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積分因子を掛けると 1 階線形微分方程式が積の微分に化ける

未知関数とその導関数が 1 次で現れる 1 階の方程式を、1 階線形微分方程式といいます[2]。標準形は次のとおり。

このままでは変数を分けられません。ところが を掛けると、左辺がまるごと積の微分に化ける[1]

この掛ける相手を積分因子といいます。1 階線形はこれ 1 本で片付く型。

まず標準形に直す

の形で与えられたら、 で割って の係数を にします。これが標準形。

割る前に積分因子を作ると、 を読み違える。 が定数でないときほど落としやすい手順[4]

となる点では、この割り算ができません。そこで区間が切れる。

積分因子はどこから出てくるか

標準形の両辺に、まだ正体の分からない を掛けます。

左辺が と一致してほしい。両者を見比べると、要求は 1 本の式に落ちる[1]

これは についての変数分離形です。解くと が出てくる。

積分因子は天下りに与えられる呪文ではなく、「左辺を積の微分にしたい」という要求から決まる関数。

一般解の形

積分因子を掛けたあとの式は です。両辺を積分すれば が求まる。

公式として覚えるより、積分因子を掛けて積の微分にまとめる手順を覚えるほうが早い[1]

積分因子の定数は落としてよい

に積分定数 を付けると、積分因子が になる。定数倍しても両辺に同じだけ掛かるので、消えて残らない[1,4]

対数の絶対値も同じ扱いです。 なら 、符号が二乗で消えます。

積分因子は 1 つ見つければ足りる。いちばん簡単なものを選ぶ。

例: を解く

なので です。両辺に掛ける。

積分して となる。

第 1 項が特殊解、第 2 項が斉次解です。右辺の と斉次解の が、はっきり別の役をしている。

例: を解く

まず標準形へ直します。 として で割る。

から です。掛けると左辺が にまとまる。

積分すると で、両辺に を掛けて次を得ます。

割る前の形のまま と読むと、 になって行き詰まる。標準形へ直す一手が効いている。

解の集合はアフィン空間になる

特殊解を 1 つ とすると、すべての解は に斉次解を足した形で書ける[3]

斉次方程式 の解は 1 次元の直線をなし、そこを だけ平行移動した集合が解の全体。ベクトル空間ではなくアフィン空間です[5]

線形代数の と同じ構造。特殊解 1 つと斉次解の全体が分かれば、解が尽きる。

定数変化法

積分因子とは別の道からも、同じ答えに着く。斉次解 の定数 を、 の関数に格上げする[3]

と置いて代入すると、 の微分だけが残ります。積分因子を掛けたときと、まったく同じ式になる。

名前は違っても中身は 1 つ。2 階以上では定数変化法のほうが伸びるので、こちらの言い方も覚えておくと後で効く。

canvas: 置き場が受け取りませんでした

例:定数変化法で解く

を定数変化法で解きます。斉次方程式 の解は

を関数に替えて と置き、代入します。

を含む項が打ち消し合い、 だけが残る。ここが定数変化法の勘どころ。

を部分積分して となる。

積分因子で解いた場合とまったく同じ答えです。

積分因子

左辺を にまとめてから積分する。1 階では手数が少ない。

定数変化法

斉次解の定数を関数に格上げして代入する。2 階以上や連立系へそのまま伸びる。

1 階のうちは積分因子で十分ですが、先を見ると定数変化法の考え方が効いてくる。

存在と一意性は区間ごとに

が区間 で連続なら、 を満たす解が 全体でただ 1 つ存在します[3,6]

局所的な主張ではありません。非線形では解が途中で発散することがありましたが、線形ではそれが起こらない。

区間を切るのは係数の不連続だけ。標準形にしたとき が飛ぶ点で、解の生きる区間が分かれる。

canvas: 置き場が受け取りませんでした

例:区間が切れる

を考えます。左辺はすでに なので、積分因子は

とすると で、解は です。

この解が意味を持つのは だけ。標準形 の係数が で飛ぶので、初期値を含む区間はそこで止まる。

側にも同じ形の解がありますが、定数は独立です。1 本の解として左右をつなぐことはできない。

初期値を組み込んだ書き方

積分に区間を書き入れると、初期条件が式の中に入る[5]

を入れると指数が 、積分が になり、 が出ます。定数を後から決める手間が消える。

問題 1:定数係数

を解け。

解答 1

から です。

積分して となる。

が特殊解で、 を大きくするとどの解もここへ寄る。右辺が定数なら、特殊解も定数と見当を付けられる。

問題 2:係数が の関数

で解け。

解答 2

なので 、したがって です。

積分すると になる。

を掛けたあと左辺が積の微分になっているかどうかは、展開して確かめられます。 で、これは標準形に を掛けたものと一致する。

問題 3:標準形へ直してから

で解け。

解答 3

で割って とします。 から

右辺を部分積分すると になる。

標準形に直さずに と読むと になり、左辺がまとまらない。

問題 4:積分因子が 1 になる場合

を解け。

解答 4

左辺をよく見ると そのものです。 だから。

積分して となる。

標準形へ直して を計算しても、 が出て同じ式になります。先に左辺の形を見ると、割り算と積分を 1 往復省ける。

問題 5:初期値問題

のもとで解け。

解答 5

です。

右辺の積分は、部分積分を 2 回して同じ形に戻すやり方で求まります。

したがって になる。 から です。

が大きくなると が消え、振動する項だけが残ります。

問題 6:区間を答える

の解と、その解が意味を持つ区間を答えよ。

解答 6

一般解は です。 を代入する。

解は になる。初期値が にあるので、区間は です。

同じ一般解の式でも、初期値がどちら側にあるかで区間が変わる。 をまたぐ解はありません。

問題 7:線形に化ける形

を解け。

解答 7

があるので線形ではありません。両辺を で割ります。

と置くと なので、 です。整理して標準形にする。

を掛けると で、右辺の積分は になります。

も、もとの方程式の解です。割ったときに落ちるので、拾い直す。

の積分因子として正しいものはどれか。

__RESULT__

なので です。指数をとると で、区間を にとれば になります。 が定数でないのに としてしまう間違いが多い場所です。

よくある誤り

標準形へ直す前に を読むと、積分因子が違うものになります。 の係数を にしてから読みます。
の積分定数を残しても意味がありません。両辺に同じ定数倍が掛かって消えます。
積分因子を右辺にだけ掛けると等式が壊れます。両辺に掛けます。
最後に で割り戻すのを忘れると、 が答えのままになります。
が飛ぶ点をまたいで解をつなげません。区間は係数の不連続で切れます。
非線形項があるまま積分因子を掛けても、左辺は積の微分になりません。まず線形かどうかを確かめます。
ベルヌーイ形で と置いたあと、 の解が落ちます。別に拾い直します。

参考文献

Integrating factor - Wikipedia(英語)
Linear differential equation - Wikipedia(英語)
Équation différentielle linéaire d'ordre un - Wikipédia(フランス語)
Paul's Online Notes, Linear Differential Equations(英語)
Ecuación diferencial lineal - Wikipedia(スペイン語)
Lineare gewöhnliche Differentialgleichung - Wikipedia(ドイツ語)
$y' + P(x)y = Q(x)$ の左辺は、$e^{\int P\,dx}$ を掛けると $(\mu y)'$ ひとかたまりになります。積分因子は天下りの呪文ではなく、左辺を積の微分にしたいという要求から決まるもの。標準形へ直してから $P$ を読む、積分定数は落としてよい、といった手つきを一つずつ確かめます。特殊解に斉次解を足せば解が尽き、定数変化法も同じ答えに着く。係数が飛ぶ点で解の区間が切れる様子や、ベルヌーイ形を線形へ落とす置き換えまで、計算問題つき。