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不等号は極限をとると弱まる……数列の極限と不等式の関係

、 とします。どの でも で、等号は一度も成り立ちません。

それでも極限は と で、等しくなります。 が に潰れました。

不等式は極限をとると弱まります。 は残りますが、 は残りません[1]。

弱い不等式は保たれる

と がどちらも収束し、ある番号から先で が成り立つとします[1]。

条件は「すべての で」である必要はありません。最初の何項かが逆でも、極限には効かない[1][2]。

強い不等式は残らない

が全部の項で成り立っていても、極限では等号になりうる[1]。冒頭の例がそれです。

ほかにも作れます。 ですが、極限はどちらも 。 でも、極限はどちらも です。

差 が に向かってしまうと、極限の側では区別がつきません。

なぜ潰れるのか

極限は、番号を十分先まで進めたときの様子だけを見ています。有限個の項がどうであっても結論は変わりません。

という事実は、各項について言えることです。その値が に近づくなら、極限の差は になる。

強い不等式は「各項で成り立つ」性質で、極限は「項の先の様子」を見る操作。この 2 つが噛み合っていません。

証明の筋

と置きます。差の数列の極限は四則の規則から になります[3][4]。

仮定から で、 はこの値 に収束します。

だと仮定します。幅を にとると、ある番号から先で 。

すると となり、 に反します。よって です。

背理法の中で を具体的に選ぶところがこの証明の要点になります。

符号は保たれる

逆向きの主張は成り立ちます。 なら、ある番号から先の項はすべて正です。

幅を にとると、その番号から先で になります。

この性質は商の極限を作るときに要ります。分母の極限が でなければ、そこから先の項も にならないので、割り算が定義できます。

極限が正でも、すべての項が正だとは言えません。

から始めて途中で正へ移る数列も作れる。保証されるのは番号の先だけ。

例:評価から極限を出す

の極限を求めます。 から次が出ます[1]。

両端が に向かうので、あいだの数列も です[1][2]。値そのものを求めずに済みました。

不等式は で書けば足ります。 にしても結論は変わりません。

例:上限を作って収束を示す

を考えます。 では なので、次の評価が立ちます[1]。

は増え続けて を超えません。上に有界で単調増加なので収束します[1][2]。

極限の値は ですが、この段階では「 以下のどこかに収まる」ことしか言えません。不等式は存在を示すところまでを担当します。

発散のほうも同じ

で なら です[1]。下から押し上げられるので、上の数列も逃げられません。

逆は言えません。 でも、 が収束したり振動したりする場合があります。

下から押す

で 。上の も発散する

上から押さえる

で 。下の も発散する

関数の極限でも同じ

が の近くで なら、両方の極限があるとき です。

では が成り立ちます。強い不等式です。

それでも では両方 で、等号になります。 も、この 2 つが同じ速さで へ向かうという話でした。

よくある誤り

から を導く。等号に潰れる場合があります。
すべての項で不等式が要ると考える。ある番号から先で足ります。
から を導く。 が反例です。
極限が正だからすべての項が正だと考える。保証されるのは番号の先だけ。
片方が収束することを確かめずに不等式を移す。両方の収束が前提です。
から を導く。向きが逆で、こちらは言えません。

すべての で が成り立ち、両方とも収束するとき、確実に言えるのはどれですか。

  • 極限は必ず一致する
__RESULT__

弱い不等式は保たれますが、強い不等式は保たれません。、 では極限が一致し、、 では一致しません。どちらの場合も は成り立ちます。

符号の側も確かめます。

のとき、確実に言えるのはどれですか。

  • すべての で
  • ある番号から先のすべての で
  • すべての で
__RESULT__

幅を にとれば、ある番号から先で 、つまり になります。最初の何項かは負でも、極限には影響しません。3 番目は、上から近づく数列と下から近づく数列のどちらもありうるので言えません。

不等式は極限へ移せます。ただし移す途中で が に弱まる。この 1 段落ちを忘れると、証明に穴が空きます。

参考

*Grenzwerte von Folgen und Funktionen*. Mathematik für Informatiker II, Freie Universität Berlin.
*Sequences*. Calculus Volume 2, OpenStax.
*Folgen und Grenzwerte*. Analysis-Skript, ETH Zürich.
Limit. Encyclopedia of Mathematics.
$a_n = 0$、$b_n = \frac{1}{n}$ ではどの項でも $a_n < b_n$ ですが、極限はどちらも $0$。$<$ が $=$ に潰れます。極限へ移せるのは $\leq$ までで、$<$ は残らない。不等式は全部の項で成り立つ必要がなく、ある番号から先で足ります。逆に極限が正なら、番号の先の項は必ず正になる。この符号の保存が、商の極限が定義できる根拠です。差の数列を作って背理法で示す証明、$\sum\frac{1}{k!} < 3$ から収束を出す使い方、$\sin x < x$ が $x \to +0$ で等号になる話まで。