景気の安定化策を支える理論を築いた米国の 2 人がノーベル経済学賞を受ける
2026年10月13日 02:16
スウェーデン王立科学アカデミーは 10 月 12 日、2026 年のノーベル経済学賞を、米スタンフォード大学のロバート・ホール教授と米コロンビア大学のマイケル・ウッドフォード教授に贈ると発表した [1][2]。授賞の理由は「マクロ経済の安定化策のミクロ経済学的な基礎づけ」で、景気の山と谷をならすために世界の政府や中央銀行がいま使っている経済モデルを新たに組み立て直した点が評価された [1][3]。選考委員会のジョン・ハスラー委員長は、発表文で次のように述べている [1]。
受賞者の研究は、いま世界中の中央銀行や政府が使っているモデルに、揺るぎない理論の土台を与えてくれました。そのおかげで私たちは、エネルギー危機や家計の消費の急な変化のような経済のショックに、以前よりうまく対処できるようになっています。
NobelPrize.org(Prize in Economic Sciences 2026, Press release)
景気が冷えれば金利を下げて財政赤字を増やし、過熱すれば逆の手を打つという安定化策は、英国の経済学者ケインズがほぼ 100 年前に理論を示して以来の考え方である [1]。ところが 1970 年代の石油危機では、ケインズ型のモデルに沿った対策が失業を減らせず、抑えのきかないインフレを招き、西側の国々は低い成長と高い失業、高いインフレが重なる 10 年を経験した [1][3]。選考委員のティモ・ボッパルト氏は、ケインズの処方箋は「うまくいっていた、うまくいかなくなるまでは」と振り返った [4]。
1978 年の論文でホール氏が立てたのは、家計が将来の所得の見通しをもとに消費を決めているなら、消費が変わるのは新しい情報が入ったときだけで、前もって予測はできないはずだという仮説だった [3]。検証の結果は仮説のとおりで、ホール氏は 1982 年にも経済学者のフレデリック・ミシュキン氏と個々の家計のデータを調べ、約 8 割が将来を見通して消費を決め、残りは収入をそのまま使い切るその日暮らしだったことを示している [3][4]。
ウッドフォード氏は 2003 年の著書『Interest and Prices』で、家計や企業の判断を積み上げる三つの式からなる新ケインズ派のモデルを示し、これがその後の同じ系統のモデルの原型になった [3][5]。企業は値段を頻繁には変えられないため、先行きの費用や競合の値段を見通して値段を決める [3]。そこから将来の金利についての予想が物価を左右するという見方が生まれ、中央銀行には信頼と透明性、方針をはっきり伝えることが欠かせないという考えが各国の中央銀行に広がった [3][4]。経済にかかる需要の強さを表す「需給ギャップ」も、ウッドフォード氏が取り入れた考え方だという [3]。
1943 年にカリフォルニア州パロアルトで生まれたホール氏は、1967 年にマサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取り、米国の景気後退の始まりと終わりを判定する全米経済研究所の景気循環日付委員会で 1978 年から委員長を務めてきた [1][6]。1955 年にマサチューセッツ州チコピーで生まれたウッドフォード氏は、1983 年に同じ MIT で博士号を取っており、発表の席で電話をつながれると「とても名誉なことで、驚いている」と話した [1][4]。
賞金は 1200 万スウェーデン・クローナ(約 1 億 9000 万円)で、2 人が半分ずつ受け取り、授賞式はノーベルの命日にあたる 12 月 10 日にストックホルムで開かれる [1][2]。経済学賞はスウェーデンの中央銀行が 1968 年に設けたもので、ほかの賞と同じ日に授与される [4]。ハスラー委員長は読売新聞の取材に、経済は変わり続けており、新ケインズ派のモデルもそれに合わせて手直ししていく必要があると述べた [2]。
参考文献
- [1]NobelPrize.org(Prize in Economic Sciences 2026, Press release)
- [2]読売新聞(ノーベル経済学賞、米スタンフォード大のホール教授と米コロンビア大のウッドフォード教授に)
- [3]NobelPrize.org(Popular information about the 2026 economic sciences prize)
- [4]PBS News(2 American economists win Nobel for studying how to deal with economic shocks)
- [5]Wikipedia(Michael Dean Woodford)
- [6]Wikipedia(Robert Hall (economist)))