ノーベル物理学賞は南極の氷で宇宙のニュートリノを捉えたハルゼン氏に
2026年10月7日 02:25
スウェーデン王立科学アカデミーは 10 月 6 日、2026 年のノーベル物理学賞を米ウィスコンシン大学マディソン校のフランシス・ハルゼン教授(82)に贈ると発表した [1][4]。授賞の理由は「アイスキューブ・ニュートリノ観測所への決定的な貢献と、宇宙に起源をもつ高エネルギーのニュートリノの発見」で、賞金は 1200 万スウェーデン・クローナとなる [1]。
ニュートリノは電荷を持たず質量もごくわずかな素粒子で、太陽から来るものだけでも毎秒 650 億個が人の小指の爪を通り抜けているが、物質とはめったに反応しないため捉えにくい [3]。ハルゼン氏は南極の氷河の氷を使えばニュートリノを捉えられると考えて 1988 年に構想を発表しており、氷の中でニュートリノが原子核とぶつかったときに出る光を、澄んだ氷に沈めたセンサーで追うという発想だった [1][3]。
1992 年には南極点の氷河へ初めてセンサーを下ろす試みが始まり、前身の観測施設 AMANDA を経て、1 立方キロメートルの氷に 86 本のケーブルで 5160 個の光センサーを埋めたアイスキューブが 2011 年に完成した [3]。センサーは地表から 1450〜2450 メートルの深さにあり、1400 メートルより深い氷はきわめて澄んでいて、光が 300 メートルも進むことが分かっている [3]。
観測チームは 2013 年に太陽系の外から来た高エネルギーのニュートリノを初めて検出したと発表し、2017 年には遠い銀河の中心にある超大質量ブラックホールから来たニュートリノを捉えたほか、2022 年には 4700 万光年先の活動銀河、2023 年には天の川銀河から高エネルギーのニュートリノが出ている証拠を示した [2]。ノーベル委員会のピアース委員長は、ハルゼン氏の粘り強さと科学的な展望が「新しい種類の天文学への道を開いた」とたたえている [1]。
ハルゼン氏はイタリアから電話で発表の会見に加わり、「大きな驚きで、まったく予想していなかった」と語ったうえで、いま取り組んでいる提案が今回の受賞で認められることを願うと話して会場の笑いを誘った [4]。1944 年にベルギーのティーネンで生まれ、ルーヴェン・カトリック大学で博士号を取った [1]。ベルギーのデウェーフェル首相は SNS で、ノーベル賞を受けた 11 人目のベルギー人だと祝福している [4]。
宇宙から届くニュートリノの観測では、日本のカミオカンデを率いて 1987 年に超新星爆発のニュートリノを捉えた小柴昌俊氏も、2002 年にノーベル物理学賞を受けている [3]。アイスキューブには日本から千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターが唯一参加しており、吉田滋教授と石原安野教授のチームは、2012 年の高エネルギー宇宙ニュートリノの世界初の検出や、2018 年に発表したニュートリノを出す天体の初めての特定などに関わった [5]。2002 年の国際共同実験チームの発足時から加わる吉田教授は、当時を次のように振り返る [5]。
IceCube 実験プロジェクトを推進する国際共同実験チームが発足した 2002 年に日本から唯一のグループとして参加を決めたとき、ニュートリノで高エネルギー宇宙を探るなど夢物語であり、有用な成果など出ないだろうという悲観的意見が圧倒的多数派でした。
千葉大学(ハドロン宇宙国際研究センターが参加する国際共同研究がノーベル物理学賞を受賞)
国際チームは発足時の 5 か国から 14 か国に広がり、いまは 450 人を超える研究者が参加している [5]。千葉大学は 2026 年に完了したアイスキューブの改良で中心となる新型の検出器を開発・製作し、将来の計画 IceCube-Gen2 でも中核を担う [5]。
参考文献
- [1]NobelPrize.org(Press release: Nobel Prize in Physics 2026)
- [2]ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison Professor Francis Halzen named 2026 Nobel laureate in physics)
- [3]NobelPrize.org(Nobel Prize in Physics 2026 - Popular information)
- [4]Phys.org(Francis Halzen wins Nobel Prize in physics for work on mysterious ghost particles called neutrinos)
- [5]千葉大学(ハドロン宇宙国際研究センターが参加する国際共同研究がノーベル物理学賞を受賞)