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距離が 2 倍なら時間は 4 倍?熱方程式と熱核でわかる熱の広がり

1 点に集めた熱は、時刻 には の形で広がっています。山の幅は で、時間の平方根でしか伸びません。

距離を 2 倍にすると、届くまでの時間は 4 倍。銅の棒なら 1 cm に 1 秒ほど、10 cm には 90 秒ほどかかります[4]。

この が、熱方程式のほとんどすべてを決めています。

方程式が出てくるところ

棒の微小な区間 を考えます。ここに蓄えられた熱量は、比熱 、密度 、断面積 として 。

蓄えの変化は、左端から入る量と右端から出る量の差です。熱の流れる量を と書きます。

右辺は とほぼ等しい。 で割れば保存則が出ます。

ここまでは熱の出入りを数えただけ。もう 1 本、 と を結ぶ関係が要ります。

フーリエの法則

熱は温度の高いほうから低いほうへ、勾配に比例して流れます。比例定数を熱伝導率 とする。

マイナスは向きの約束です。温度が右上がり()なら熱は左へ流れる。

保存則に入れると、 だけの式になります。

この を熱拡散率と呼びます[2]。伝導率そのものではなく、熱容量で割った量が効く。

金属が冷たく感じるのは伝導率が大きいからですが、温度分布が動く速さを決めるのは拡散率のほうです。

が大きくても が大きければ、分布はゆっくりしか動かない。

単位が答えを決める

の単位は です。長さの 2 乗を時間で割った形。

この方程式に出てくる量は 、、 の 3 つだけなので、時間と長さを結ぶ組み合わせは しかありません。

つまり距離 まで熱が届く時間は に比例する。倍の距離なら 4 倍、10 倍の距離なら 100 倍の時間がかかります。

材料拡散率 1 cm に届く時間
銅111約 0.9 秒
アルミニウム91約 1.1 秒
空気19約 5 秒
水0.146約 11 分
松材0.27約 6 分

数値は熱物性のデータベースによります[4]。銅と水で 760 倍の開きがある。金属の柄が熱くなるまでの時間と、鍋の水が温まるまでの時間の差はここから来ます。

熱核

初期の熱が原点の 1 点に集まっている場合を解きます。答えの形は、次元の話から予想できる。

長さのスケールが しかないので、解は という無次元量の関数になるはずです。

熱の総量が変わらない条件と合わせて、次の形を仮定します。

これを方程式に代入します[1]。

相似解の計算

の微分は 、 です。

等しいと置いて を払うと、 だけの常微分方程式になります。

左辺は とまとめられます。積の微分を展開すれば で、確かに一致する。

したがって は定数です。遠方で も も に近づくので、その定数は 。

変数分離で解けました。総量を にそろえると になります。

これが熱核です[1]。偏微分方程式が、相似変数を通すと 1 階の常微分方程式に落ちました。

面積は変わりません。熱の総量が保たれるので、広がったぶんだけ高さが落ちます。

一般の初期温度

熱核が点熱源の答えなので、初期温度 は点熱源の重ね合わせと見られます[1]。

にあった熱が の形で広がり、それを全部足した。方程式が線形だからできる操作です。

例:跳びのある初期温度

で温度 、 で温度 という初期状態をとります。積分は の範囲だけ残る。

と置き換えると、標準的なガウス積分になります。

は補誤差関数です。 では なので、温度はいつでも 。

跳びの真ん中の値が、時間によらず保たれます。

熱は無限の速さで伝わる

熱核は のどの でも正です。指数関数は になりません。

原点だけを温めた瞬間に、 km 先の温度も上がっている計算になる。値は のような桁ですが、厳密には ではありません。

熱方程式

情報が届く速さに上限がない。 で全域が影響を受ける

波動方程式

速さ で進む。時刻 に影響が届くのは の範囲だけ

物理としては近似の限界です。分子の運動を連続の量でならしたモデルなので、極端に短い時間や距離では成り立ちません。

最大値原理

長方形の領域 、 で考えます。温度の最大値がどこに現れるか、という問いです。

答えは、下辺()と左右の辺( と )のどこかです。この 3 辺を放物型境界と呼びます。

内部と上辺には最大値が来ない。あとから熱が湧き出すことはない、という当たり前の内容を式にしたものです。

証明

そのままだと、内部の最大点で 、 となって矛盾が出ません。等号があるためです。

そこで小さな をとり、 を考えます。この は方程式を少しだけ破る。

の最大値が内部か上辺の点 にあったとします。 について最大なので 。

については、 なら 、 なら です。どちらでも になる。

すると となり、さきほどの と食い違います。

よって の最大値は放物型境界の上。 とすれば、 についても同じことが言えます。

一意性

同じ初期温度と同じ境界温度をもつ解が 2 つあったとして、差を と置きます。

は熱方程式を満たし、放物型境界の上で です。最大値原理から 。

にも同じ議論を当てると になります。したがって で、解は 1 つに決まる。

最大値は放物型境界にある

差の解は境界で 0 になる

差の最大も最小も 0 になる

2 つの解は一致する

時間を逆に回せない

熱方程式は時間の向きを変えると別ものになります。 の形の温度は で減りますが、逆向きでは で増える。

なら、 を少し戻すだけで の桁になります。初期データのわずかな誤差が、桁違いに拡大される。

過去の温度分布を求める問題が難しいのはこのためです。前向きには滑らかになる一方で、後ろ向きには手がつけられません[1]。

前向き

角のある初期温度でも で無限回微分できる。凹凸がならされていく

後ろ向き

細かい凹凸ほど激しく増幅される。少しの誤差で答えが壊れる

数値で解いてみる

を 刻み、 を 刻みにして、2 階微分を差分に置き換えます[3]。

前の時刻の 3 点から次の時刻を作るだけ。連立方程式を解く必要がありません。

ところが を大きくとると、計算が発散します。刻みを細かくして精度を上げようとしたときに、まず出会う壁です。

安定条件の導出

という形を入れて、1 ステップあたりの倍率 を調べます。

が全部の で成り立てばよい。 は最大で なので、条件は次のとおりです。

では の成分が出て、1 ステップごとに符号を変えながら増えていきます[3]。

を半分にすると は 4 分の 1 にしなければならない。ここでも と の対応が顔を出します。

上下で違うのは の値だけです。 と の差が、この結果を分けます。

確率の言葉に移す

熱核は、平均 、分散 の正規分布の密度そのものです。

分散が時間に比例するのは、独立な小さい移動を足し合わせた結果です。ランダムウォークの極限がブラウン運動で、その位置の分布が熱核になる。

標準偏差は で時間の平方根。熱の広がり方と、酔歩が原点から離れる速さが同じ式に乗っています。

検算のしかた

熱核を得たら、方程式に入れ直すより先に、総量を確かめると早い。

これが でなければ、係数のどこかを間違えています。 に を入れて確かめる。

次元も見ます。 は温度の密度なので の次元。 は で、確かに合っています。

熱拡散率が 倍の材料に替えると、同じ距離まで熱が届く時間はどうなりますか。

  • 倍になる
  • になる
  • になる
__RESULT__

時間は に比例するので、 が 倍なら時間は です。 が付くのは距離と時間の関係のほうで、拡散率は 1 乗で効きます。距離を 倍にしたときに時間が 倍になるのと混同しやすいところ。

保存則とフーリエの法則を並べれば方程式が出て、次元を見れば が出る。熱方程式の性質は、ほとんどがこの 2 つから読めます。

出典

Victor Ivrii. *Heat Equation*. Partial Differential Equations, University of Toronto.
Heat Conduction Equation. Wolfram MathWorld.
James Demmel. *Solving the Discrete Poisson Equation and the Heat Equation*. CS267, University of California, Berkeley.
Materials Thermal Properties Database. Thermtest.
保存則とフーリエの法則 $q = -Ku_x$ を並べると $u_t = ku_{xx}$ が出ます。拡散率 $k$ の単位は $\mathrm{m^2/s}$ なので、長さと時間を結ぶ量は $x^2/k$ しかない。銅なら 1 cm に 0.9 秒、水なら 11 分かかります。点熱源の答えは相似変数 $\eta = x/\sqrt{4kt}$ を通すと 1 階の常微分方程式に落ち、$F' = -2\eta F$ からガウス関数の熱核が出る。跳びのある初期温度は補誤差関数になり、真ん中の値は $1/2$ のまま動きません。$v = u + \varepsilon x^2$ を使う最大値原理の証明、そこから出る一意性、陽解法が $r \leq 1/2$ でしか安定しない理由まで。