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こまの歳差運動(倒れる代わりに向きを変えている)

床に立てたコマを、回さずに手を離せば倒れます。回してから離すと倒れません。軸はゆっくり円を描き、しばらくそのまま立ち続ける。

重力は同じ大きさではたらいています。支点まわりの力のモーメントも同じ。違うのは、コマが角運動量を持っているかどうかだけです[1]。

力のモーメントは角運動量を書き替える

回転の運動を決めるのは、次の 本です[3]。

が角運動量、 が力のモーメント。左辺は の変化で、右辺と同じ向きを向きます。

大事なのは、これがベクトルの式だということ。 は の大きさではなく、 そのものを書き替えます。

止まっているコマ

回っていないコマの角運動量は です。ここに重力のモーメントが加わると、 は から の向きへ育ちます。

の向きは、コマが倒れる向きの回転を表しています。だから が育つほど倒れる回転が速くなる。

そのまま横倒しになります。ふつうに倒れるという言い方が、ベクトルの言葉ではこうなる。

回っているコマ

回しておくと、 は最初から軸に沿って大きな値を持っています。

は なので、軸とも重力とも直角を向く。つまり と が直角です[1]。

直角な向きに足されると、ベクトルは長さを変えずに向きだけを変えます。円運動の速度と加速度の関係と同じ構図です。

軸は倒れる代わりに、鉛直軸のまわりを回り始めます。これが歳差運動です。

歳差の速さ

軸が鉛直から角 だけ傾いているとします。支点から重心までの距離を 、質量を とすると、力のモーメントの大きさは です[1]。

短い時間 のあいだに、 の先端は だけ横へ動きます。先端が描く円の半径は 。

が約分で消えました。歳差の角速度は次のようになります。

傾きに依存しません。深く傾けても浅く傾けても、まわる速さは同じです[1]。

速く回っているとき

が大きいので は小さい。軸はゆっくり円を描き、倒れる気配がない

回転が落ちてきたとき

が小さくなり が大きくなる。歳差が速くなり、やがて倒れる

コマが止まりぎわに急にふらつき出すのは、この反比例のためです。摩擦で が落ちるほど、歳差が加速する。

例:円板の歳差を計算する

質量 、半径 の円板が毎秒 回転しています。支点から重心までは [1]。

力のモーメントは 。

周期にすると 秒。円板は毎秒 回転しているのに、軸のほうは 秒かけて 周します。

この つの速さが大きく離れていることが、上の式を導くときの前提でした[1]。近い値になると、軸が上下に細かく揺れる動きが混ざってきます。

歳差の式は、歳差が自転よりずっと遅いという条件のもとで成り立ちます。

条件を外すと章動と呼ばれる小さな上下動が加わり、軸の先端は波打つ円を描く。

押した向きと動く向きがずれる

回転する車輪の軸を手で持ち、傾けようと押してみます。押した向きには動きません。直角の向きへ逃げていく。

大学の講義では、回転する自転車の車輪と回転台を組み合わせて見せる実演が定番です[4]。車輪を横に倒すと、台のほうが回り出す。

原因は同じで、加えたモーメントが の向きを変えるためです。直線運動の感覚では、押した向きに動くのが当たり前でした。回転ではそれが成り立ちません。

軸に力のモーメントを加える

角運動量ベクトルが直角に押される

軸は押した向きと直角へ動く

例:地球も歳差している

地球は自転で赤道側がふくらんでいます。自転軸が公転面に対して傾いているので、このふくらみは太陽や月に対して斜めを向いている[2]。

太陽と月の引力は、ふくらみの近い側と遠い側で少し違います。この差がモーメントになり、傾きを起こす向きにはたらく。

地球は自転しているので、傾きが直るのではなく歳差が起きます。自転軸の向きが、 年ほどかけて空を 周する[2]。

いまの北極星はこぐま座の 星ですが、 年前はりゅう座の星でした。 年後にはこと座のベガが近くに来ます。

春分点も星座の上をゆっくり移動します。占星術の星座と、実際に太陽が入る星座がずれているのはこのためです。

保存と歳差は別の話

外からのモーメントが なら、角運動量は大きさも向きも変わりません。回っているものが姿勢を保つのはこの場合です。

歳差はモーメントが でない場合に起きます。大きさは変わらず、向きだけが変わる。

モーメントが なら、 は完全に動きません。
モーメントが と直角なら、向きだけが変わります。
モーメントが と平行なら、大きさだけが変わります。

コマの場合、重力のモーメントはちょうど 番目にあたります。軸を傾けたまま回している限り、この直角の関係が保たれ続ける。

大きさの見当をつける

の形を、極端な場合で確かめます。

とすれば 。無限に速く回るコマは、まったく歳差せずに立ち続ける。

とすれば 。式が破れる場所で、実際には倒れます。導出の前提が成り立たなくなったためです。

でも 。無重量の宇宙船の中では、コマは向きを変えずに回り続けます。どれも予想と合いました。

コマの回転を 倍速くしました。歳差運動の周期はどうなりますか。

  • 半分になる
  • 倍になる
  • 変わらない
__RESULT__

なので、 が 倍なら歳差の角速度は半分。周期はその逆数なので 倍に伸びます。速く回るほどゆっくり回る。

倒れる代わりに向きを変える。回転しているものは、加えられた力に対してこの答え方をします。

参考

11.5: Precession of a Gyroscope/Book:_University_Physics_I_-_Mechanics_Sound_Oscillations_and_Waves_(OpenStax)/11:__Angular_Momentum/11.05:_Precession_of_a_Gyroscope). University Physics I, OpenStax / Physics LibreTexts.
David Jeffery. *The Physics of Axial Precession*. Department of Physics and Astronomy, University of Nevada, Las Vegas.
Jimmy Roussel. *Théorème du moment cinétique*. Femto-Physique, cours de mécanique classique.
Drehimpulserhaltung. Vorlesungssammlung des Fachbereichs Physik, Universität Konstanz.
回さずに立てたコマは倒れ、回してから離したコマは倒れません。重力も、支点まわりの力のモーメントも同じです。違うのは角運動量を持っているかどうかだけ。モーメントは角運動量ベクトルを書き替えるので、それが直角を向いていれば長さは変わらず向きだけが回ります。歳差の角速度が傾きによらないこと、速く回すほどゆっくり回ること、止まりぎわに急にふらつく理由、そして地球の自転軸が 26000 年で空を 1 周することまで。