ノーベル生理学・医学賞は光で神経細胞を操る光遺伝学、米独の 3 人に
2026年10月6日 00:18
スウェーデンのカロリンスカ研究所は 10 月 5 日、2026 年のノーベル生理学・医学賞を、米スタンフォード大のカール・ダイセロス教授(54)、独フンボルト大のペーター・ヘーゲマン教授(71)、独ビュルツブルク大のゲオルク・ナーゲル教授(73)の 3 人に贈ると発表した [1][2]。授賞の理由は「光で開閉するイオンチャネルと光遺伝学に関する発見」で、賞金の 1200 万スウェーデン・クローナは 3 人で等しく分ける [1]。
光遺伝学は、生きた動物の脳の中で特定の神経細胞を光で働かせたり止めたりし、その細胞が記憶や感情、行動にどう関わるのかを直接確かめる方法である [1][3]。ヘーゲマン氏とナーゲル氏は 2000 年代の初め、単細胞の緑藻クラミドモナスが光のほうへ泳ぐ仕組みを調べるなかで、青い光を受けると通り道が開いて陽イオンを流すたんぱく質「チャネルロドプシン」を見つけ、どの細胞に入れてもその細胞が光に反応するようになることを確かめた [1]。ダイセロス氏はこの遺伝子をラットの神経細胞に組み込み、青い光で神経の信号を起こすことに成功して 2005 年に発表し、2 年後には生きたマウスの脳でもこの光のスイッチを働かせている [1]。
ノーベル委員会のペール・スベニングソン委員長は「光遺伝学は、かつては夢に見るしかなかったやり方で脳の地図を描く機会を与えてくれる」と述べ、発表文も臨床への応用に触れた [1]。
光遺伝学を使って、研究者たちは神経や精神の病気に関わる特定の記憶や感情、行動をつかさどる神経回路を明らかにしてきた。臨床医学では、視覚に障害のある人の視力を取り戻す試みに、この方法が使われている。
NobelPrize.org(Press release: Nobel Prize in Physiology or Medicine 2026)
ドイツのゲッティンゲン大などは光遺伝学を使った新しい人工内耳を開発しており、網膜が傷ついた人のための視覚の補助具づくりも進んでいると、マックス・プランク協会は説明している [4]。理化学研究所脳神経科学研究センターの宮脇敦史チームディレクターは「光は神経細胞の興奮状態のオン・オフの制御が非常に早い。視覚障害の治療など、応用には計り知れないポテンシャルがある」と話した [2]。
選考にあたるノーベル総会のトーマス・ペールマン事務局長は 3 人全員と電話で話せたといい、最初に連絡がついたダイセロス氏については「とても疲れていて、まだ眠っていた」と明かした [1][5]。3 人はそろって、ほかの 2 人と一緒に受賞できることを「本当にすばらしい」と喜んだという [5]。イタリアで知らせを受けたナーゲル氏について、ビュルツブルク大のパウル・パウリ学長は同大の 15 人目のノーベル賞受賞者だと祝い、メルツ独首相も X に「この受賞は、ドイツの研究が一流であることを示している」と投稿した [5][6]。
ヘーゲマン氏は 1986 年から 1993 年までマックス・プランク生化学研究所で研究グループを率い、ナーゲル氏もマックス・プランク生物物理学研究所で研究グループを率いたあと、2004 年からビュルツブルク大で教えてきた [4][6]。精神科医でもあるダイセロス氏は、2014 年から米ハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)の研究者を務めている [3][5]。
医学・生理学賞は毎年ノーベル賞の発表の先頭を切り、このあと 6 日に物理学賞、7 日に化学賞、8 日に文学賞、9 日に平和賞、12 日に経済学賞が発表される [5]。授賞式はノーベルの命日にあたる 12 月 10 日、ストックホルムで開かれる [5]。
参考文献
- [1]NobelPrize.org(Press release: Nobel Prize in Physiology or Medicine 2026)
- [2]読売新聞(ノーベル生理学・医学賞、「光遺伝学」開拓に貢献した米独の研究者計3人に授与)
- [3]HHMI(HHMI’s Karl Deisseroth Wins the 2026 Nobel Prize in Physiology or Medicine)
- [4]マックス・プランク協会(Congratulations to Peter Hegemann and Georg Nagel on the 2026 Nobel Prize in Physiology or Medicine)
- [5]tagesschau.de(Medizin-Nobelpreis für Optogenetik-Forscher aus Deutschland und USA)
- [6]ビュルツブルク大学(Nobelpreis für den Würzburger Professor Georg Nagel)