内部に山も谷も作れない - ラプラス方程式と調和関数の平均値の性質
調和関数の値は、その点を中心とする円周上の平均に等しくなります。
半径 は何でも構いません。円が領域に収まってさえいれば、どの大きさでも同じ値になる。
最大値原理も、解の一意性も、リウヴィルの定理も、この 1 行から出てきます[1]。
どこに現れるか
電荷のない領域では、電場が と を満たします[4]。
回転が なので と書けて、これを発散の式に入れる。
熱源のない場所の定常温度も、渦のない非圧縮流体の速度ポテンシャルも同じ形です[2]。時間が消えて、空間の釣り合いだけが残った状態と言えます。
ラプラシアンはまわりとの差を測る
1 次元で 2 階微分を差分にします。
分子を書き直すと 。両隣の平均と自分の差です。
2 次元では 4 方向を使います。
とは、中心の値が 4 近傍の平均に等しいという条件になる。連続の世界での平均値の性質は、この離散版の極限です。

平均値の性質の証明
半径 の円周上の平均を と書きます。
は角度 の単位ベクトル。 で微分すると、勾配の法線成分が出ます。
弧長は なので、 が出ました。ここで発散定理を使います。
なので、 は によりません。 の極限は ですから、すべての で になります[1]。
証明に使ったのは発散定理だけ。 が「境界から出入りする流れの総量が 」を意味する、という読み替えが効いています。
最大値原理
領域の内部に最大値の点があったとします。その点を 、値を と置く。
平均値の性質から、 を囲むどの円周上でも平均が です。ところが円周上のすべての値は 以下。
平均が最大値に等しいのは、全部が のときだけ。したがって円周上でも になります。
半径を変えても同じなので、 のまわりの円板全体で 。 が をとる点の集合は開集合です。
連続性からこの集合は閉集合でもあり、領域が連結なら全体に広がる。結局 は定数になります[1]。
定数でない調和関数は、最大値も最小値も境界でしか達しません。
最大値原理は、山も谷も作れないという主張です。
どこかが盛り上がれば、その点の値は近傍の平均を超えてしまう。調和条件がそれを禁じる。
一意性
境界値が同じ 2 つの解を 、 とし、差を と置きます。
は調和で、境界では 。最大値原理から、内部の最大値は境界の最大値 を超えません。
にも同じ議論を当てると 。したがって で、解は 1 つに決まります。
ディリクレ問題の答えが境界値だけで決まることが、これで分かる。中身をどうこねても、境界が同じなら同じ関数です。
数値で解く
離散版の条件は「中心が 4 近傍の平均」でした。そのまま代入をくり返す方法が使えます。
境界の値を固定し、内部の各点を近傍の平均で置き換える。これを何度も回すと、値が落ち着きます。
内部に上辺より濃い点は現れません。平均をとる操作が、山を作ることを許さないからです。
例:円板の解
半径 の円板で、境界の値 が与えられたとします。極座標のラプラシアンを分離すると、角度側は と になる。
動径側の解は と です[3]。原点で発散しては困るので、 と を捨てます。
で に一致させれば、 と は のフーリエ係数です[2]。
ポアソン積分の公式
係数の積分表示を代入し、和と積分を入れかえます。、 と書く。
角括弧の中は、 を複素指数に直せば公比 の等比級数です。足すと閉じた形になります。
もとの変数に戻すとポアソンの公式です[2]。
を入れると分数が になり、平均値の性質に戻ります。冒頭の 1 行は、この公式の中心での値でした。

中心では核が平らで、境界のすべての点が同じ重みで効きます。境界に近づくと真向かいの一点に重みが集中する。
ハルナックの不等式
ポアソン核の分母は から までしか動きません。核の値に上下の限界が付きます。
境界値 が 以上なら、積分にそのまま引き継がれます[1]。
正の調和関数は、中心の値の定数倍の範囲に閉じこめられる。どんなに暴れさせようとしても、内側では値がそろってしまいます。
リウヴィルの定理
平面全体で定義された調和関数が有界なら、それは定数です[1]。
ハルナックの不等式で とすると、両側の係数が に近づく。 と が同じ値に挟まれます。
有界性を仮定すれば、下から押さえるために定数を足す操作ができる。負でない関数に直してから不等式を当てると、全域で が出ます。
複素関数とのつながり
が正則なら、コーシー・リーマンの関係式が成り立ちます。
1 つ目を 、2 つ目を で微分して足すと 。実部は調和です。
の実部が 。円板の解に出てきた は、この形でした[3]。
正則関数が何度でも微分できることから、調和関数も無限回微分できます。実際には解析的で、局所的にべき級数に展開できる[1]。

境界での流れを指定する場合
値ではなく、境界から出る流れ を指定する問題もあります。ノイマン問題と呼ばれます。
こちらは何でも指定できるわけではありません。発散定理を領域全体に当ててみます。
境界から出る量の総和が でなければ、解が存在しない。定常状態なのだから、入った熱と出た熱が釣り合うのは当然の要求です。
条件が満たされていれば解はありますが、定数を足す自由が残ります。温度の原点が決まらない、という形の不定さです。
いつでも解があり、答えは 1 つに決まる
総和が でないと解がない。あっても定数だけ動かせる
検算のしかた
答えが出たら、まず を実際に計算します。極座標なら に代入する。
次に境界で与えた値に戻るかを見ます。円板なら を入れて になるかどうか。
最後に中心の値を確かめます。境界値の平均と一致していなければ、どこかで係数を落としています。
円板の境界で温度が のとき、中心の温度はいくつになりますか。
平均値の性質を 1 つ手にすれば、最大値原理も一意性も、ハルナックもリウヴィルも順に落ちてくる。ラプラス方程式はそういう構造をしています。











平均値の性質から、中心の値は境界値の平均です。cosθ の 1 周ぶんの積分は 0 なので、残るのは定数項の 3 だけになります。ポアソンの公式で r=0 とした場合にあたります。