ポアソン方程式と境界条件の役割
ラプラス方程式 は「源のない場」を記述しますが、現実の物理現象では電荷や質量、熱源などの「源」が存在します。この源を右辺に持つのがポアソン方程式です。
ここで はラプラシアン、 は既知の関数で、源の分布を表します。ラプラス方程式は という特殊な場合に対応しており、ポアソン方程式はその一般化と位置づけられます。
ポアソン方程式の物理的意味
ポアソン方程式は多くの物理分野に登場します。最も代表的なのは静電場のポテンシャルを記述する場面で、電荷密度 が与えられたとき、静電ポテンシャル は次の方程式に従います。
は真空の誘電率です。電荷が存在しない領域では となり、方程式はラプラス方程式に帰着します。一方、電荷が分布する領域ではポアソン方程式を解く必要があります。
源(電荷・熱源など)が存在しない領域での場を記述する。解は調和関数と呼ばれ、最大値原理を満たす。
源が存在する領域を含めた場を記述する。ラプラス方程式の一般化であり、右辺 が源の強さを表す。
重力ポテンシャルの場合も同様の構造を持ちます。質量密度 が与えられたとき、重力ポテンシャル は ( は万有引力定数)に従います。また、定常的な熱伝導で内部に熱源がある場合の温度分布も、ポアソン方程式として定式化されます。
境界条件の分類
微分方程式だけでは解は一意に決まりません。ポアソン方程式の解を確定させるには、領域の境界 上で何らかの条件を課す必要があります。この条件が境界条件であり、物理的な設定に応じて使い分けます。
境界上で関数値そのものを指定します。 の形で与えられ、たとえば「境界の温度が既知」「導体表面の電位が一定」といった状況に対応します。
境界上で法線方向の微分を指定します。 の形で、「断熱壁(熱流束ゼロ)」「絶縁面(電場の法線成分がゼロ)」などの状況を表します。
関数値と法線微分の線形結合を指定します。 の形で、物体表面と周囲流体の間の熱交換(ニュートンの冷却則)のような混合的な状況を記述できます。
どの境界条件を選ぶかは、解の存在・一意性に直結します。ディリクレ条件では解が一意に定まることが古典的に知られていますが、ノイマン条件の場合は定数分の不定性が残るため、追加の条件(たとえば領域上の平均値を固定する)が必要になることがあります。
1 次元のポアソン方程式を解く
具体的な計算の流れを確認するために、1 次元のポアソン方程式を考えます。区間 上で
をディリクレ境界条件 , のもとで解いてみましょう。
まず、右辺を 2 回積分します。1 回目の積分で
を得ます。もう 1 回積分すると
となります。ここで境界条件を適用しましょう。 から が直ちにわかります。次に を代入すると
なので が得られます。したがって解は
です。この解は区間の中央 で最大値 をとり、両端で になります。源 が区間の中央付近で最も強く、それに応じて解も中央で最も大きくなるという、直感的にも自然な結果が得られました。
境界条件が解に与える影響
同じポアソン方程式でも、境界条件を変えれば解はまったく異なるものになります。先ほどの方程式でディリクレ条件を , に変更してみます。
一般解 に新しい条件を代入すると、, が得られるので
となります。源による寄与 に加え、境界条件から生じる線形部分 が重なった解です。
解は となり、源の分布のみが解を決定する。両端が固定されているため、源が対称なら解も対称になる。
解は となる。源の寄与に加え、境界値の差が線形成分として上乗せされ、解は右端に向かって単調に増加する傾向を持つ。
このように、ポアソン方程式の解は「源 による寄与」と「境界条件による寄与」の重ね合わせとして理解できます。これは線形方程式の重要な性質であり、次のグリーン関数の議論にもつながります。
グリーン関数による解の表現
ポアソン方程式の解を体系的に構成する方法として、グリーン関数があります。領域 上のディリクレ問題
に対するグリーン関数 は、点 に置かれた単位点源に対する応答関数です。グリーン関数が求まれば、任意の源 に対する解を
という積分で一挙に書き下すことができます。
グリーン関数は「ある点に集中した源が、境界条件を満たしつつ領域全体にどのような影響を及ぼすか」を記述する関数です。形式的には かつ ()を満たす基本解に、境界条件の補正を加えたものとして構成されます。
はディラックのデルタ関数で、点 に集中した源を表す。
1 次元の区間 では、グリーン関数を具体的に求めることができます。 を固定したとき
が を満たすグリーン関数です。先ほどの に対してこの積分を実行すると、確かに が再現されます。
高次元への拡張
2 次元以上のポアソン方程式では、解析的に解を求められる場合は限られます。しかし、方程式と境界条件の構造は本質的に同じです。
の形をとります。矩形領域や円盤領域では、フーリエ級数や極座標を用いた変数分離法で解を構成できます。
となります。自由空間のグリーン関数は で与えられ、これはクーロンポテンシャルそのものです。
3 次元自由空間のグリーン関数がクーロンの法則と一致するのは偶然ではありません。点電荷 が原点に置かれたときの静電ポテンシャルが であることは、まさにポアソン方程式の点源に対する解を物理的に表現したものです。
解の一意性と適切性
ポアソン方程式のディリクレ問題では、解の一意性がエネルギー法によって示されます。もし と がともに同じ方程式と境界条件を満たすなら、差 は (ラプラス方程式)かつ を満たします。グリーンの第一恒等式を使うと
が導かれ、、すなわち は定数です。境界で なので 、つまり が示されます。
ポアソン方程式 のディリクレ問題で、解の一意性を示す際に使われる議論として正しいものはどれですか?
- 二つの解の和がラプラス方程式を満たすことを利用する
- 二つの解の差がラプラス方程式を満たすことを利用する
- 二つの解の積がポアソン方程式を満たすことを利用する
この一意性の議論は、偏微分方程式論における適切性(well-posedness)の一部を構成しています。アダマールは、問題が適切であるためには「解の存在」「解の一意性」「データへの連続依存性」の 3 条件が必要であると提唱しました。ポアソン方程式のディリクレ問題はこれら 3 条件をすべて満たしており、物理的にも数学的にも安定した問題として扱うことができます。
二つの解 u1,u2 の差 w=u1−u2 をとると、Δw=f−f=0 となり、w はラプラス方程式を満たします。さらに境界条件の差もゼロになるので、w≡0 が結論できます。