単位ステップ関数とディラックのデルタ関数
前回の記事で扱ったラプラス変換の基本公式は、, , といった滑らかな関数を対象にしていました。しかし現実の工学的問題では、スイッチのオン・オフ、瞬間的な衝撃力、急激な電圧変化など、不連続や特異性を含む入力を扱う必要があります。こうした関数を体系的に処理するのが、単位ステップ関数とディラックのデルタ関数です。
単位ステップ関数(ヘヴィサイドの階段関数)
単位ステップ関数 は、 を境に値が から に切り替わる関数です。
この関数はオリヴァー・ヘヴィサイドにちなんでヘヴィサイドの階段関数とも呼ばれます。ヘヴィサイドは 19 世紀末に電気回路の過渡現象を解析するための演算子法を開発し、その中でこの関数を体系的に用いました。
ラプラス変換の文脈では、 の関数を扱うため 自体は定数 と同じ振る舞いをします。重要なのは、時刻 だけ遅延させた の方です。
これは「時刻 にスイッチが入る」ことを表現する関数であり、ラプラス変換は
となります。 のとき で、定数 の変換と一致します。
区分的に定義された関数の表現
単位ステップ関数の真価は、区分的に定義された関数を一つの式で書き表せる点にあります。たとえば
という関数を考えましょう。時刻 で傾き の直線が始まり、 で値 のまま一定になります。これを単位ステップ関数で書くと
となります。
最初の項 は で直線 をオンにします。しかしこのままでは でも増え続けるので、2 番目の項 で 以降の増加分を打ち消しています。結果として での値は で一定値に固定されます。
ステップ関数の加減で区間ごとの挙動を制御する手法。
このように、ステップ関数を「スイッチ」として使い、各区間での挙動を足し引きすることで任意の区分的関数を構成できます。
第 2 移動定理の活用
区分的関数のラプラス変換には、第 2 移動定理が不可欠です。前回の記事で紹介した公式を改めて確認します。
ここで です。注意すべきは、 に掛かる関数が の形、つまり の関数でなければならない点です。
先ほどの を変換してみましょう。 とすると , であり、 なので
が得られます。不連続な関数のラプラス変換が、指数因子 を含む有理式として綺麗に表現されています。
に掛かる関数は必ず の関数にしてから定理を適用します。たとえば は と書き直し、 として 2 項に分けて変換します。
逆変換のときは が掛かった項を見つけたら、まず を外した部分を逆変換し、得られた関数の引数を に置き換えてから を掛けます。
ディラックのデルタ関数
単位ステップ関数がスイッチの「オン」を表すなら、デルタ関数は瞬間的な「衝撃」を表します。ディラックのデルタ関数 は、通常の意味での関数ではなく超関数(分布)として定義されますが、直感的には次の性質で特徴づけられます。
()。原点以外ではゼロであり、「一瞬だけ作用する」ことを表す。
。作用する時間は無限に短いが、全体の強さ(積分値)は である。
これら 2 つの性質から、デルタ関数は原点で「無限の高さ」を持ちながら「幅ゼロ」であり、面積がちょうど になるような極限的な対象として理解できます。物理的には、ハンマーで瞬間的に叩く衝撃力、雷による瞬間的な電圧パルス、粒子の点電荷などがデルタ関数で記述されます。
デルタ関数の厳密な構成
デルタ関数は通常の関数の極限として構成できます。幅 の矩形パルス
を考えます。この関数は高さ 、幅 なので面積は常に です。 の極限で、高さは無限大に、幅はゼロに向かいますが、面積は のまま保たれます。この極限が です。
単位ステップ関数との関係も重要です。 と書けるので、形式的に
が成り立ちます。デルタ関数は単位ステップ関数の「微分」であり、逆にステップ関数はデルタ関数の「積分」です。
幅 の矩形パルス (面積 )
で高さが発散、幅が収縮
極限としてデルタ関数 が得られる
デルタ関数の篩(ふるい)性質
デルタ関数の最も実用的な性質は、任意の連続関数 に対して
が成り立つことです。デルタ関数が の一点でのみ「作用」し、その点での の値を抜き出します。この性質は篩(ふるい)性質やサンプリング性質と呼ばれ、デルタ関数を用いた計算の基礎となります。
この性質から、デルタ関数のラプラス変換は直ちに求まります。
被積分関数の を篩性質で にサンプリングした結果です。とくに のとき
となります。すべての周波数成分を等しく含む、いわば「白色」の信号です。
| 関数 | ラプラス変換 | 意味 |
|---|---|---|
| ステップ入力 | ||
| 遅延ステップ | ||
| 瞬間衝撃 | ||
| 遅延衝撃 |
微分方程式への応用:衝撃応答
デルタ関数の典型的な応用として、2 階の初期値問題
を解いてみましょう。「静止状態にある振動系に、時刻 で瞬間的な衝撃が加わる」という状況です。
両辺をラプラス変換すると
初期条件がすべてゼロなので の初期値項は消えます。 について解くと
を外した部分 の逆変換は です。第 2 移動定理を適用すると
が得られます。
なので 。衝撃が加わる前は系は完全に静止したままです。
となり 。衝撃の瞬間から振幅 、角振動数 の正弦振動が始まります。
この解は物理的にも自然な結果です。衝撃前は何も起きず、衝撃の瞬間に運動量が与えられ、そこから固有振動数での振動が始まります。
単位ステップ関数を入力とする問題
比較のために、同じ振動系にステップ入力を加えた問題
も解いてみます。ラプラス変換すると
部分分数分解で となるので
が得られます。デルタ入力のときは純粋な正弦振動でしたが、ステップ入力では という定常値のまわりを余弦関数で振動する解になっています。
初期条件がすべてゼロの線形系に を入力したときの応答を何と呼びますか?
- ステップ応答
- インパルス応答(衝撃応答)
- 周波数応答
単位ステップ関数とデルタ関数の対応関係
ここまでの内容を踏まえると、ステップ関数とデルタ関数の間には 領域でも 領域でも綺麗な対応関係が浮かび上がります。
であり、デルタ関数はステップ関数の微分です。逆に です。
と の間には 倍の関係があり、微分の公式 と整合しています。
この対応は偶然ではなく、ラプラス変換の微分公式が 領域の微積分関係を 領域の代数関係に翻訳していることの直接的な帰結です。単位ステップ関数とデルタ関数は、不連続入力や衝撃入力を含む微分方程式を統一的に扱うための基盤であり、次の記事で取り上げる畳み込み積分の議論へとつながっていきます。
インパルス応答は系の「指紋」のようなもので、線形時不変系の特性を完全に決定します。任意の入力に対する出力は、入力とインパルス応答の畳み込み積分で計算できます。