万有引力の位置エネルギーはなぜ負になるのか?基準を無限遠にとる
地表付近では位置エネルギーを と書きます。高いところほど大きく、値は正。
遠くまで扱うときは形が変わります。
いつでも負です。同じ位置エネルギーなのに符号が逆になる。違うのは物理ではなく、 をどこに置いたかだけです[2]。
位置エネルギーは差でしか意味を持たない
位置エネルギーは、 点のあいだの差だけが物理に効きます。どこを と決めるかは自由で、決め方を変えても力は変わりません。
力は の傾きから出るためです。
定数を足しても傾きは動きません。 でも でも、出てくる力は同じ です。
地表付近なら、地面を にとるのが自然でした。基準が近くにあって、 もほぼ一定だからです。
遠くまで扱うと地表を基準にしにくい
高度が上がると が小さくなります。 は を一定と見た近似なので、遠くでは使えません。
かといって高さごとに を変えると、式が場所ごとに違ってしまう。 本ですませたい。
そこで、力が完全に になる場所を基準にとります。万有引力は距離の 乗に反比例するので、無限に遠ざけたところで になる[1]。
無限遠を とすれば、どの天体を相手にしても同じ形の式が使えます。
仕事から式を出す
距離 にある質量 を、無限遠までゆっくり運ぶのに要る仕事を計算します。
正の値です。引力に逆らって外へ運ぶので、こちらが仕事をする側になる。
運び終わった先が で、運ぶのに だけ要った。だから出発点の位置エネルギーは、その分だけ低い場所にあります。
負の符号は「無限遠より下にいる」という意味です[2]。深さを負の数で表しているのと変わりません。
負であることが束縛を表す
力学的エネルギー の符号で、逃げられるかどうかが決まります[1]。
なら、 がどこかで になる距離があります。そこから先へは行けないので、ある半径の内側に閉じこめられる。
なら、無限遠にちょうど速さ で届きます。 なら、無限遠でもまだ速さが残っている。
無限遠まで届かない。ある距離で折り返す。惑星や衛星がこの状態
無限遠まで届く。二度と戻らない。探査機を送り出すときはこちらにする
「束縛されているかどうかが符号で分かる」という言い方は、無限遠を にとったときだけ成り立ちます。基準を変えれば境目の数も変わる。
基準の選び方が自由であることと、この言い方が便利であることは両立しています。便利な基準を選んだ結果として、符号に意味が生まれた。
mgh はどこから出てくるのか
地表からの高さを として、 を代入します。
なら と近似できます。
第 項は定数で、第 項の係数 が地表の です。定数を捨てれば が残ります[2]。
は別の法則ではなく、 を地表付近で切り取った形でした。定数を捨てた結果として、符号が正に見えているだけです。
例:近似はいつ崩れるか
正しい差と の比は になります。地球の半径は 。
| 高さ | のずれ | |
|---|---|---|
高いビルや山の高さなら、ずれは有効数字に乗りません。 で十分です。
国際宇宙ステーションの高度になると ずれます。 を持ち上げるのに要る仕事は、正しくは 。 で計算すると と出て、 ほど多く見積もることになります。
が大きめに出るのは、高いところでは が小さくなっているのに、地表の値を使い続けているからです。
高度 での重力加速度は ほど。地表の で通してしまうと、そのぶん仕事を多く数える。
例:地球と月のあいだ
地球と月を結ぶ線の上では、 は両方からの寄与の和になります。地球に近いほど地球の項が深く、月に近いほど月の項が深い。
あいだのどこかに、 がいちばん浅くなる点があります。傾きが の点なので、そこでは引力がつり合っている。
質量比が なので 。地球中心から 、つまり約 万 の位置です。
地球と月の距離が 万 なので、 割ほど進んだところ。ここを越えれば、あとは月へ落ちていきます。
峠を越えるまでが上りで、越えたら下り。位置エネルギーの形が、そのまま地形の断面のように読めます。
符号の確かめ方
計算した が正になったら、まず式の符号を疑います。無限遠を基準にとるかぎり、引力による位置エネルギーは負にしかなりません。
差のほうは正にも負にもなります。遠ざかれば 、近づけば 。 そのものと を取り違えると、ここで向きを間違えます。
もう一つの確かめは大きさです。地表の なら 、脱出に要るエネルギーがちょうどこの大きさになります。
脱出速度から を計算すると 。一致しました。
無限遠を基準にとったとき、地球を回る人工衛星の力学的エネルギーはどうなりますか。
- 正になる
- 負になる
- になる
と は別々の式ではなく、同じ関数を違う場所から見たものです。基準を無限遠へ移した瞬間に、符号が束縛の有無を語り始めます。















軌道に留まっているということは、無限遠まで届かないということです。E≥0 なら戻ってこないので、束縛されている衛星は E<0 になります。