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常微分方程式と偏微分方程式〜変数が 1 つか複数かで何が変わるか

微分方程式は、未知の関数が何個の変数を持つかで 2 つに分かれます。1 個なら常微分方程式、2 個以上なら偏微分方程式[1,2]

分け方はこれだけです。ところが、この 1 点の違いから、解の姿も条件の与え方も一般論の厚みも変わってくる。

独立変数の個数で分かれる

常微分方程式では、未知関数が 1 つの変数だけに依存します。導関数は のような常微分になる[1]

偏微分方程式では、未知関数が複数の変数に依存する。そのため導関数は のような偏微分で書く[2]

記号の は飾りではありません。ほかの変数を止めて 1 方向だけ動かしたのか、変数が 1 つしかないので止めるものがないのか、その区別を担っています。

例:ばねと弦

おもりをばねにつるすと、位置 は時刻 だけの関数です。運動方程式は時刻についての常微分方程式になる。

弦を弾いたときは事情が変わる。変位 は場所と時刻の両方に依存するので、 と書くほかない。

同じ「振動」でも、点 1 個の運動か、線全体の形の変化かで、方程式の種類が変わる。

任意定数か、任意関数か

ここが両者のいちばん大きな違いです。 階の常微分方程式の一般解には、任意定数が 個現れます[7]

偏微分方程式では、定数のかわりに任意関数が現れる[2,5]。自由度が数個ぶんではなく、関数 1 本ぶんに膨らむ。

同じ「解が 1 つに決まらない」でも、余りの大きさが桁違い。条件の与え方が変わる理由もここにある。

例: を解く

について を考えます。 で微分して になる、という要求。

を止めて だけ動かしたとき、 は動かない。つまり に依存せず、 だけの関数です。

は任意の(微分可能な)関数です。常微分方程式の なら答えは定数 でしたが、こちらは関数 1 本ぶん自由になる。

例: を解く

続けて を解きます。 で微分すると なので、 だけの関数です。

それを で積分すると、積分定数は の関数になる。

2 階なので、任意関数が 2 本。常微分方程式で任意定数が 2 個出るところに対応している。

例:波動方程式の一般解

弦の方程式 も、任意関数 2 本で書ける。ダランベールの形と呼ばれます。

は形を保ったまま右へ、 は左へ動く。速さはどちらも

波の形そのものを自由に選べるので、自由度は関数 2 本ぶん。定数 2 個とは比べものになりません。

条件の与え方も変わる

常微分方程式では、1 点での値と導関数を並べて指定します。 のような初期条件で、定数がちょうど埋まる[3]

偏微分方程式で埋めるのは関数なので、点での値では足りない。境界の上や初期時刻の全体で、関数として条件を与えます[5]

弦なら、両端が固定されているという境界条件と、はじく直前の形と速度という初期条件。数値ではなく関数の形で渡す。

適切に立っている問題

条件を与えれば解が決まる、とは限りません。アダマールは、次の 3 つが揃った問題を適切であると呼びました[2,6]

解が存在する。
解がただ 1 つに決まる。
条件を少し動かしたとき、解も少ししか動かない。

3 番目が曲者です。条件の測定誤差が解を大きく揺らすなら、その定式化は物理にも数値計算にも使えません。

常微分方程式ではこの 3 つが広い範囲で成り立つ。偏微分方程式では、方程式の型と条件の組み合わせを誤ると簡単に壊れる。

常微分方程式に課すもの

1 点での値と導関数。階数と同じ個数だけ並べれば、解が 1 本に決まる。

偏微分方程式に課すもの

境界や初期時刻の上の関数。型に合った条件を選ばないと、解が存在しなかったり不安定になったりする。

型に合った条件とは、たとえば楕円型に境界値、双曲型に初期値、という組み合わせのこと。とり違えると適切でない問題になる。

一般論の厚みが違う

常微分方程式には、広く通用する存在と一意性の定理があります。 が連続かつ についてリプシッツなら、局所的に解はただ 1 本[7]

線形なら結論はもっと強くなる。係数が連続な区間全体で、解が大域的に存在する。

偏微分方程式には、これに相当する統一的な定理がありません[2]。楕円型・放物型・双曲型で振る舞いが違いすぎて、型ごとに別々の理論が育ちました。

連立と高階の言いかえ

高階の常微分方程式は、1 階の連立に書き直せます。 と置くだけ[1]

この書き直しのおかげで、1 階の連立系について定理を 1 つ証明すれば、高階の場合も一緒に片付く。

偏微分方程式には、同じ効き目を持つ標準形がありません。1 階に落としても、変数の個数は減らないためです。

例:2 階を 1 階の連立に直す

を連立に直します。 と置く。

右辺が の 1 次式になりました。行列を使えば の形で書けます。

偏微分方程式を常微分方程式へ落とす

両者は無関係ではありません。偏微分方程式を解く定番の手が、常微分方程式へ落とすことです[4]

と積の形を仮定して代入すると、変数ごとに分かれた式が現れる。これが変数分離法。

例:熱方程式を 2 本に分ける

を代入します。

両辺を で割ると、左辺は だけ、右辺は だけの式になる。

だけの式と だけの式が等しいのだから、どちらも同じ定数。これを と置けば、常微分方程式が 2 本得られます[6]

偏微分方程式を解いたというより、解ける形に持ち込んだ。落とし先が常微分方程式である以上、常微分方程式の道具は偏微分方程式でも使う。

問題 1:常か偏かを判定する

次の 4 つを、常微分方程式と偏微分方程式に分けよ。

解答 1

1 番目と 3 番目が常微分方程式です。未知関数はそれぞれ で、変数は 1 個。

2 番目と 4 番目が偏微分方程式になる。未知関数 、あるいは の 2 変数です。

判定に使うのは未知関数の変数の個数だけ。方程式に が現れるかどうかは関係ない。

問題 2:任意関数の個数を数える

について、 の一般解を求めよ。

解答 2

で微分すると なので、 に依存しません。つまり だけの関数です。

これを で積分します。積分定数は の関数になる。

任意関数が 2 本現れました。常微分方程式の なら で、定数 2 個。形が対応している。

問題 3:連立へ書き直す

を 1 階の連立系に書き直せ。

解答 3

と置きます。

3 階だったので、3 本の連立になりました。最後の 1 本だけがもとの方程式で、あとは置き方から自動的に出る式です。

問題 4:変数分離を試す

を代入し、分離定数を として 2 本の常微分方程式を導け。

解答 4

代入すると です。両辺を で割ります。

左辺は のみ、真ん中は のみの式なので、両方とも定数に等しい。この定数を と置きました。

1 本目は 1 階、2 本目は 2 階の常微分方程式。境界条件を課すと の値が絞られる。

問題 5:波動方程式の解を確かめる

任意の 2 回微分可能な関数 について、 を満たすことを示せ。

解答 5

と置き、連鎖律を使います。 です。

については となる。

の形をどう選んでも成り立ちました。任意関数ぶんの自由度がある、という主張がここで確かめられる。

について の一般解として正しいものはどれか。

  • は任意定数)
  • は任意関数)
  • は任意関数)
  • は任意関数)
__RESULT__

で微分して なので、 に依存しません。残る変数は だけなので、 の任意関数が答えです。定数だけに絞ってしまうと、解を数え落とします。

よくある誤り

方程式に変数が 2 つ見えるからといって偏微分方程式とは限りません。数えるのは未知関数の変数の個数です。
偏微分方程式の一般解を任意定数で書こうとすると行き詰まります。出てくるのは任意関数です。
偏微分方程式に 1 点での初期条件を与えても足りません。境界や初期時刻の全体で関数として与えます。
条件を与えれば必ず解が決まる、とは言えません。型に合わない条件では適切な問題になりません。
常微分方程式の存在と一意性の定理を、そのまま偏微分方程式に持ち込めません。統一的な対応物がないためです。
変数分離法がいつでも使えるわけではありません。積の形の解を仮定しているので、当てはまらない方程式もあります。

参考文献

Ordinary differential equation - Wikipedia(英語)
Partial differential equation - Wikipedia(英語)
Differentialgleichung - Wikipedia(ドイツ語)
Partielle Differentialgleichung - Wikipedia(ドイツ語)
Équation aux dérivées partielles - Wikipédia(フランス語)
偏微分方程 - 维基百科(中国語)
Ecuación diferencial ordinaria - Wikipedia(スペイン語)
未知関数の変数が 1 個なら常微分方程式、2 個以上なら偏微分方程式です。分け方はこれだけ。ところが一般解に現れるものが、片方は任意定数、もう片方は任意関数と変わる。自由度が桁違いなので、条件も 1 点ではなく境界や初期時刻の全体で、関数として与えることになる。適切に立っている問題とはどういうことか、高階を 1 階の連立へ直す書き換え、変数分離法で熱方程式が 2 本の常微分方程式に分かれるところまで、計算問題つき。