物体が倒れる条件と滑る条件〜摩擦係数と重心の高さ
板の上に箱を置き、板をゆっくり傾けていきます。ある角度で箱は動き出す。ずるっと滑り落ちるか、ごろんと倒れるか。
どちらが起きるかは、摩擦係数と箱の形の比べ合いで決まります[1]。重さは効きません。
滑り出す角は摩擦係数だけで決まる
斜面に置いた物体には、斜面に沿う向きに がかかります。押しつける力は なので、静止摩擦の上限は 。
動き出すのは、下向きの成分が上限を超えたときです。
質量が消えました[3]。重い箱でも軽い箱でも、滑り出す角は同じ。この角を摩擦角といいます。
なら でおよそ 度になる[3]。
倒れる角は箱の形だけで決まる
倒れるかどうかは、重心から真下へ引いた線がどこを通るかで決まります[2]。線が底面の内側を通っているうちは倒れません。
底面の下側の端を越えた瞬間に、その端を軸として回り始める。
幅 、高さ の一様な箱なら、重心は底面から 、下側の端から の位置にある。境目の条件はこうなります。
こちらには摩擦が入りません。細長い箱ほど倒れやすく、平たい箱ほど倒れにくい。

先に来るほうが起きる
つの条件は、どちらも の大小で書けています。だから比べるのは と だけ[1]。
のほうが小さければ、先に摩擦の限界が来て滑ります。 のほうが小さければ、先に重心の線が端を越えて倒れる。
つがちょうど等しいときは、滑り出しと倒れ始めが同じ角度でそろう。
例:同じ箱を 2 つの床に置く
幅 、高さ の箱を考えます。形の比は なので、倒れる角は の 度になる。
摩擦係数が の床なら、滑り出す角は で 度です。 度のほうが先に来るので滑る。
摩擦係数が の床では、滑り出す角が 度になります。 度で先に重心の線が端を越えるので、こちらは倒れる。
同じ箱でも、床が変われば結果が入れかわります。箱の側を変えても同じで、高さを 倍にすれば が半分になり、倒れやすくなる。
横から押す場合も同じ比べ方になる
水平な床に置いた箱を、高さ のところで水平に押します。滑らせるのに要る力は 。
倒すのに要る力は、下側の端まわりのモーメントで決まります[2]。押す力のモーメント が、重力のモーメント を超えたとき。
小さいほうの力で先に起きる。押す位置が高いほど が稼げるので、倒れるほうが起きやすくなります。
例:高いところを押す
質量 、幅 の箱を、高さ で押します。床の摩擦係数は 。
滑らせるには で が要る。倒すほうは次のようになります。
のほうが先に届くので、箱は倒れます。低いところを押せば結果は変わる。押す高さが なら倒すのに 要り、先に滑り出す。
家具を動かすとき下のほうを押すのは、この計算どおりの知恵です。
摩擦の上限が先に来た場合。条件に箱の形は入らず、 だけで決まる
重心の線が底面の端を越えた場合。条件に摩擦は入らず、 と の比だけで決まる
車が横転するとき
同じ考え方が車にも当てはまります。カーブで外向きに効く加速度が大きくなると、内側のタイヤが浮く。
左右のタイヤの間隔を 、重心の高さを とすると、境目は です[4]。この値を静的安定係数といい、乗用車でおよそ 、車高の高い車では ほどになる[4]。
半径 のカーブなら、 の車で 、 の車で が目安になる。
ただし乾いた舗装路のタイヤの摩擦係数は ほど。 より小さいので、ふつうは横転より先に横滑りが起きます。
縁石や砂利で横滑りが急に止められると、そこが軸になって転がる。車高の高い車の横転が問題になるのは、この止められ方が起きたときです。
静的安定係数が大きいほど倒れにくい。重心の高さを下げるか、左右のタイヤの間隔を広げるかの つが効きます。
車体と積み荷を合わせた重心の、地面からの高さ。荷物を屋根に積むと上がり、安定係数はそのぶん下がる。
押す高さを変えると
幅 、高さ の箱が、摩擦係数 の床に置いてあります。この箱を水平に押して倒すには、押す高さをいくらより高くする必要がありますか。
- より高く
- より高く
- より高く
- 高さによらず倒れない
















倒すのに要る力は mgb/(2a)、滑らせるのに要る力は μmg です。前者が小さくなる条件は b/(2a)<μ なので、a>b/(2μ)=0.60/0.60=1.0 m。箱の高さ 1.5 m の範囲に収まっているので、上のほうを押せば倒せます。