ベルヌーイの微分方程式|線形化の手順・特異解・リッカチとの関係
ベルヌーイの微分方程式は という形をしています。右辺の のせいで非線形ですが、 と置くだけで 1 階線形に変わります。
非線形の方程式が、従属変数を取り替えるだけで線形に移る数少ない例です。線形化という発想の原型にあたります。
以下では形の確認から始め、置換が になる理由を 3 つの角度から見たうえで、11 個の例を 1 つずつ解いていきます。
ベルヌーイ方程式の形
次の形の微分方程式をベルヌーイの微分方程式と呼びます。
と は の関数、 は定数です。左辺は について 1 次ですが、右辺に があるため全体としては線形になりません。
は整数でなくてかまいません。 や や でもよく、応用では分数のべきがよく現れます。
n = 0 と n = 1 を除く理由
が と の場合は、置換を持ち出すまでもなく解けます。
方程式は となり、はじめから 1 階線形。積分因子で直接解ける。
方程式は となり変数分離形。 が解になる。
置換 を見ると事情がはっきりします。 では となって情報が消えるので、そもそも使えません。
では で、置換が何もしていないことになります。以後は とします。
直観 1: 相対成長率で見る
両辺を で割ってみます。 のところでは次のように書き直せます。
左辺の は相対成長率で、 に等しい量です。この式は、相対成長率が に応じて変わると読めます。
なら右辺から が消え、相対成長率が によらなくなります。指数関数的な増減になるのはこのためです。 のときだけ、大きさ自身が成長率を左右する構造が生まれます。
ロジスティック方程式が になるのも同じ理由です。個体数が増えるほど相対成長率が下がるという飽和の効果が、 の項に入っています。
直観 2: 残るべきが 1-n になる
置換が になる理由は、割り算の結果を見れば分かります。両辺を で割ります。
の項に残った のべきがちょうど です。ここを 1 つの文字で置けば線形になる、というだけの話になります。
しかも第 1 項の は の微分の定数倍です。 なので、同じ で 2 つの項が同時に片づきます。
つまり という指数は選んだのではなく、割り算のあとに現れたものを拾っただけです。覚えるべきは指数ではなく手順のほうになります。
直観 3: 座標を取り替える
3 つ目の見方は、従属変数の座標変換です。 という目盛りで見ると曲がっている方程式が、 という目盛りでは真っすぐになります。
写像 は の範囲で全単射なので、その範囲では解の情報が失われません。 と の扱いだけ別に考える必要があります。
うまい座標を選ぶと線形になる、という発想は他の非線形方程式にも広く使われます。最後のほうの節でいくつか挙げます。
線形化の手順
ここまでの内容を計算として書き下ろします。 と置くと、微分は次のようになります。
両辺を で割った式に代入します。
を掛けて整理すると、 についての 1 階線形微分方程式が得られます。
積分因子で解く
線形になったあとは機械的です。
を積分因子といい、両辺に掛けると左辺が 1 つの微分にまとまります。
線形方程式の左辺を の形にまとめるために掛ける関数。
積分因子を掛けた式は次のようになります。
両辺を積分して を求め、最後に へ戻します。手順全体をまとめると 4 段です。
両辺を で割る
と置いて 1 階線形にする
積分因子 を掛けて積分する
で戻す
置換の対応表
よく出る について、置換がどうなるかを並べておきます。
なら なので、置換は の負べき、つまり逆数の形になります。 なら正べきです。
もっともよく現れるのは の です。ロジスティック方程式もリッカチ方程式もここに落ちます。
例: 最も簡単な場合
簡単な例から始めます。
なので と置きます。両辺を で割ると です。
なので、代入すると 、整理して になります。積分因子は で、 となります。
積分すると 、つまり です。 に戻して次を得ます。
失われる解
前節の答えには抜けがあります。 も元の方程式の解ですが、どの を選んでも はこれになりません。
原因は割り算です。両辺を で割った瞬間に、 の場合が議論から外れています。
であれば はつねに の解です。左辺も右辺も になるからです。
したがって一般解を書くときは、置換から出てくる解の族に加えて を特異解として添える必要があります。割り算をしたらその値を確かめる、という原則がここでも効いています。
例: 変数係数の場合
係数が に依存しても手順は変わりません。
なので です。両辺を で割ると となり、代入して 、つまり になります。
積分因子は です。両辺に掛けると となり、積分して 、すなわち です。
に戻して次を得ます。
なので、これに特異解 が加わります。
例: n = 3 の場合
が 3 のときを見ます。力学系でもよく現れる形です。
と書き直すと で、 と置きます。両辺を で割ると です。
なので 、整理して になります。積分因子 を掛けて積分すると です。
から次が得られます。
三つの平衡解
前節の解の振る舞いを見ます。 で なので となります。
<svg viewBox="0 0 700 306" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" style="max-width:100%;height:auto;display:block;margin:0 auto"><line x1="90" y1="160" x2="620" y2="160" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1" stroke-dasharray="5 4"/><line x1="90" y1="74" x2="620" y2="74" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1" stroke-dasharray="5 4"/><line x1="90" y1="246" x2="620" y2="246" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1" stroke-dasharray="5 4"/><path d="M 110 132 C 250 132, 300 84, 600 76" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"/><path d="M 110 34 C 260 34, 320 68, 600 72" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"/><path d="M 110 188 C 250 188, 300 236, 600 244" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"/><path d="M 110 288 C 260 288, 320 252, 600 248" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"/><text x="634" y="78" font-size="12" fill="#1f1f1f">y = 1</text><text x="634" y="164" font-size="12" fill="#1f1f1f">y = 0</text><text x="634" y="250" font-size="12" fill="#1f1f1f">y = -1</text><text x="300" y="152" font-size="12" fill="#8a8a8a">不安定な平衡解(解はここから離れる)</text><text x="120" y="66" font-size="12" fill="#8a8a8a">安定</text><text x="120" y="266" font-size="12" fill="#8a8a8a">安定</text></svg>も解ですが、まわりの解がすべて離れていく不安定な平衡解です。図では から出た解が へ、 から出た解が へ向かいます。
割り算で失われた特異解が、力学系としては重要な役割を持っています。特異解を書き落とすと、解の全体像を取り違えることになります。
例: n = 1/2 の場合
指数が分数でも同じ手順です。
なので です。両辺を で割ると になります。
なので 、整理して です。積分因子 を掛けて積分すると になります。
に戻して次を得ます。
なので、ここでも が特異解として加わります。
例: n = -1 の場合
が負の場合を見ます。事情が少し変わります。
なので です。両辺に を掛けると になります。
なので 、整理して です。積分因子 を掛けて積分すると になります。
に戻して次を得ます。
ここでは が解になりません。元の方程式が で定義されていないからです。
n の符号で変わること
直前の 2 例が示すように、 の符号で状況が変わります。
はつねに解になる。割り算で失われるので、一般解に特異解として添える必要がある
右辺の が で定義されない。 はそもそも解ではなく、 の範囲だけを考える
のときはさらに注意が要ります。 が で微分できないので、解の一意性が崩れることがあります。
この点はあとで の例で確かめます。
ロジスティック方程式
応用でもっともよく現れるのがロジスティック方程式です。
は増殖率、 は環境収容力を表します。展開すると となり、 のベルヌーイ方程式だと分かります。
と置きます。両辺を で割ると で、代入すると です。整理して次になります。
ロジスティック曲線の導出
前節の線形方程式を解きます。積分因子は です。
を積分して 、すなわち になります。
に戻すと、よく知られた形が出ます。
初期値 を入れると です。 で となり、S 字型の曲線を描きます。
<svg viewBox="0 0 700 300" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" style="max-width:100%;height:auto;display:block;margin:0 auto"><line x1="90" y1="252" x2="620" y2="252" stroke="#1f1f1f" stroke-width="1"/><line x1="90" y1="30" x2="90" y2="262" stroke="#1f1f1f" stroke-width="1"/><line x1="90" y1="68" x2="620" y2="68" stroke="#8a8a8a" stroke-width="1" stroke-dasharray="5 4"/><path d="M 108 249 C 232 249, 254 168, 332 160 C 410 152, 452 76, 600 71" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"/><path d="M 108 36 C 250 36, 300 62, 600 66" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"/><circle cx="332" cy="160" r="4" fill="#1f1f1f"/><text x="634" y="72" font-size="12" fill="#1f1f1f">y = K</text><text x="634" y="256" font-size="12" fill="#1f1f1f">y = 0</text><text x="348" y="156" font-size="12" fill="#8a8a8a">変曲点(y = K/2)</text><text x="150" y="60" font-size="12" fill="#8a8a8a">K より大きい初期値からは減少して K へ</text><text x="150" y="238" font-size="12" fill="#8a8a8a">小さい初期値からは S 字を描いて K へ</text></svg>と の 2 つが平衡解です。前者は不安定、後者は安定で、 と のあいだから出た解はすべて に近づきます。
変曲点は のところにあります。増加の勢いがもっとも強い時点で、そこから先は飽和に向かいます。
von Bertalanffy の成長式
分数のべきが現れる実例として、魚や動物の成長を表す von Bertalanffy の式を挙げます。
体重 の増加が、体表面積に比例する同化の項 と、体重に比例する異化の項 の差で決まる、という考え方です。
と書けば で、 と置きます。両辺を で割ると です。
なので 、整理して になります。
成長曲線の形
前節を解きます。積分因子 を掛けて積分すると です。
に戻して次を得ます。
で とすると になり、次の形に整います。
で に収束します。これが漸近的な最大体重にあたり、水産資源の解析で使われる標準的な成長曲線です。
リッカチ方程式との関係
リッカチ方程式は次の形をしています。
なら となり、 のベルヌーイ方程式そのものです。定数項の有無が両者を分けています。
置換 でつねに 1 階線形に帰着する。特殊解を知らなくても機械的に解ける
一般には初等関数で解けない。特殊解を 1 つ知っていれば、差を取ってベルヌーイ方程式に落とせる
特殊解 が分かっているとき、 と置きます。差を計算すると次のようになります。
のベルヌーイ方程式です。特殊解 1 つで、解けない方程式が解ける方程式に変わります。
リッカチの例
実際にやってみます。
の形を試すと となり、 から または が出ます。 を使います。
と置くと で、 を代入すると になります。
はベルヌーイ方程式です。 と置くと となり、積分因子 を掛けて積分すると です。
から ()となり、次を得ます。
答えの検算
前節の答えを確かめておきます。 とすると です。
これは最初に見つけたもう 1 つの特殊解に一致します。 と が等しいので、たしかに解になっています。
の極限では第 2 項が消えて 、つまり出発点にした特殊解に戻ります。
2 つの特殊解が、一般解の両端として現れました。特殊解を 1 つ知っているだけで解の族全体が復元される、という構造が見てとれます。
一意性が壊れる例
では解の一意性が保証されません。もっとも簡単な例で確かめます。
、、 のベルヌーイ方程式です。変数分離でも解けて 、すなわち が出ます。
さらに も解です。ここまでは今までと同じですが、この 2 つを貼り合わせた関数もまた解になります。
<svg viewBox="0 0 700 272" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" style="max-width:100%;height:auto;display:block;margin:0 auto"><line x1="90" y1="216" x2="640" y2="216" stroke="#1f1f1f" stroke-width="1"/><line x1="120" y1="40" x2="120" y2="230" stroke="#1f1f1f" stroke-width="1"/><line x1="120" y1="216" x2="620" y2="216" stroke="#1b81e0" stroke-width="2.5"/><path d="M 240 216 Q 384 216 512 66" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"/><path d="M 340 216 Q 466 216 580 76" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"/><path d="M 440 216 Q 546 216 636 100" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"/><circle cx="120" cy="216" r="4.5" fill="#1f1f1f"/><circle cx="240" cy="216" r="3.5" fill="#1f1f1f"/><circle cx="340" cy="216" r="3.5" fill="#1f1f1f"/><circle cx="440" cy="216" r="3.5" fill="#1f1f1f"/><text x="112" y="238" font-size="12" fill="#1f1f1f" text-anchor="middle">O</text><text x="240" y="238" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">a1</text><text x="340" y="238" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">a2</text><text x="440" y="238" font-size="12" fill="#8a8a8a" text-anchor="middle">a3</text><text x="150" y="196" font-size="12" fill="#1b81e0">y = 0 のまま進み、好きな点で立ち上がれる</text><text x="360" y="56" font-size="12" fill="#8a8a8a">どれも同じ初期条件 y(0) = 0 を満たす</text></svg>で 、 で と定めると、 で微分可能につながり全体で方程式を満たします。 はいくらでも選べるので、原点を通る解は無限にあります。
原因は が でリプシッツ連続でないことです。 や ではこの問題は起きません。
一般解の公式が書けることと、初期値問題の解が 1 つに定まることは別だ、という点を示す例になっています。
ベルヌーイでない例
形が似ていても置換が効かない方程式があります。対比のために挙げておきます。
判定は簡単です。 について 1 次の項と 乗の項の 2 種類だけで書けているかを見ます。
3 種類以上の のべきが現れたら、ベルヌーイの手法は使えません。
線形化という考え方
ベルヌーイ方程式の教訓は、うまい従属変数を選べば非線形が線形になる場合がある、という点です。同じ発想は他でも使われます。
どれも解の空間を線形にするのではなく、方程式を線形にする座標を探す、という発想です。ベルヌーイ方程式はその最初の成功例にあたります。
もっとも、こうした変換が見つかる方程式はごく一部です。だからこそ、見つかったときの威力が際立ちます。
歴史
この方程式は 17 世紀末に提出され、すぐに解かれました。
Acta Eruditorum 誌上でこの形の方程式を取り上げ、解法を問うた。
置換によって 1 階線形方程式に帰着できることを示した。弟の Johann Bernoulli も別の解法を与えた。
微分積分学が生まれて間もない時期の出来事です。新しい道具でどこまで解けるかを探っていた時代の、代表的な成果の 1 つになります。
Bernoulli 兄弟は互いに問題を出し合う関係にありました。同じ時期に懸垂線や最速降下線の問題も扱われています。










