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脱出速度と第二宇宙速度|地球の重力を振り切る条件

上に投げたボールが戻ってくるのは、速さが足りないからです。速くすれば高く上がり、さらに速くすれば、もう戻ってこない。

その境目の速さを脱出速度といいます。地球の表面からなら秒速 で、第二宇宙速度とも呼ばれる[3]

エネルギーの符号が分かれ目になる

万有引力による位置エネルギーは、無限に遠い点を基準にとります。だから値はつねに負になる。

運動エネルギーと足したものが力学的エネルギー です。この符号が、戻るか戻らないかを決めます。

が負なら、どこかで運動エネルギーが尽きて折り返す。 以上なら、どこまで行っても速さが残る[1]

脱出速度を出す

無限に遠いところで速さが になる場合を考えます。そこでは運動エネルギーも位置エネルギーも なので、 になる。

出発点でも でなければなりません[1]

が両辺から消えます。

ロケットでも小石でも、必要な速さは同じ[4]。質量が大きいほど必要なエネルギーは増えますが、速さの条件は変わりません。

地表の g を使った形

という関係を使うと、身近な量だけで書けます。

地球の半径 を入れる。

秒速 です[3]。時速に直すとおよそ になる。

第一宇宙速度の √2 倍になっている

地表すれすれを回る速さは でした。第一宇宙速度を 、脱出速度を と書くと、 つは平方根 個ぶんだけ違います。

。周回する速さから、 パーセント上乗せすれば出ていける計算になります[3]

回り続けるのと出ていくのが、これほど近い値なのは意外に思えるところ。エネルギーで見れば 倍の差ですが、速さは平方根ぶんしか変わりません。

左の つは、いくら高く上がってもいつかは折り返します。右だけが折り返さない。境目は連続していて、 パーセント足りなければ戻ってきます。

向きは関係ない

脱出速度の式に角度は入っていません。真上でも斜めでも、その速さがあれば出ていける。

エネルギーだけで決まる条件なので、速度の向きは効かないためです。ただし斜めに撃つと地面や大気にぶつかるので、実際には使えません。

打ち上げが東向きに行われるのは、自転の速度を上乗せできるから。赤道では秒速 ほど得をします。

ほかの天体ではどうなるか

2.4 km/s
火星5.0 km/s
地球11.2 km/s
木星59.5 km/s
太陽617.5 km/s

月が小さいのは、質量が小さく半径も小さいからです[4]。地球の 分の ほどしかない。

アポロ計画の月着陸船が小さくて済んだのは、この差のおかげです。帰りに必要な速さが低ければ、燃料も減る。

太陽系の外へ出るには、太陽の重力も振り切る必要があります。地球の公転速度を利用しても、地表から秒速 が要る[3]。これを第三宇宙速度といいます。

大気が残るかどうかも脱出速度で決まる

気体の分子は熱運動でばらばらの速さを持ちます。平均の速さは温度と分子の質量で決まる[2]

この平均が脱出速度の 割を超えると、その気体は 億年のうちに半分以上が逃げてしまいます[2]。速い分子から順に抜けていくため。

大気の上層はおよそ です。水素分子ならこの式で秒速 、窒素分子なら秒速 になる。

地球の目安は 割で秒速 。窒素は残り、水素は残らないという結果になります[2]

月の目安は 割で秒速 です。窒素でも超えてしまうので、大気そのものが残りません。

地球

脱出速度が大きく、窒素や酸素の熱運動では届かない。軽い水素とヘリウムだけが逃げていく

脱出速度が小さく、どの気体も熱運動で届いてしまう。大気を保てず、真空に近い状態が続く

金星と火星の大気の濃さが極端に違うのも、この見積もりと重力の差から説明できます。同じ岩石惑星でも、質量が違えば残るものが変わる。

光さえ出られない大きさ

脱出速度の式で を光の速さ に置いてみます。

これより小さく押し込むと、光でも出ていけない計算になります。この半径をシュヴァルツシルト半径といいます。

地球の質量なら 、太陽の質量なら です。ビー玉ほどに縮めた地球が、それにあたる。

ニュートン力学で光を粒子として扱った計算と、一般相対性理論から出るシュヴァルツシルト半径は、偶然にも同じ式になります。

静止した球対称の天体まわりの時空を解いたときに現れる半径。中身の理屈は別なので、式が一致するのは結果だけの話になる。

速さが足りないとどうなるか

脱出速度に届かない打ち上げでも、物体はいったん高く上がります。どこまで上がるかは、エネルギーが尽きる位置で決まる。

地球の脱出速度の パーセントの速さで、真上へ物体を打ち上げました。この物体はどうなりますか。

  • 地球の重力圏を出ていく
  • 地球の半径の 倍あたりまで上がって落ちてくる
  • その高さで止まったまま浮かぶ
  • 地球を回る円軌道に入る
__RESULT__

エネルギーは で、 が脱出速度の 倍なら は負のまま。どこかで運動エネルギーが尽きて折り返します。 を使うと折り返す距離は でおよそ 。真上へ撃っているので円軌道には入りません。

まちがえやすいところ

脱出速度を超えないと宇宙へ行けないと考えると外します。周回するだけなら、もっと遅くて足りる。
第一宇宙速度の 倍が脱出速度だと思うと誤りです。正しくは 倍。
無限に遠くまで行くのに無限のエネルギーが要ると考えると合わない。有限の値で届きます。
斜めに撃つと必要な速さが増えると思うと外れる。条件はエネルギーだけで決まるので、向きは効きません。
月に大気がないのを、空気が作られなかったからと考えると外します。作られても保てない。
シュヴァルツシルト半径を天体の実際の大きさと思うと外れる。そこまで縮めた場合の話。

出典

Escape Velocity - Boston University, Physics 211
Escape of an Atmosphere - Astronomy Notes, Nick Strobel
Kosmische Geschwindigkeiten - Abi-Physik
Vitesse de libération - Techno-Science
無限に遠い点で速さが $0$ になる条件は、力学的エネルギーが $0$ になること。$\frac{1}{2}mv^2 = GMm/R$ を解くと $m$ が消え、$v = \sqrt{2gR}$ から秒速 $11.2\ \mathrm{km}$ が出ます。第一宇宙速度のちょうど $\sqrt{2}$ 倍で、撃つ向きは効かない。月の $2.4$ と地球の $11.2$ という差は大気が残るかどうかまで決めていて、平均の熱運動が脱出速度の $2$ 割を超えた気体は逃げていきます。$v$ を光の速さに置きかえるとシュヴァルツシルト半径が出てくる話まで。