ピカールの定理:微分方程式の解の存在と一意性はリプシッツ条件で決まる
を のもとで解くと、 も も答えになります。同じ出発点から 本。
原因は の での急さにあります。急さを抑える条件を足すと、解は 本に決まる[1]。
初期値問題
次の形を初期値問題といいます。
微分方程式に、解のグラフが点 を通るという条件を足した形。
微分方程式だけなら、任意定数を含む解が無数にあります。初期条件は、そこから 本を選ぶ役をする。
の一般解は です。 が を決め、 に絞られる。
リプシッツ条件
が の近くで連続で、さらに について次を満たすとします[1]。
は近傍で共通にとれる定数です。 を動かしたときの の変化が、 の変化の定数倍で抑えられる形になっている。
が について偏微分でき、その近傍で が有界なら、リプシッツ条件は平均値の定理から従います。
と のあいだの点で を当てはめると、そのまま不等式になる。
ピカールの定理
この条件のもとで、初期値問題の解は のある近傍にただ つ存在します[1]。
言えるのは つです。解があること、そして 本目がないこと。
例 1:リプシッツ条件を確かめる
から見ます。差をとると次のようになる。
で、全平面で成り立つ。どの初期条件からも、解はただ 本。
例 2:局所でだけ成り立つ
では です。 を有界な範囲に限れば有界で、 なら 。
として近傍で成り立ちます。局所では解がただ 本に決まる。
全平面では をとれません。 をいくらでも大きくできるため。
例 3:条件が破れる
では です。 で発散する。
を含むどの近傍でも、 を共通にとれません。リプシッツ条件は破れ、定理は使えない。
一意性が崩れる
冒頭の 本は、これで説明がつきます。さらに解を増やせる。
を つ選び、 では 、 では とつなぎます。この関数も解です。
で値も傾きも になり、なめらかにつながる。 を動かせば解は無数にある。
原点でリプシッツ条件が破れる、そのただ 点が、これだけの非一意を生みました。

同じことは でも起こります。
には と の 本があります。 なら 、 で一致する。
で が発散する。ここでも条件が破れている。
連続なだけなら存在は残る
リプシッツ条件が破れても、解が消えるとは限りません。
が連続でありさえすれば、初期値問題には解が少なくとも つあります[2]。ペアノの定理です。
失われるのは一意性のほうだけ。 の例が、まさにその形になっています。
つの定理で役割が分かれます。ペアノが存在をいい、ピカールが存在と一意性の両方をいう[2]。
ピカールの定理が当てられないことが、非一意を疑う唯一の合図になる場面もあります[4]。
例 4:解が有限の x で発散する
リプシッツ条件を満たしていても、定理が約束するのは近傍での存在だけです。
は変数分離で解けます。 を積分して 、初期条件から 。
この解は で発散し、そこから先へ延ばせません。 は各点の近くでリプシッツ条件を満たすのに、解のほうが有限の で止まる。
大域の存在をいうには、別の議論がいる。
リプシッツ条件が分ける
初期条件ごとに解がただ 本。少なくとも近くでは一意に決まる。 や が例。
同じ初期条件から複数の解が出うる。存在は残るが、一意性の保証がない。 や が例。
逐次近似法
証明と、解を作る手だてを兼ねるのが逐次近似法です[3]。まず初期値問題を積分の形へ書き直します。
両辺を から まで積分すると、微分方程式と初期条件が つの積分方程式にまとまる。
右辺へ近似解を入れ、左辺で次の近似を受けとる。初期近似は という定数。
リプシッツ条件のもとで、この列は真の解へ収束します[1]。
初期値問題
積分方程式へ書き直す
右辺へ入れて次の近似を作る
リプシッツ条件のもとで収束
例 5:逐次近似で指数関数が現れる
、 で試します。積分方程式は 。
前の段を右辺に入れて積分するだけです。 を積分して 、 を積分して と進む。
一般に です。指数関数のテイラー展開の部分和になっている。
各段が、答えの級数を 項ずつ書き足していく。
例 6:ほかの方程式で試す
、 では、積分方程式が です。
これは の展開の部分和。真の解も です。
、 も試します。積分方程式は 。
の部分和になっています。変数分離で解いても で、 つの道が同じ答えにたどり着く。
、 の解はいくつあるか。
- ちょうど つ
- つ以上ある
- つもない
存在区間を見積もる
近傍の広さも見積もれます[1]。 が箱 の上で と抑えられるとします。
この範囲では解が存在する。傾きが を超えないため、箱の上下の壁に着く前に進める幅が で止まる。

具体例で計算します。箱 、 の上で 、 を考える。
この箱では なので、、 です。
解は少なくとも で存在します。箱をとり替えれば も変わるため、 を最も大きくする箱を探す問題が残る。
例のまとめ
| 方程式 | リプシッツ | 解の様子 |
|---|---|---|
| 満たす | ただ 1 本 | |
| 満たす | ただ 1 本で | |
| 局所で満たす | 1 本だが で発散 | |
| 満たさない | 無数にある | |
| 満たさない | と など |
実際に扱う式では
物理や工学に出てくる は、多くが滑らかで も有界です。ピカールの定理の条件は自然に満たされる。
だから初期条件を つ決めれば解も 本に決まり、数値計算をそのまま進められます。
逐次近似法は、その数値解法の素朴な原型でもあります。オイラー法やルンゲ・クッタ法は、同じ積分方程式を別の刻み方でたどる方法。
のように滑らかでない点の近くでは、解が消えるのではなく一意性のほうが先に崩れます[4]。












y≡0 と y=x2/4 がどちらも解です。y=0 でリプシッツ条件が破れるため、ピカールの定理は一意性を言いません。