相対速度と川を渡る船(雨が斜めに当たる見え方とベクトルの引き算)
止まっているときは真下に降っていた雨が、走り出すと前から顔に当たります。雨の降り方は変わっていない。変わったのは、見ている側の速度です。
ある観測者から見た速度を相対速度といいます。地面から見た速度と、動く人から見た速度は別の量。どちらが正しいという話ではなく、どの立場で測った値かという話になる。
相対速度は速度の引き算
地面から見た速度がわかっているとき、 から見た の速度は差でとれます[1]。
見る側を引く。見られる側から見る側を引くので、順序を逆にすると向きが反対になります。
から見た と、 から見た は、大きさが同じで向きが逆。すれ違う 台の車が、たがいに同じ速さで近づいて見えるのはこのため。
一直線上なら符号だけで足りる
同じ直線上の運動では、向きを と で表せばベクトルを書かずに済みます。右向きを にとると決めてから計算する。
引き算の結果が なら相手は右へ、 なら左へ動いて見えます。
例:高速道路で追い越す
同じ向きに走る 台を考える。自分が 、前の車が です。
前の車は、自分から見て後ろ向きに で下がっていく。追い越しに時間がかかるのは、この値が小さいからです。
対向車線なら相手の速度は になる。
で近づいてきます。同じ の車でも、すれ違いが一瞬なのは相対速度が 倍あるから。
例:電車の中を歩く
で走る電車の中を、進行方向へ で歩きます。地面から見た速度は足し算になる。
後ろ向きに歩けば です。車内で歩く速さは、地面から見れば電車の速さに乗ったり引かれたりするだけ。
平面ではベクトルの引き算になる
向きがそろっていないときは、速さの数値を引くだけでは合いません[1]。成分に分けてから引きます。
作図でも出せます。 本の矢印の始点をそろえ、 の先から の先へ矢印を引く。それが から見た の速度です。

例:走ると雨が斜めに当たる
鉛直に で降る雨のなかを、水平に で走ります。地面を基準に成分を書く。
雨の速度は 、人の速度は です。上向きを にとりました。
人から見ると、雨は後ろ向きの成分を持つ。つまり前方から飛んでくる形になります。
鉛直からの傾きは、水平成分と鉛直成分の比で決まる。
傘を 度だけ前へ傾けると、雨に正面から向き合えます。速く走るほど角度は大きくなる。
止まると角度は に戻り、雨は真下から当たるようになります。傘の傾け方が速さで変わるのは、相対速度の向きが変わるから。
川を渡る船では 2 通りの渡り方がある
エンジンが決めるのは、水に対する船の速度です[4]。地面から見た速度は、それに流れの速度を足したものになる。
岸から見た速度を 、水に対する速度を 、流れの速度を と書きます[3]。
この足し算が、渡り方を 通りに分けます。船首を対岸へまっすぐ向けるか、上流へ傾けるか。
対岸へまっすぐ船首を向けた場合
川幅を 、静水での船の速さを 、流れの速さを とします。
川を横切る向きの速度成分は のままなので、渡る時間はいちばん短くなる[1]。
そのあいだ流れに乗って下流へ運ばれる。流される距離は次のようになります。
岸から見た航跡は斜めの直線。地面から見た速さは になります。
上流へ船首を傾けた場合
流れを打ち消すには、船の速度の上流成分を に等しくします。船首の傾きを とすると条件はこうなる。
このとき対岸へ向かう成分だけが残り、まっすぐ渡れます[1]。
でなければ が を超えて、この渡り方はできません。流れのほうが速い川では、どう船首を向けても下流へ流されます。
例:川幅 120 m を渡る
静水での船の速さを 、流れを とします。
まっすぐ船首を向けた場合、 で渡れます。流される距離は 。
上流へ傾けた場合は で です。渡る速さは になる。
秒よけいにかかります。時間を惜しむか、下流に流されるのを惜しむかという選択。
横切る成分が最大なので時間が最短。そのぶん流されて、着く場所は下流にずれる
流れを打ち消すので着く場所は正面。横切る成分が減るぶん、時間はよけいにかかる
どちらも間違いではありません。何を短くしたいかで選ぶだけ。試験では「最短時間」か「最短距離」かが必ず書いてあります。
加速度は見る立場を変えても同じ
等速で動く観測者へ乗りかえても、速度は一定量ずれるだけです。時間で微分すると、その一定量は消える[2]。
加速度が変わらないので、運動方程式の形も変わりません。等速で動く座標系がどれも慣性系になるのは、この性質から来ています。
一方、加速している観測者へ乗りかえると差が残ります。そこで見かけの力が要るようになる。
地面と電車のように、たがいに等速直線運動する つの座標系のあいだで座標と時刻を読み替える式を、ガリレイ変換といいます。
速度が一定で向きも変わらない運動。加速度が なので、この座標系から見ても運動方程式はそのまま成り立つ。
川の流れが速いとどうなるか
流れを打ち消せるかどうかは、船の速さと流れの速さの比で決まります。角度をいくら工夫しても、この比が を超えなければ足りない。
静水での速さが の船で、流れが の川を渡ります。真向かいの岸へ着けますか。
- 船首を十分に上流へ向ければ着ける
- どう船首を向けても着けない
- 川幅が狭ければ着ける
- 速さを上げずに角度だけで調整できる
















流れを打ち消すには sinθ=u/v=1.5 が要りますが、正弦が 1 を超えることはありません。船の速さが流れより遅いかぎり、上流成分は最大でも 2.0 m/s にしかならず、3.0 m/s の流れに負けます。川幅は関係ありません。