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ロケットの推進を運動量保存と可変質量から考える

年のニューヨーク・タイムズは、ロケット研究者のゴダードを社説で嘲笑しました。真空では押し返す相手がないので、宇宙では進めないはずだ、という理屈です[3]

この理屈は誤っていた。ロケットが押しているのは空気ではなく、自分が捨てる燃料のガスです。同紙は 年後、アポロ 号が月へ向かう最中に訂正を出しています[3]

押す相手は自分の一部

閉じた系の運動量は変わりません。ロケットとガスをひとまとめに見れば、噴射の前後で合計は同じ。

ガスを後ろへ送り出せば、その運動量と釣り合うだけの運動量が前向きに残る。外に相手は要りません。

作用反作用で言いかえても同じになる。ガスを押した力の反作用が、ロケットを押す。空気は最初から関係していません。

速さの増え方は質量の減り方で決まる

質量 のロケットが、短い時間に だけのガスを、自分に対して速さ で後ろへ捨てるとします。運動量の釣り合いから次の関係が出る[1]

移項して積分します。 の積分が対数になるので、答えにも対数が現れる[2]

ツィオルコフスキーが 年に導いた式です[2] は燃料込みの質量で、 が燃え尽きたあとの質量にあたる。

効くのは差ではなく比になる。しかも対数なので、比を 倍にしても得られる速さは 倍になりません。

例:質量比 10 のロケット

液体水素と液体酸素の組み合わせでは、有効な排気速度が ほどになります[1]

質量比を 、つまり全体の 割を燃料にすると、次の値が出る。

第一宇宙速度にほぼ届きました[1]。ただし実際の打ち上げでは、重力に逆らって登るぶんと空気抵抗のぶんが余分に要ります。

必要な から に上がる。質量比 段では足りません。

段を切り離すと比が改善する

対数のせいで、燃料を増やしても速さは伸び悩みます。空になったタンクを積んだまま飛べば、その重さが最後まで分母に残るから。

そこで燃え尽きた段を捨てます[2]。捨てた瞬間に が小さくなり、次の段では新しい質量比で計算をやり直せる。

排気速度 段に分けた例を見ます[2]

合計で です。同じ質量を 段で飛ばすと にしかならず、同じ性能を出すには質量比 以上が必要になる[2]

作れる構造には限りがある。多段式が使われるのは、 段では比を稼げないためです。

推力は 1 秒あたりに捨てる質量で決まる

式を時間で見ると、推力が出てきます[1] 秒あたりに捨てる質量を と書く。

排気速度が同じなら、勢いよく捨てるほど強く押されます。 で毎秒 を出せば、推力は になる。

例:離陸できるかどうか

質量 のロケットにかかる重力は です。推力のほうが大きいので浮き上がる。

打ち上げ直後の加速度は小さくなる。燃料が減って質量が落ちるにつれ、同じ推力でも加速度は増えていきます。

推力が重力より小さければ、いくら噴射しても上がりません。飛行機と違って揚力に頼れないので、この条件は最初から満たしておく必要がある。

飛行機

翼で空気を押し下げて揚力を得る。空気のないところでは飛べない

ロケット

自分の燃料を後ろへ捨てて運動量をやりとりする。空気があってもなくても同じように進む

大気の中では空気抵抗が邪魔になるので、ロケットにとって空気はむしろ損になります。高いところまで登ってから加速するのは、そのぶんを避けるため。

質量が変わる系では、運動方程式をそのまま とは書けません。可変質量の扱いでは、出ていく質量が持ち去る運動量を別に数える必要がある。

時間とともに質量が変わる物体の扱い。ロケットのほか、雨を受けながら走るトロッコや、砂を落とす台車がこれにあたる。

燃料を 2 倍にすると

質量比 で飛ぶロケットがあります。構造の質量を変えずに燃料だけを増やし、質量比を にすると、得られる速さは何倍になりますか。

__RESULT__

で、 です。だから質量比を 乗すると速さはちょうど 倍。燃料を 倍ではなく 倍に増やしてこの結果になるので、伸び方はかなり鈍い。多段式が必要になる理由がここにあります。

出典

Ideal Rocket Equation - Beginner's Guide to Aeronautics, NASA Glenn Research Center
Die Raketengrundgleichung - Bernd Leitenberger, Raumfahrt
Robert H. Goddard and The New York Times - Astronautics Now
押している相手は空気ではなく、自分が捨てる燃料のガス。$m\,dv = -u\,dm$ を積分すると $\Delta v = u \ln(m_0/m_1)$ になり、効くのは質量の差ではなく比になります。排気速度 $3.4\ \mathrm{km/s}$ で質量比 $10$ なら $7.8\ \mathrm{km/s}$。対数なので比を $2$ 乗しても速さは $2$ 倍にしかならず、そこで段を切り離して比を作り直します。推力 $F = u\dot{m}$ と離陸の条件、$1920$ 年のニューヨーク・タイムズが $49$ 年後に訂正を出した経緯まで。