熱方程式の変数分離法とフーリエ級数:棒が冷えていく速さ
両端を 0 度に保った長さ の棒で、はじめの温度が の形をしていれば、時刻 の温度は、熱拡散率を として です。山の形はそのままで、高さだけが指数関数的に小さくなる。
から始めると、高さは の割合で下がる。山と谷が合わせて 3 つ並ぶ波は、山が 1 つの波より 9 倍速く平らになります。
はじめの温度がほかの形でも、 の和に分ければ、各項がそれぞれの速さで に近づく。和への分け方を決める道具がフーリエ級数で、熱伝導を扱ったフーリエの 1807 年の論文に初めて現れました[1]。
変数を分ける
解きたいのは次の問題で、 は正の定数です。
| 方程式 | (、) |
| 境界条件 | |
| 初期条件 |
の形の解を探す。方程式に入れると次の式になります。
両辺を で割ると、左辺は だけ、右辺は だけの式に分かれる。
を動かしても左辺は変わらず、 を動かしても右辺は変わらない。等号で結ばれている以上、両辺はどちらの変数にもよらない定数で、その値を と書く[2]。
マイナスをつけておくのは、あとで が示されたときに式が見やすくなるため。
時間の側は 、空間の側は という常微分方程式に分かれます。境界条件 で が恒等的に なら も になってしまうから、 が必要。右端についても です。
境界条件が を選ぶ
空間の側に残る問題は次のとおり。
両端に条件のついた 2 階の方程式で、初期値問題とは違います。 を勝手に選ぶと、ふつうは しか残らない。 でない解をもつ を固有値、そのときの解を固有関数と呼ぶ[2]。
まず を示します。 の両辺に をかけ、 から まで積分する。左辺は部分積分で書きかえられます。
から境界の項は消え、 は 2 つの積分の比で表せる。
分母は正で、分子は 以上です。分子が なら で は定数になり、 から となってしまう。したがって で、 と を別々に調べる場合分けは、この 1 つの式で済む。
()とおくと 。 から 、さらに と から が決まります。
を負にしても同じ関数の 倍にしかならないから、 は正の整数だけをとる。
の形の温度は高さだけが下がる
時間の側は だから 。空間の解とかけ合わせた次の関数が、方程式と境界条件を満たす 1 つの解になります。
指数の は に比例する。 とおくと の高さははじめの 倍で、 は時間 ごとに 分の 1 になり、 はその 4 倍、 は 9 倍の速さで小さくなります[3]。
図の では、 はまだはじめの 倍の高さを残し、 は 倍まで下がっている。
は棒の長さの 2 乗に比例します。長さが 2 倍になれば、同じだけ冷えるのに 4 倍の時間がかかる。
係数を 1 つずつ抜き出す
方程式も境界条件も線形なので、 に定数をかけて足したものも解になる。
を入れると、初期条件は を の和に分ける式になります。
係数を抜き出すには、番号の違う固有関数どうしをかけて積分すると になる性質を使う。
積和の公式 で確かめられます。 なら、どちらの余弦も積分すると 。
の式の両辺に をかけて積分すると、右辺では の項だけが残る。
以外の項が消えるのは、固有関数どうしが直交しているためです。
関数の内積を で決めたとき、内積が になること。ベクトルの直交にならった呼び方。
は、 のときの積分 の逆数です[2]。
フーリエは 1822 年の本で、この積分を面積として説明しました。 に をかけてできる曲線を から まで描き、その面積から の係数が求まる。 がどんな曲線でもこの面積は 1 つに決まる、とも書いている[4]。

図の左は 、 の積で、正の部分と負の部分が打ち消し合う。右は で全体が正になり、面積は 。
番号の違う固有関数をかけて積分すると になることは、三角関数の公式を使わずに方程式だけからも導けます。2 つの式 と に相手の関数をかけて引く。
左辺は に等しく、 から まで積分すると端の値だけが残ります。
両端で だから右辺は で、 なら積分が になる。固有関数が でないときも、境界条件が端の値を消すかぎり同じ結論が得られます。
例 1:棒全体が 1 度
棒全体を 度にしておき、時刻 から両端を 度に保つ。 です。
が偶数なら 、奇数なら [2]。
では だから、 で次の等式が成り立つ。
では、奇数の に対して が と並びます。両辺に をかけると、次の等式になる。
これはライプニッツの級数です。フーリエは 1822 年の本に、同じ級数を余弦の形で書いている。
無限に長い板の底辺を 度、両側の辺を 度に保ち、落ち着いたあとの温度を求める問題で得た式でした[4]。上の の等式を 倍して とおけば、フーリエの式に一致する。
端のすぐ内側のはみ出し
の級数は、区間の内側では を表し、両端では になります。どの も端で だから、両端の 2 点では に届かない。
項を有限個で打ち切った和を描くと、端のすぐ内側で曲線が を越えて飛び出す。項を増やしても飛び出しは低くならず、最高点は 付近に近づいていきます[5]。
奇数の項を 個足した和の最高点を数値で求めると、 で 、 で 。高さはほとんど変わらないまま、飛び出す位置が端から ほどのところへ寄っていく。
この飛び出しはギブス現象と呼ばれます。ギブスより早く、ウィルブラハムが 1848 年の論文に書いていました。ただしその論文は、すぐに忘れられた[5]。
熱方程式の解では、 番目の項に がかかるため、番号の大きい項から先に小さくなり、この飛び出しは になるとすぐに消えます。
級数の収束が示されるまで
フーリエの 1807 年の論文は、フランス学士院で読み上げられました。関数を三角関数の級数で表す部分に、翌年ラグランジュとラプラスが異論を唱えている[6]。
1822 年の本でフーリエは、不連続な関数を含めてどんな関数でも正弦級数に展開できると書いた[4]。収束する条件を初めて証明したのは、1829 年のディリクレです[1]。
ディリクレの定理によれば、跳びのところで級数は左右の値の平均に近づく[1]。例 1 の を奇関数として に伸ばすと、 で から へ跳ぶ。級数の端での値 は、この跳びの平均にあたります。
何項あれば足りるか
例 1 の解を 2 つ目の項まで書くと、次のようになる。
2 つ目の項と 1 つ目の項の比は、 を使うと 以下に抑えられます。 ならこの比は 以下になり、3 つ目から先の項はさらに小さい。1 つ目の項だけで温度を書いてよくなります[2]。

の中心の温度を数値で求めると、級数全体で 、1 つ目の項だけなら で、まだ 3 パーセントずれています。 では と で、違うのは 4 桁目だけ。
で、中心の温度ははじめの 倍になる。長さ 1 m の棒で を実際の時間に直すと、材料によって次のくらいです[2]。
| 材料 | 熱拡散率() | |
|---|---|---|
| 銅 | 約 | 約 15 分 |
| 鋼 | 約 | 約 2.8 時間 |
| ガラス | 約 | 約 47 時間 |
中心の温度がはじめの半分になる時刻も、1 つ目の項から求められる。 から で、銅の 1 m の棒なら約 14 分。このとき 2 つ目の項は ほどで、答えを動かしません。
両端を 0 度に保つ銅の棒で、長さを 1 m から 2 m に替えます。1 つ目の項だけで温度を書けるようになるまでの時間はどうなりますか。
- 2 倍の約 30 分
- 4 倍の約 1 時間
- 変わらず約 15 分
例 2:初期温度が直線
とします。左端では も ですが、右端の は境界条件の と食い違う。係数は部分積分で求める。
2 つ目の積分は で、残るのは での値 です。
符号が交互に変わり、大きさは に比例して小さくなる。落ち方は例 1 と変わらず、右端のすぐ内側に例 1 と同じ飛び出しが現れます。
、 で確かめる。 は奇数の で と並び、偶数の では 。
と一致します。
例 3:真ん中だけ高い三角形
で折れる三角形の温度をとる。 で 、 で です。両端で となり、境界条件と食い違わない。
1 回目の部分積分では、両端の から端の項が消えます。
は左半分で 、右半分で 。
2 つを合わせて をかけると、係数が決まる。
偶数の では 、奇数では符号が交互に変わり、大きさは に比例します。例 1 や例 2 の より速い落ち方。
では奇数の で となり、 の級数は頂上の高さ に等しい。
奇数を 2 乗した逆数の和は、これで と決まります。
例 4:放物線の形
では部分積分を 2 回行う。1 回目は から、2 回目は が両端で になることから、端の項はどちらも消えます。残るのは の積分。
大きさは で落ち、 の係数は の しかない。
なめらかさと係数の落ち方
4 つの例を並べます。
| 初期温度 | 係数の落ち方 | 奇関数に伸ばした形 |
|---|---|---|
| と で跳ぶ | ||
| で跳ぶ | ||
| 三角形 | で折れる | |
| と で 2 階微分が跳ぶ |
正弦級数は、 を奇関数として へ伸ばし、周期 でくり返した関数を表している[7]。伸ばした関数に跳びがあると係数は 、折れ目があると のように小さくなり、なめらかにつながるほど速く落ちます。

図は、0 でない項を先頭から 2 つだけ足して各例を描いたもの。跳びのある はまだ大きく波打ち、三角形は頂上が丸くなり、 はもとの放物線とほとんど重なる。
ではどの係数にも がかかります。この指数関数は のどんなべきよりも速く小さくなるため、跳びのある初期温度から始めても、 の温度は について何回でも微分できる[3]。
時間を逆にたどる問題では、事情が逆になります。時刻 の温度から の温度を求めるには 番目の係数を 倍することになり、測定のわずかな誤差でも、番号の大きいところで際限なく大きくなる。
端の温度が 0 でないとき
左端を 度、右端を 度に保ち、はじめは棒全体が 度だったとする。このままでは右端で にならず、固有値問題を立てられません。
先に時間によらない解を探す。 と両端の値から、定常解は です。これを引いた も熱方程式を満たし、両端で になる[2]。
定常解を求める
u から定常解を引いて両端を 0 にそろえる
残りを正弦級数で解く
定常解を足し戻す
の初期温度は で、例 2 の係数を 倍すれば の係数になります。

温度は時間とともに直線 へ近づく。 でも中心はまだ で、直線の値 の半分ほど。近づく速さを決めるのは、ここでも の です。
端の温度が時間とともに変わるときも、両端の値を直線で結んだ関数を引けば、両端を にそろえられる。そのかわり、方程式の右辺に時間で変わる項が残ります[7]。
熱が湧き出すとき
棒の中で熱が湧くときは、方程式に項が 1 つ加わる。
は、湧き出す熱が温度を上げる速さです[2]。両端を 度に保つとして、 も も正弦級数に分ける。
方程式に入れて同じ の係数どうしを比べると、 ごとに 1 階の常微分方程式が 1 つずつ得られます[3]。
は初期温度 の係数。偏微分方程式が、係数ごとの独立した常微分方程式に分かれた。どれも積分因子 をかければ解けます。
例 5:一様に温める
棒全体に電流を通すなどして、 を正の定数とする。はじめの温度は 度。 の係数は例 1 と同じ計算になり、奇数の で 、偶数の で です[3]。
で は に近づく。これは例 4 の係数 の 倍にあたる。温度は放物線 に落ち着きます。
を両端 の条件で解いても、同じ放物線が得られます。級数の行き先と定常解が一致している。中心の温度を数値で追うと、 で定常の値の 62 パーセント、 で 86 パーセントに届く。
両端を断熱する
端から熱が出入りしないとき、境界条件は です。空間の側の条件は で、今度は余弦が並ぶ[2]。
を 2 つの積分の比で表した式は、この条件でも端の項が消えて成り立ちます。ただし定数の が を満たすため、 も固有値に入る。 の が固有関数に入るところが、両端を 度に保つときとの違いです。
十分に時間がたつと、はじめの温度の平均 だけが残る。熱が逃げないことは、棒全体の熱量が変わらないことからも確かめられます[3]。
すべての項が に近づき、棒全体が 度になる
の定数の項が残り、はじめの温度の平均に落ち着く
例 6:断熱した棒の初期温度が直線
の余弦の係数は、、奇数の で 、偶数の で です。
同じ でも、正弦級数の係数は 、余弦級数の係数は で小さくなる。余弦級数が表すのは を偶関数として伸ばした関数で、 なら になります。 には跳びがなく、折れ目があるだけ。
、 では で、例 3 で求めた和 がここでも確かめに使えます。
両端を断熱した長さ の棒で、はじめの温度が でした。十分に時間がたったあとの温度はどれですか。
断熱した棒は、はじめの温度の平均に落ち着きます。 になる。 ははじめの最高温度で、平均ではありません。
片方の端だけ断熱する
左端を 度に保ち、右端を断熱する。条件は 、 で、固有関数は になります[2]。
最小の固有値 は、両端を 度に保つときの 。最も遅い項は、両端を冷やしたときより 4 倍ゆっくり下がる。
断熱した右端で棒を折り返すと、 になる理由が分かります。長さ の棒の両端を 度に保ち、真ん中について左右対称な温度を与えると、温度は対称なまま下がる。真ん中の傾きは、いつも です。その左半分が、右端を断熱した長さ の棒にあたる。

長さ の棒では、 が になる。はじめ全体が 度なら係数は です。断熱した端の温度は で まで下がり、両端を冷やした長さ の棒の中心が で下がる値と等しくなる。
端から熱が少しずつ逃げるとき
右端は 度の空気に触れていて、そこから端の温度に比例した熱が逃げていくとします。ニュートンの冷却則による条件で、ロビン条件とも呼ばれる[8]。式では ()。
左端を 度に保つと、固有関数は の形です。右端の条件からは、 の満たす式が 1 つ残る。
根は の整数倍のようなきれいな値にならないため、数値で求める。最小の根は、 が と のあいだにある。
| (断熱) | ||
| (0 度に保つ) |
最も遅い項は で下がり、その速さは に比例します。 が に近いと右端は断熱した端と変わらず、 が大きいと 度に保った端に近くなる。最も遅い項の速さもそのあいだを動き、 では両端を 度に保つときの 倍です。
固有値がきれいに並ばなくても、係数の抜き出し方は変わらない。直交性を示した議論で、右端に 、 を入れると になり、端の値はやはり消えます。分母の だけは からずれるため、係数は次の形で計算する。
解が 1 つに決まる理由
変数分離で見つけた級数のほかに、別の解があるかもしれません。これは が時間とともに増えないことから否定できる[2]。
両端を 度に保つときも断熱するときも、端の項は です[3]。右端から熱が逃げる条件でも端の項は で、やはり 以下。どの場合も が成り立つ。
同じ初期温度と境界条件をもつ解が 2 つあったとし、差を とおく。 の ははじめ で、その後も増えることがない。いつでも だから 。2 つの解は一致します。
級数の解で を計算すると、直交性によって交差する項が消える。残るのは、各項が指数関数的に小さくなる形です。
係数の 2 乗の和
上の式で とおくと、係数の 2 乗の和が の 2 乗の積分と結びつく。パーセバルの等式です。
では左辺が 、右辺が です。奇数を 2 乗した逆数の和として、例 3 の がもう一度得られる。
では左辺が 、右辺が 。こちらからはバーゼル問題の値が得られます。
2 つの結果は互いに合っている。偶数番目の項 を集めた和は全体の だから、奇数の項の和は 。別々の初期温度から求めた 2 つの値がそろう。
境界条件から固有関数を決め、初期温度を固有関数の和に分け、各項を で下げていく。端の温度や熱の湧き出しがあっても、定常解を引くか係数を時間の関数にすれば、この手順に戻せます。











τ=π2kL2 は長さの 2 乗に比例します。L が 2 倍なら τ は 4 倍で、約 15 分が約 1 時間になる。熱拡散率は材料で決まり、長さを変えても変わりません。