変数分離法による偏微分方程式の計算演習
変数分離法は偏微分方程式を解くための最も基本的な手法です。「偏微分方程式を常微分方程式に帰着させる」という発想自体は明快ですが、実際に手を動かすと、境界条件の処理やフーリエ係数の計算で手が止まることがあります。この記事では、熱方程式・波動方程式・ラプラス方程式の典型問題を一つずつ丁寧に解いていきます。
変数分離法の手順
具体的な計算に入る前に、変数分離法の一般的な流れを確認しておきます。
解を の形に仮定し、偏微分方程式に代入する
変数を分離して、各変数のみの常微分方程式を導く
境界条件から の固有値問題を解き、固有関数を求める
初期条件にフーリエ級数を適用して係数を決定する
どのステップも機械的に進められますが、とくに 3 番目と 4 番目で計算ミスが起きやすいので注意が必要です。
演習 1:熱方程式(両端固定温度ゼロ)
棒の温度分布を記述する熱方程式
を境界条件 , と初期条件 のもとで解きます。
ステップ 1:変数分離
を代入すると
左辺は のみ、右辺は のみの関数なので、両辺は定数 に等しくなります。
ステップ 2: の固有値問題
これは固有値問題の標準形です。 のとき一般解は であり、 から 、 から です。 とするには
固有関数は です。
ステップ 3: の方程式
に対して
したがって各モードの解は であり、重ね合わせの原理から
ステップ 4:フーリエ係数の決定
で初期条件 を満たすには
フーリエ正弦係数の公式から
被積分関数を展開すると です。部分積分を 2 回実行します。
と で なので第 1 項は消えます。2 回目の部分積分を経て
が偶数なら 、奇数なら です。最終的な解は
上の解で、 が大きくなるとき最も減衰が遅いのはどの項ですか?
- の項()
- の項()
- の項()
演習 2:波動方程式(両端固定、初速あり)
弦の振動を記述する波動方程式
を , , , のもとで解きます。初期変位はゼロで、初速だけが与えられている設定です。
ステップ 1:変数分離
を代入して
ステップ 2: の固有値問題
区間が なので から 、 です。
ステップ 3: の方程式
重ね合わせると
ステップ 4:初期条件の適用
初期変位 から
初速 から
右辺は の項だけなので 、すなわち です。それ以外の はすべてゼロになります。
初速が単一のフーリエモード で与えられたため、解もその 1 つのモードだけで完結しました。一般の初速 が与えられた場合は、 をフーリエ正弦級数に展開し、各係数から を求める必要があります。この「初期条件が単一モードなら級数が 1 項で閉じる」という構造は、計算を検算する際の有力な手がかりになります。
級数が有限項で閉じるのは初期条件がちょうど固有関数の有限和になっている場合に限る。
演習 3:波動方程式(初期変位あり)
同じ波動方程式で、今度は初期変位だけが与えられた問題を解きます。
演習 2 と同じ固有値問題から , です。初速ゼロの条件 から となり
を初期変位から求めます。
として部分積分を 2 回実行すると
が偶数なら 、奇数なら です。
演習 1(熱方程式)と演習 3(波動方程式)で、同じ初期分布 を使いました。 での振る舞いの違いとして正しいものはどれですか?
- どちらも に減衰する
- どちらも永久に振動を続ける
- 熱方程式では に減衰し、波動方程式では永久に振動を続ける
熱方程式の時間因子 は でゼロに収束します。一方、波動方程式の時間因子 は減衰せず振動し続けます。熱は拡散して均一化されますが、弦のエネルギーは(減衰項がなければ)散逸しません。
演習 4:ラプラス方程式(矩形領域)
最後に、時間を含まないラプラス方程式を矩形領域上で解きます。
境界条件は
3 辺がゼロで、上辺 にだけ非自明な値が指定されている状況です。
ステップ 1:変数分離
を代入すると
ステップ 2: の固有値問題
同次境界条件 , は , に対応します。
から 、 です。
ステップ 3: の方程式
一般解は です。 すなわち から となり
時間変数に対する方程式から や が現れる。
空間変数に対する方程式から や が現れる。時間発展がない分、双曲線関数が指数的減衰や振動の代わりを担う。
ステップ 4:上辺の境界条件から係数決定
重ね合わせると
で なので
右辺は の項に一致するので 、それ以外は です。
この解で から に近づくにつれて の振る舞いはどうなりますか?
- 指数的に減衰する
- に従って単調に増大する
- 正弦的に振動する
は に対して単調増加する関数です。 でゼロ、 で に達し、分母の で割ることで での値がちょうど に規格化されています。
計算上のチェックポイント
変数分離法の問題を解くときに陥りやすいミスをまとめておきます。
の固有値は です。 のとき となって が消えますが、 のときは を含む形になります。演習 1()と演習 2()で固有値の形が違ったのはこのためです。
で のとき、 の方程式は です。時間因子の角振動数は であって ではありません。演習 2 で としたのはこの点を意識するためでした。
ラプラス方程式で非同次境界条件がある方向には (または )が、同次境界条件がある方向には (または )が現れます。符号を間違えると と が入れ替わるので、分離定数の符号を慎重に選んでください。
変数分離法は手順が定型化されている分、「なぜこの形を仮定するのか」「なぜこの境界条件で固有値問題が出るのか」を見失いがちです。計算に慣れてきたら、物理的な意味を振り返りながら解くことで、より深い理解につながります。
指数 e−n2t の減衰速度は n2 に比例するので、n=1 の項が最も遅く減衰します。十分時間が経つと u(x,t)≈π8e−tsinx で近似でき、基本モードだけが残ります。