解の存在と一意性(ピカールの定理)
微分方程式を解こうとするとき、そもそも解が存在するのか、存在するとして何個あるのか、という問いは本質的に重要です。この問いに答えるのがピカールの定理(Picard’s theorem)で、解の存在と一意性を保証する基本定理です。
初期値問題
次のような問題を初期値問題といいます。
微分方程式に加えて、ある点 を通るという条件を課しています。この初期条件によって、一般解に含まれる任意定数が決定されます。
ピカールの定理(リプシッツ条件版)
関数 が点 の近傍で連続であり、さらに に関してリプシッツ条件
を満たすとします。このとき、初期値問題の解は の近傍で存在し、かつ一意です。
リプシッツ条件とは
についての変化率が定数 で抑えられるという条件です。 が について偏微分可能で が有界なら、この条件は満たされます。
なぜ一意性が重要か
初期条件を与えれば解が1つに決まるということは、物理現象の決定論的な予測が可能であることを意味します。
定理が成り立たない例
リプシッツ条件が破れると、一意性が失われることがあります。
この方程式には (恒等的にゼロ)と の両方が解になります。 は で が発散するため、リプシッツ条件を満たしません。
ピカールの逐次近似法
ピカールの定理の証明には、逐次近似法が用いられます。積分方程式
に対して、初期近似 から出発し、
を繰り返すと、 が真の解に収束することを示せます。この方法は理論的な証明だけでなく、数値計算の基礎にもなっています。
実用上の意味
多くの物理・工学の問題では、 は十分滑らかで、ピカールの定理の条件を満たします。したがって、初期条件を与えれば解が一意に定まるという安心感のもとで計算を進められます。ただし、特異点や不連続点の近くでは注意が必要です。