集合を合併したら大きさもちょうど足し合わさる、という可算加法性だ。外測度は一般にこれを満たさない。実際、ルベーグ外測度のもとには、大きさが足し算にならない病的な集合(後で見るヴィタリ集合)が潜んでいる。

打開策は、定義域を欲張らないことである。すべての部分集合をあきらめ、大きさの足し算がきちんと成り立つ「行儀のよい」集合だけを選び出せば、その上では外測度が本物の測度としてふるまう。問題は、行儀のよさをどう見分けるかだ。

外測度 をすべての部分集合の上に作る

カラテオドリ条件で可測集合 にしぼる

の上で可算加法的な測度 になる

カラテオドリの慧眼は、この「行儀のよさ」を、外測度だけを使って内在的に言い表したところにある。次の節でその条件を見よう。

カラテオドリの可測性条件

外測度 が与えられているとする。集合 -可測(カラテオドリの意味で可測)であるとは、任意の集合 に対して、

が成り立つことをいう。

この条件の心は、 を一本のナイフに見立てるとつかめる。どんな「テスト集合」 を持ってきても、 はそれを に入る部分 と、入らない部分 の 2 つに切り分ける。切ったあとの大きさの和が、切る前の の大きさとぴったり一致するなら、 を測度の意味で損なわずに二分している。それがあらゆる について起こるとき、 を可測と呼ぶ。境界がぎざぎざで大きさを取りこぼすような集合は、この検査で振り落とされる。

うれしいことに、証明すべきことは半分で済む。劣加法性から、片側の不等式

はどんな でも自動的に成り立つ。 の合併だからだ。したがって可測性を示すには、逆向きの

だけを確かめればよい。しかも のときは自明に成り立つので、 の場合に集中できる。

HTML
CSS
JavaScript
<div class="split">
<svg viewBox="0 0 420 222" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="テスト集合 E を A で二分する図">
<rect x="0" y="0" width="420" height="222" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<text x="210" y="20" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" fill="#5b6169" text-anchor="middle">テスト集合 E</text>
<path d="M 210 50 A 126 70 0 0 0 210 190 Z" fill="#cfe0fb" fill-opacity="0.6"/>
<path d="M 210 50 A 126 70 0 0 1 210 190 Z" fill="#ffdcb0" fill-opacity="0.65"/>
<ellipse cx="210" cy="120" rx="126" ry="70" fill="none" stroke="#5b6169" stroke-width="1.5"/>
<line x1="210" y1="30" x2="210" y2="204" stroke="#8b9098" stroke-width="1.2" stroke-dasharray="5 3"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="13" font-weight="600" text-anchor="middle">
<text x="56" y="124" fill="#3468d6">A</text>
<text x="364" y="124" fill="#b5651d">Aᶜ</text>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" fill="#1b1d22" stroke="#fafbfc" stroke-width="3" paint-order="stroke" text-anchor="middle">
<text x="150" y="124">E ∩ A</text>
<text x="272" y="124">E ∩ Aᶜ</text>
</g>
<text x="210" y="214" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="11.5" fill="#5b6169" text-anchor="middle">μ*(E) = μ*(E∩A) + μ*(E∩Aᶜ)</text>
</svg>
</div>
.split { margin: 0; text-align: center; }
.split svg { width: 100%; max-width: 420px; height: auto; }

図では、テスト集合 が境界をまたいで広がり、 側と 側に分かれている。左右の大きさを足して の大きさに戻るかどうか、それがカラテオドリの検査である。

なぜこの奇妙な条件が正しいのか

はじめてこの定義に出会うと、なぜ全部の について要求するのか、 の場合だけでは足りないのか、と戸惑う。答えは外測度の非加法性にある。もし外測度がもともと加法的なら、 に対する ひとつで用が足りる。しかし外測度は大域的には加法的でないので、たまたま全体 の上で足し算が合っても、部分 に目を移すと崩れることがある。あらゆる で切り口を検査するのは、 の境界がどこを取っても外測度から見て「薄い」ことを、すみずみまで保証するためである。

もう一つの美点は、条件が で完全に対称なことだ。定義式で を入れ替えても、 が入れ替わるだけで式は変わらない。だから が可測なら も自動的に可測になる。この対称性は、次に見る可測集合の全体が補集合について閉じること、ひいてはそれが σ 加法族をなすことの、そのまま出発点になる。

可測性を確かめる:半直線の例

抽象論だけでは味気ないので、具体的に一つ、半直線 がルベーグ外測度について可測であることを確かめよう。示すべきは、任意のテスト集合 に対する である。

を覆う区間列 を任意にとる。各区間 を点 で断ち切り、

と二分する。区間を 1 点で切っても左右の長さの和はもとの長さに等しいので、 が成り立つ。しかも を、 を覆っている。よって、

が言える。左辺は の任意の被覆にわたる量だから、その下限をとれば を得る。これで半直線の可測性が確かめられた。

同じ理屈で の形の半直線はすべて可測になり、補集合をとれば も、差をとれば任意の区間も可測だとわかる。区間から生成される σ 加法族、すなわちボレル集合族がまるごと可測になる道筋が、こうして開ける。

カラテオドリの拡張定理

外測度から測度を取り出す中心的な結果が、カラテオドリの拡張定理である。 を集合 上の外測度とし、-可測集合の全体を と書くと、次が成り立つ。

可測集合の全体は閉じている

は空集合と全体 を含み、補集合と可算合併について閉じる。すなわち σ 加法族をなす。カラテオドリ条件のもつ対称性と、可算加法性の議論から従う。

制限すれば測度になる

に制限したものは、可算加法性をもつ測度である。外測度のときは不等号だった劣加法性が、可測集合どうしの非交和の上では等号にまで格上げされる。

証明の骨格だけたどっておく。 に属することは定義から即座に従い、補集合で閉じることは前節で見た の対称性そのものである。要になるのは合併で閉じること、そして加法性だ。互いに素な をとり、 の可測性をテスト集合 に適用すると、

が導ける。 が素なので となることを使うだけである。ここから有限個の合併が に入り、その上で有限加法性が成り立つことが従う。

可算個への飛躍は、部分和の単調性と外測度の劣加法性を組み合わせて行う。互いに素な可測集合列 に対し、有限和 の大きさは に等しく、 とした極限による下からの評価と、劣加法性による上からの評価が挟み撃ちになって、可算加法性 と、合併の可測性が同時に得られる。こうして は σ 加法族となり、その上で は可算加法的な測度になる。

得られる測度は完備である

カラテオドリの構成には、うれしいおまけがついてくる。外測度が の集合、いわゆる零集合は、無条件に可測なのである。実際 なら、任意の について単調性から 、また なので、

となって、可測性の逆向き不等式がただちに満たされる。

この事実は、零集合の任意の部分集合もまた可測だということを意味する。 かつ なら、単調性から となり、 も零集合として可測になるからだ。測度 の集合の内部を、どれだけ細かく取り出しても可測性からはみ出さない。この性質をもつ測度を完備であるという。カラテオドリの方法は、はじめから完備な測度を生む。ルベーグ測度が完備なのも、まさにこの構成に由来する。

ルベーグ測度への応用

出発点をここで回収する。 上で、左半開区間 に長さ を与えて外測度を構成すれば、ルベーグ外測度 が得られる。カラテオドリの定理により、-可測集合の全体は σ 加法族をなし、その上で を制限したものが完備な測度、すなわちルベーグ測度である。

開集合から生成される σ 加法族の元をボレル集合と呼ぶが、半直線が可測だったことから、ボレル集合はすべてルベーグ可測である。ただし逆は成り立たない。ルベーグ可測集合の全体は、ボレル集合族よりも真に大きい。カントール集合が測度 でありながら連続体濃度をもつため、その部分集合はすべて可測(完備性)で、その個数だけでボレル集合の総数を超えてしまうのだ。

では、可測でない集合は本当に存在するのか。選択公理を使うと、その具体像が現れる。ここで、外測度と測度のあいだの距離が、はっきりと見えてくる。

外測度

すべての部分集合で定義される、ゆるい大きさ 。劣加法性しか持たず、互いに素な集合でも大きさが足し算になるとは限らない。

真の測度

可測集合 に制限して初めて得られる 。非交な可算個の和で大きさがちょうど足し合わさる、可算加法性をもつ。

非可測集合の代表がヴィタリ集合である。区間 の点を「差が有理数なら同じ仲間」と類別し、選択公理で各仲間から代表を 1 つずつ選んで集めた集合を とする。有理数 だけ平行移動した たちは互いに素で、 の有理数にわたって動かすと、その合併は を含み に収まる。もし が可測なら、平行移動で不変な測度の可算加法性から、 なら なら のどちらかになる。ところが前者は の長さ を下回れず、後者は の長さ を超えられないという上下の挟みと両立しない。よって は可測でありえない。すべての集合を測ろうとする夢が破れる瞬間であり、外測度を可測集合へ絞る操作が避けて通れない理由でもある。

同じ方法が生む測度たち

カラテオドリの方法の真価は、ルベーグ測度に限らないところにある。構成に使う被覆コスト を差し替えるだけで、まるで別物の測度が同じ機械から次々に生まれる。

ルベーグ・スティルチェス測度は から定まり、単調で右連続な ごとに異なる。確率論で分布関数から確率測度を作るのがこれ
ハウスドルフ測度は を用い、整数とは限らない 次元の大きさを測る。フラクタルの次元の土台になる
数え上げ測度やディラック測度のように、素朴な からはすべての集合が可測になる自明な測度も得られる

いずれも「 を選び、被覆の下限で外測度を作り、カラテオドリ条件で可測集合に絞る」という同じ一本の道を通っている。測度論のさまざまな舞台が、たった一つの構成法の上に載っているわけだ。

理解の確認

カラテオドリの可測性条件 を示すとき、外測度の劣加法性から自動的に成り立つのは、どちらの不等号だろうか。

  • のほうで、こちらは示す必要がない
  • のほうで、残る だけを示せばよい
  • 両向きとも自動では成り立たず、どちらも別々に示す必要がある
__RESULT__

の合併なので、劣加法性から がつねに成り立つ。したがって可測性の証明では、逆向きの だけを確かめればよい。この非対称性が、半直線の可測性を「被覆を切り分けて下限をとる」一手だけで片づけてくれた。

測度を作る普遍的な機械

外測度という、条件をぎりぎりまで緩めた出発点から、たった一つの可測性条件を通すだけで、可算加法的で完備な測度が立ち上がる。しかも同じ機械が、コストの与え方しだいでルベーグ測度にもハウスドルフ測度にも確率測度にもなる。カラテオドリの方法が測度論の入り口に据えられるのは、この普遍性ゆえである。

見方を変えれば、これは「すべてを測る」という欲張りを一度あきらめ、「きれいに二分できる集合だけを測る」と割り切った代償として、豊かな測度の世界を手に入れる取引でもある。ヴィタリ集合のような測れない集合は、その割り切りが払った代金だ。測りたい対象をどう覆い、どこで行儀のよさの線を引くか。この二つを選ぶところから、ルベーグ積分も、フラクタルの幾何も、確率論の土台も動きだす。カラテオドリの拡張定理は、その最初のひと回しである。

外測度とカラテオドリの拡張定理を、直観と例と図で解説。外測度の定義と被覆による構成、なぜ劣加法性どまりか、カラテオドリの可測性条件の意味、半直線の可測性、σ 加法族と完備な測度への拡張、ルベーグ測度とヴィタリの非可測集合、ハウスドルフ測度まで。