二体は解けるのに三体は解けない(ラグランジュ点と宇宙望遠鏡)
たがいに引き合う つの天体の運動は、紙と鉛筆で解けます。座標を重心と相対位置にとり直すと、連立していた式が分かれるためです[3]。
天体を つ足すと、この手が通じなくなります。 体の一般の運動を、初等関数で書き下した式は知られていません。
数が つ増えただけで、問題の質が変わる。その境目に何があるのかを見ます。
二体が解ける仕組み
体では、重心の動きと相対的な動きが完全に分かれます[4]。
重心は外力がなければ等速直線運動。残る相対運動は、換算質量を持つ 質点が中心力を受ける問題になります。
中心力なら角運動量が保存し、運動が平面に収まる。エネルギーと角運動量の つを使えば、軌道が円錐曲線として書き下せます。
保存する量の数が、変数の数に対して足りていました。だから積分で最後まで進める。
三体では足りなくなる
体の位置と速度を並べると、変数は 個になります。対して保存量は、運動量、重心の初期位置、角運動量、エネルギーの合計で 個。
体のときと違って、残りを埋める量が見つかりません。 世紀末には、代数的な形の保存量はこれ以上ないことが示されました。
解が存在しないという意味ではありません。初期条件を決めれば運動は 通りに決まります。決まった運動を、有限個の記号で書き下せないだけです。
分離できる。軌道は楕円、放物線、双曲線のどれかになり、式で書ける
分離できない。運動は決まっているが、一般の場合を式で書き下す方法が知られていない
特別な配置なら解ける
一般には書けなくても、特別な初期配置なら解けます。 世紀にオイラーとラグランジュが見つけました。
つは、 体が一直線に並んだまま、全体が剛体のように回る形。もう つは、 体が正三角形を保ったまま回る形です。
どちらも配置の形を変えずに回り続けます。相対的な位置関係が固定されるので、 体の円運動と同じ扱いになる。
制限三体問題
番目の質量が、ほかの つに比べて無視できるほど小さい場合を考えます。探査機や小惑星がこれにあたる[1]。
番目は 天体から力を受けますが、 天体には影響しません。すると 天体はふつうに円軌道を回り、その中を 番目が動く問題になります。
天体といっしょに回る座標系へ移ると、 つは止まって見えます。この系では重力に遠心力が加わり、 つをまとめた有効ポテンシャルが書ける[1]。
その斜面の上を 番目が転がっていく、という絵になります。ただしコリオリの力が加わるので、単純に低いほうへ落ちるとは限りません。
5 つの停留点
有効ポテンシャルの傾きが になる場所が つあります。ラグランジュ点と呼ばれ、そこに置いた物体は 天体との位置関係を保ったまま回り続けます[1]。
つは 天体を結ぶ直線の上にあります。あいだが 、小さいほうの外側が 、大きいほうの外側が 。
残る つは、 天体と正三角形をつくる位置です。 が公転の進行方向側、 が後ろ側で、どちらも 離れています。
安定なのは 2 つだけ
直線上の 点は不安定です。峠の鞍のような形をしていて、ある向きには谷、直角の向きには尾根になっている[1]。
少しずれると、そのまま離れていきます。留まりたければ、ときどき軌道を修正する必要がある。
正三角形の 点は安定です。ずれても戻ってくる[1]。ここではコリオリの力が効いていて、離れようとする動きを曲げて連れ戻します。
安定な 点には、自然に物が集まります。木星の軌道では、木星の 前と 後ろに小惑星の群れが居座っている。
と が安定なのは、ポテンシャルの山の上にいながら戻ってこられるという珍しい状況です。
静止していれば転がり落ちる場所ですが、動き出すとコリオリの力が進路を曲げ、まわりを回るだけで済む。
例:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡
赤外線で観測する望遠鏡は、太陽と地球と月の光と熱をまとめて遮りたい。 つが同じ側に来る場所が要ります。
太陽と地球の がその場所です。地球から 万 離れていて、地球の外側にあたる[2]。
ここなら日よけを 枚張るだけで、 つの熱源を同時に隠せます。地球といっしょに公転するので、位置関係も崩れません。
ただし は不安定な点です。望遠鏡は点そのものにいるのではなく、そのまわりを か月かけて 周する軌道を描いています[2]。
軌道の大きさは、月が地球を回る軌道と同じくらい。放っておくと離れていくので、定期的に小さな噴射で位置を保っています[2]。
L2 は太陽と地球の外側に並ぶ
日よけ 1 枚で 3 つの熱源を隠せる
不安定なので周回軌道をとる
定期的な噴射で位置を保つ
太陽の反対側、地球の内側にも があります。距離はほぼ同じで、太陽を観測する衛星が置かれています。
解けないことが分かってからが始まり
一般解が書けないと分かったあと、研究が止まったわけではありません。
書き下せないなら数値で追う、という方向へ進みました。いまの探査機の軌道設計は、この延長線上にあります。
不安定な点のまわりの軌道や、 つの点から別の点へ移る経路も、計算で設計されています。手で解けないことと、使えないことは別でした。
もう つの方向が、解の性質そのものを調べる道です。初期条件のわずかな違いが時間とともに大きく育つことが、この問題から見つかりました。
数の感覚で確かめる
と が正三角形の頂点にあることは、力の向きから納得できます。
天体からの引力を合成すると、その和は必ず重心の向きを向きます。正三角形の位置では、その向きと重心までの距離の比が、円運動に必要な向心力とちょうど合う。
質量比を変えても正三角形のままなのは、この一致が距離の比ではなく形だけで決まるためです。太陽と木星でも、地球と月でも、 で変わりません。
太陽と地球のラグランジュ点のうち、置いた探査機が放っておいても留まりやすいのはどれですか。
相手が つ増えただけで、閉じた形の答えが消える。そのかわりに、点の配置や安定性という別の言葉で運動を語る道が開けました。
















直線上の L1、L2、L3 は鞍のような形で不安定です。正三角形の頂点にあたる L4 と L5 は、ずれてもコリオリの力で連れ戻されるので安定になります。