sin(30∘+60∘) は sin30∘+sin60∘ ではありません。
左は sin90∘=1。右は 21+23=1.366⋯。0.366 もずれる。
角の足し算は、そのままでは中へ入れません。正しく入るための式が加法定理[1]。
sin(α+β)=sinαcosβ+cosαsinβ
cos(α+β)=cosαcosβ−sinαsinβ
β を −β に替えれば引き算の形も作れます。sin は奇関数、cos は偶関数なので符号だけが変わる。
6 つまとめて
sin(α±β)cos(α±β)tan(α±β)=sinαcosβ±cosαsinβ=cosαcosβ∓sinαsinβ=1∓tanαtanβtanα±tanβ
sin は符号がそのまま、cos と tan は逆になります[2]。
cos の符号が逆になる理由は、cos0=1 で確かめられます。α=β と置いて cos(α−α)=cos2α+sin2α=1。
もし符号が逆だったら cos2α−sin2α になり、1 になりません。符号を忘れたらこの検算で決まる。
sin のほうも同じ手が使える。sin(α−α)=sinαcosα−cosαsinα=0 で、こちらも合う。
15 度の値を出す
15∘ は三角定規にありません。単位円にも 30∘、45∘、60∘ しか刻まれていない。
ところが 15∘=45∘−30∘。知っている 2 つの差で書けます。
sin15∘=sin45∘cos30∘−cos45∘sin30∘=22⋅23−22⋅21
計算すると 46−42=46−2。
cos のほうは符号が逆になるので足し算になる。cos15∘=46+2。
数値で確かめます。6≒2.449、2≒1.414 なので sin15∘≒0.259。
電卓の sin15∘ も 0.2588 で、同じ値になりました。
75 度と 105 度
75∘=45∘+30∘。今度は足し算の形を使います。
sin75∘=22⋅23+22⋅21=46+2。
sin75∘ と cos15∘ が同じ値になりました。75∘+15∘=90∘ なので、sin と cos がいれかわった形。
105∘=60∘+45∘ でも作れる。sin105∘=23⋅22+21⋅22=46+2。
sin105∘=sin75∘ になりました。105∘=180∘−75∘ なので、sin の値が一致する。
15∘ 刻みの角は、この 2 つの組み合わせですべて作れます。30∘ と 45∘ が種になっている。
| sin15∘ | 46−2 |
| cos15∘ | 46+2 |
| tan15∘ | 2−3 |
| sin75∘ | 46+2 |
| cos75∘ | 46−2 |
| tan75∘ | 2+3 |
tan15∘ と tan75∘ は積が (2−3)(2+3)=1。互いに逆数。
tan の加法定理
tan は分数なので、形が少し違う。
tan(α+β)=1−tanαtanβtanα+tanβ
導き方は割り算。cos(α+β)sin(α+β) の分母分子を cosαcosβ で割ります[2]。
分子は cosαcosβsinαcosβ+cosαsinβ=tanα+tanβ。
分母は cosαcosβcosαcosβ−sinαsinβ=1−tanαtanβ になる。
tan15∘ を計算してみます。tan45∘=1、tan30∘=31 で引き算の形。
1+311−31=3+13−1=2(3−1)2=24−23=2−3。
例:値だけが与えられたとき
α と β はどちらも鋭角で、sinα=53、cosβ=135 とします。
角そのものは有名角ではない。それでも sin(α+β) は計算できます。
まず足りない値を補います。鋭角なので符号はすべて正。cosα=54、sinβ=1312。
sin(α+β)=53⋅135+54⋅1312=6515+48=6563
cos も計算します。54⋅135−53⋅1312=6520−36=−6516。
sin が正で cos が負なので、α+β は第 2 象限。鋭角 2 つの和が鈍角になったと分かる。
検算も効きます。(6563)2+(6516)2=42253969+256=1。
2 倍角はここから作れる
β に α を入れるだけで 2 倍角の公式になります。
sin(α+α)=sinαcosα+cosαsinα=2sinαcosα。
cos(α+α)=cos2α−sin2α。別に覚える式ではありません[3]。
3 倍角も同じ。3α=2α+α と分ければ、2 倍角と加法定理の組み合わせで作れます。
加法定理は、三角関数の公式群のいちばん上流にあります。ここから下へ流れていく形。
加法定理
角の足し算を中へ入れる。上流にある 1 本で、ここから 2 倍角も半角も積和も作れる
2 倍角や半角
加法定理に特定の値を入れた結果。忘れても、上流に戻れば作り直せる
まちがえやすい点
cos の符号がいちばん多い誤りです。足し算のとき cos は引き算、引き算のとき cos は足し算。
「コスモス、サインコサイン」のような語呂もありますが、α=β を入れる検算のほうが確実に決まります。
tan の分母の符号も逆になる。tan(α+β) の分母は 1−tanαtanβ。
tanαtanβ=1 のときは分母が 0。このとき α+β=90∘ で、tan が定義できません。
角をばらす分け方もまちがえやすい。15∘ は 45∘−30∘ であって 30∘−15∘ ではありません。知っている角どうしに分ける。
cos105∘ の値はどれですか。
__RESULT__
105∘=60∘+45∘ と分けます。cos は引き算なので cos60∘cos45∘−sin60∘sin45∘=21⋅22−23⋅22=42−6 です。105∘ は鈍角なので cos が負になる点でも確かめられます。
tan の形も確かめます。
tanα=3、tanβ=21 のとき、tan(α+β) はどれですか。
__RESULT__
分子は 3+21=27、分母は 1−3×21=−21 です。割ると −1/27/2=−7 になります。分母を 1+tanαtanβ とすると 57 になってしまうので、符号の向きで答えが変わります。
角を知っている 2 つに割り、公式に入れて、符号を確かめる。
参考
Sum and Difference Identities. Algebra and Trigonometry 2e, OpenStax. É. Bouchet. Trigonométrie, Cours de PCSI, Proposition 1.8 と 1.11. S. Ober-Blöbaum. Trigonometrische und hyperbolische Funktionen, Mathematik für Chemiker, Universität Paderborn(Additionstheoreme とその帰結).
$\sin(30^\circ + 60^\circ)$ は $1$ ですが、$\sin 30^\circ + \sin 60^\circ$ は $1.366\cdots$ です。角の足し算はそのままでは中へ入れません。$15^\circ$ を $45^\circ - 30^\circ$ に割れば $\dfrac{\sqrt{6}-\sqrt{2}}{4}$ が出て、三角定規にない角の値まで手が届く。$\cos$ と $\tan$ だけ符号が逆になる理由は、$\alpha = \beta$ を入れて $\cos 0 = 1$ になるかを見れば決まります。$\sin\alpha = \dfrac{3}{5}$、$\cos\beta = \dfrac{5}{13}$ のように値だけ与えられた場合の解き方と、2 倍角がここから流れ出る仕組みまで。
105∘=60∘+45∘ と分けます。cos は引き算なので cos60∘cos45∘−sin60∘sin45∘=21⋅22−23⋅22=42−6 です。105∘ は鈍角なので cos が負になる点でも確かめられます。