ロシアのペスト研究所の職員が肺炎で死亡、WHO は一般へのリスクを低いとみる
2026年10月6日 13:52
ロシア東シベリアのイルクーツク州で、ペストなどの危険な病原体を扱う「シベリア・極東イルクーツク防疫研究所」の女性職員が重い肺炎で亡くなり、肺ペストではないかとの報道が広がっている [1][2]。職員は 9 月 29 日に入院して 10 月 1 日に死亡したが、保健を所管するロシアの消費者権利保護・福祉監督庁は「原因不明の肺炎」と説明しており、ペストとは認めていない [1][3]。
監督庁によると、患者の検体からは職員が仕事で扱っていた病原体に関係する微生物は見つかっておらず、研究所の特別委員会と監督庁は、事故や安全上の違反はなかったと結論づけた [1]。研究所では直近 10 日間にほかの職員から感染症の訴えもなく、接触した人たちは医学的な観察の下で毎日検査を受けている [1]。職員が生きた菌の入った試験管を割ったとする報道もあり、隣のブリヤート共和国のツィデノフ首長がいったんペストで亡くなったと述べ、のちに「かもしれない」と言い直す場面もあった [1][3]。
職員が亡くなったイルクーツク近郊のシェレホフでは、地元当局が 3 日に町への移動を控えるよう SNS で呼びかけてすぐに投稿を消し、4 日には地元メディアがイルクーツクの複数の病院が隔離されたと報じたものの、当局は認めも否定もしていない [2]。ロシア大統領府のペスコフ報道官は 5 日、うわさや臆測ではなく監督庁の公式の情報だけを頼りにするよう国民に求めた [2]。
世界保健機関(WHO)のリンドマイヤー報道官は TASS 通信に対し、検査の進み具合や結果、接触者を追跡する理由、国際的な影響の有無などをロシアの保健当局と連絡を取って確かめているとしたうえで、現時点の評価を次のように語っている [4][5]。
入手できている非公式の情報に基づけば、一般の人々への公衆衛生上のリスクは低いとみられる。患者の接触者はすべて特定され、病気の兆候がないか観察されていると伝えられており、これまでに症状が出た人はいない。
TASS(WHO calls public health risk low after Irkutsk pneumonia case)
米国のルビオ国務長官も 5 日、「注意深く見守っている」と述べ、警戒すべき事態ではないとしつつ、目を離さずにおく理由はあると話しており、欧州委員会の報道官も「非常に注意深く」状況を見ていると明らかにした [1]。イルクーツク州のコブゼフ知事は、隔離されている家族や近親者が来週には退院できる見通しだと説明している [1]。
ペストを起こす菌はシベリアの野生の小型哺乳類やそのノミの間にいて、ロシアは 11 の地域を自然の流行地と公式に認めているが、2025 年に菌が見つかったのはそのうち 3 か所で、流行地では毎年数万人がワクチンの接種を受けている [1][3]。肺に感染する肺ペストはせきなどの飛沫で人から人へうつるものの、長い時間近くで接しなければうつりにくく、抗菌薬ですぐに治療しても致死率はリンパ節が腫れる腺ペストの 14% の 2 倍に達し、治療しなければ 100% になることもある [3]。
参考文献
- [1]The Moscow Times(Officials Seek to Reassure Public After Irkutsk Anti-Plague Institute Worker’s Death)
- [2]Meduza(Kremlin tells Russians to ignore ‘rumors’ of a possible plague outbreak in Siberia. U.S. and EU officials say they’re monitoring the situation.)
- [3]Meduza(Plague may have resurfaced in Russia. But this isn’t the Black Death.)
- [4]TASS(WHO in contact with Russia over situation in Irkutsk Region)
- [5]TASS(WHO calls public health risk low after Irkutsk pneumonia case)