加速したのに遅くなる - 衛星の軌道とエネルギー
衛星を進行方向へ加速すると、軌道は上がります。上がった先で測ると、加速する前より遅く回っている。
エネルギーは確かに増えているのに、速さは減る。円軌道のエネルギーの内訳を見ると、この食い違いの理由が出てきます。
円軌道の速さは半径だけで決まる
万有引力が向心力になる条件から、速さが出ます[1]。
半径が大きいほど遅い。高度 の国際宇宙ステーションは中心から で、 になります[1]。
静止衛星は なので [4]。半径が 倍で、速さは半分以下に落ちる。
エネルギーの内訳
運動エネルギーは を入れて出します。
位置エネルギーは無限遠を基準にとった形。
足すと、位置エネルギーのちょうど半分が打ち消されて残ります[2]。
は の大きさの半分、 は と同じ大きさで符号が逆。この つの関係が、円軌道ではつねに成り立ちます[2]。

エネルギーが増えても速さは減る
半径を から へ広げると、全エネルギーは次のぶんだけ増えます。
いっぽう なので、運動エネルギーは同じ量だけ減る[2]。位置エネルギーはその 倍増えています。
加えたエネルギーの 倍が高さに変わり、 倍ぶんが速さから持ち出される。差し引きで 倍が増えた勘定になります。
加速したのに遅くなるのは、この配分のため。加速そのものは一瞬で、遅くなるのは上がりきったあとの話です。
空気抵抗でも同じことが起きる
低い軌道の衛星は、わずかな大気に押されてエネルギーを失います。ふつうの摩擦なら遅くなるはずのところ。
ところが実際には速くなる。エネルギーが減れば が小さくなり、 が大きくなるからです。
この食い違いは衛星のパラドックスと呼ばれ、 年代から知られています。抵抗が仕事をした結果として、速さが増えるという形になる。
そして低いほど大気が濃いので、抵抗はさらに増える。落ち始めると加速度的に落ちていきます。
全エネルギーは増える。速さは減り、周期は延び、位置エネルギーが 倍のぶん増える
全エネルギーは減る。速さは増え、周期は縮み、位置エネルギーが 倍のぶん減る
軌道を上げる手順
半径 の円から半径 の円へ移るには、 回の加速が要ります[3]。ホーマン遷移といい、燃料がいちばん少なくて済む方法です。
回目は出発する円軌道の上で行い、両方の円に接する楕円へ乗せる。 回目は楕円の遠い側へ着いたところで行い、円に戻します。
途中の楕円では、半長軸が つの半径の平均になります[3]。
回目の加速だけで止めると、衛星は楕円を回り続けて出発点まで戻ってきます。円にするには、いちばん遠いところでもう一度加速する必要がある。
例:宇宙ステーションの高さから静止軌道へ
から へ移します。楕円の半長軸は 。
楕円の近い側での速さは なので、 回目の加速はこの差になります。
遠い側まで来ると まで落ちています。ここで円にするには が要る。
合計で [4]。 回とも加速しているのに、着いた先の速さは出発点より も遅くなっています。
移動にかかる時間は楕円の半周ぶんで、およそ 時間になる[3]。
回目の加速を省くと、衛星は遷移軌道を回り続けます。遠い側では高度が上がっていても、半周すればまた元の高さへ戻ってくる。
出発する円と目標の円の両方に接する楕円。近い側が出発点、遠い側が目標の高さになる。
追いつくには減速する
前を飛ぶ宇宙船に追いつきたいとき、加速すると追いつけません。軌道が上がって周期が延び、かえって遅れる。
いったん減速して低い軌道へ落ちると、周期が縮んで先に進みます。追い越してから加速して高度を戻す。
宇宙船のドッキングがこの手順を踏むのは、速さと軌道の高さが逆に効くためです。日常の追い越しとは、必要な操作が反対になる。
エネルギーと速さの向き
円軌道の衛星に、進行方向へ短く噴射して全エネルギーを増やしました。落ち着いた先の新しい円軌道について、正しいものはどれですか。
- 速さも周期も増える
- 速さは増え、周期は減る
- 速さは減り、周期は増える
- 速さは減り、周期も減る















全エネルギーが増えると E=−GMm/(2r) から r が大きくなります。v=GM/r は r とともに減り、周期 T=2πr3/GM は増える。運動エネルギーは K=−E なので、増やしたエネルギーと同じ量だけ減ります。