ラプラス変換の基本性質と主要公式
ラプラス変換は、微分方程式を代数方程式に変換する強力な道具です。この記事では、ラプラス変換と逆変換の定義を確認したうえで、計算の核となる基本性質と主要な変換公式を整理します。
ラプラス変換の定義
関数 ()に対し、ラプラス変換 は次の広義積分で定義されます。
変数 は通常「時間」を、 は複素数のパラメータを表します。被積分関数に減衰因子 がかかっているため、 が多項式的あるいは指数的に増大しても、 の実部が十分大きければ積分は収束します。
この積分が収束する の範囲を収束域と呼びます。たとえば のラプラス変換は で収束し、 となります。収束域の存在が保証される条件として、 が区分的に連続で、ある定数 に対して (指数位数の条件)を満たすことが十分条件として知られています。
基本関数のラプラス変換
まず、頻繁に使う関数のラプラス変換を定義から直接計算して確認しておきましょう。
定数関数 の場合:
べき関数 ( は正の整数)の場合:部分積分を 回繰り返すと
が得られます。たとえば , です。
指数関数 の場合:
三角関数 と は、オイラーの公式 を利用すると効率的に求まります。 の実部と虚部をとると
が得られます。
| 収束域 | ||
|---|---|---|
これらは微分方程式を解く際に繰り返し参照する基本公式です。
線形性
ラプラス変換は線形変換です。すなわち、定数 と関数 に対して
が成り立ちます。これは積分の線形性から直ちに従います。たとえば のラプラス変換は
と個別の変換の重ね合わせで求まります。線形性は当たり前のように見えますが、微分方程式の各項を独立に変換できるという点で、ラプラス変換の実用上きわめて重要な性質です。
微分のラプラス変換
ラプラス変換が微分方程式に有効な最大の理由は、微分が の掛け算に変換されるからです。 のラプラス変換を部分積分で計算すると
が得られます。 で となることを仮定しています。同様に 2 階微分は
となります。一般に 階微分では
です。
この性質は「 領域での微分が 領域での多項式の掛け算に変わる」ことを意味します。初期条件 が自動的に式に組み込まれる点が、初期値問題との相性がとくに良い理由です。
初期値が式に直接現れるため、一般解を求めてから初期条件を代入する手間が省ける。
この公式を使えば、たとえば , , という初期値問題は、両辺をラプラス変換して
と代数方程式に変わります。整理すると となり、部分分数分解と逆変換で が求まります。
積分のラプラス変換
微分と双対的に、積分のラプラス変換は による割り算に対応します。
これは微分の公式を に適用すれば示せます。 かつ なので となり、 が得られます。
。微分の階数が上がるごとに のべきが 1 つ増える。
。積分を 1 回行うごとに のべきが 1 つ減る。
微分方程式に積分項が含まれる積分微分方程式も、この性質のおかげで代数的に処理できます。
移動(第 1 移動定理)
に指数関数 を掛けると、 領域では平行移動が起こります。
証明は定義に戻れば明らかです。
この性質は減衰振動の処理で頻繁に使います。たとえば がわかっていれば
と を に置き換えるだけで求まります。
移動(第 2 移動定理)
を時間方向に だけ遅らせた関数を考えます。単位ステップ関数 ( で 、 で )を使って と書くと
が成り立ちます。 領域では という因子が掛かるだけです。
領域で を掛けると、 領域で の平行移動。減衰や成長を含む関数に使う。
領域で時刻 だけ遅延させると、 領域で が掛かる。スイッチのオン・オフや不連続入力に使う。
第 2 移動定理は、工学で扱う区分的に定義された入力信号を処理する際に不可欠な公式です。
領域での微分
を で微分すると、 領域では の掛け算に対応します。
一般に 回微分すると
です。たとえば の両辺を で微分すると
が得られます。変換表を暗記しなくても、基本公式から芋づる式に導ける点がこの性質の便利なところです。
逆ラプラス変換と部分分数分解
微分方程式を解く実際の手順では、 領域で代数的に を求めた後、逆ラプラス変換 で 領域に戻す必要があります。逆変換の計算では部分分数分解が中心的な役割を果たします。
たとえば
を逆変換する場合、まず部分分数に分解します。
を代入して 、 を代入して が得られます。したがって
です。分母に重根がある場合や、 のような既約二次因子が現れる場合も、対応する部分分数の型を使い分ければ同様に処理できます。
の形に分解し、 で逆変換します。
と展開します。 を使います。
平方完成して の形にし、 移動定理と の変換公式を組み合わせます。
主要公式の一覧
最後に、この記事で扱った性質をまとめておきます。微分方程式を解く際にはこれらの公式を組み合わせて使うことになります。
| 性質 | 領域 | 領域 |
|---|---|---|
| 線形性 | ||
| 微分 | ||
| 2 階微分 | ||
| 積分 | ||
| 移動 | ||
| 移動 | ||
| 微分 |
を求める最も効率的な方法はどれですか?
- 定義の積分 を部分積分で直接計算する
- を で微分して符号を反転する
- に第 2 移動定理を適用する
ラプラス変換の威力は、これらの性質を組み合わせることで、高階の線形微分方程式を機械的な代数計算に帰着できる点にあります。次の記事では、単位ステップ関数やデルタ関数といった不連続・特異な関数のラプラス変換を扱い、より広い範囲の問題に対応できるようにしていきます。
s 領域での微分の公式 L[tf(t)]=−F′(s) を使います。F(s)=s−21 を s で微分すると F′(s)=−(s−2)21 なので、L[te2t]=(s−2)21 が得られます。