2 点境界値問題の定式化と解法

微分方程式の問題は大きく分けて初期値問題と境界値問題の 2 種類があります。初期値問題では、ある一点での関数値と導関数値を指定して時間発展を追いかけます。一方、境界値問題では区間の両端で条件を課し、その間の解を求めます。

初期値問題

1 つの点(通常 )で , のように関数値と導関数値をまとめて指定する。解は一方向に進んでいく。

境界値問題

区間の両端 でそれぞれ条件を課す。解は両端の条件を同時に満たすよう、区間全体で決まる。

物理的に言えば、初期値問題は「今の状態から未来を予測する」問題であり、境界値問題は「両端の状態が決まっている中で中間の状態を求める」問題です。弦の定常振動、梁のたわみ、定常温度分布など、時間に依存しない平衡状態の記述には境界値問題が自然に現れます。

2 点境界値問題の一般的な定式化

区間 上の 2 階常微分方程式

に対し、両端で条件を課したものが 2 点境界値問題です。境界条件としては、前回の記事で扱った 3 種類がここでも登場します。

ディリクレ型

, のように両端で関数値を指定します。「弦の両端を固定する」「棒の両端の温度を決める」といった状況に対応します。

ノイマン型

, のように両端で導関数値を指定します。「端点での傾きや流束を制御する」場面で現れます。

混合型(ロビン型)

, のように関数値と導関数の線形結合を指定します。片端がディリクレ、もう片端がノイマンという組み合わせも混合型に含まれます。

初期値問題ではピカールの定理により、 が連続であれば解の存在と一意性が保証されました。しかし境界値問題では事情が異なります。条件が区間の両端に分かれているため、解が存在しない場合や、逆に無限に多くの解が存在する場合があり得ます。

解が一意に定まらない例

解の一意性が崩れる典型例を見てみましょう。

を考えます。一般解は です。 から が得られ、 となります。次に を代入すると、 なので は任意の値をとれます。したがって は任意定数)がすべて解になり、一意性が成立しません。

一方、右端の条件を に変えると

となりますが、 すなわち となって矛盾します。この場合は解が存在しません。

,

は任意)がすべて解であり、解が無限に存在する。一意性が破綻している。

,

のため境界条件を満たす解が存在しない。両端の条件が方程式の固有構造と衝突している。

このような現象が起こるのは、対応する同次問題 , , が自明でない解()を持つからです。これは線形代数における連立方程式の理論と完全に並行しており、同次系が非自明解を持つとき、非同次系の解の存在は右辺の条件に依存します。

同次問題と固有値問題

先ほどの例を一般化して

という形の問題を考えます。これは固有値問題と呼ばれ、パラメータ のうち非自明解を許す特別な値(固有値)を求めることが目標です。

一般解は のとき です。 から から となります。 とするには 、すなわち )が必要です。

したがって固有値と固有関数は

と求まります。この固有関数の族はフーリエ正弦級数の基底をなしており、フーリエ級数と変数分離法の記事で扱った展開と直接つながっています。

射撃法(シューティング法)

境界値問題を数値的に解く代表的な手法として射撃法があります。この方法の発想は、境界値問題を初期値問題に帰着させることです。

左端で を固定し、 を仮の値として設定する

初期値問題として方程式を右端 まで数値的に解く

得られた と目標値 を比較する

となる を反復法(二分法やニュートン法)で求める

名前の由来は大砲の射撃に似ているからです。発射角度(初期傾き )を調整しながら、標的(右端の境界条件 )に当たるまで繰り返し撃つイメージです。

具体例として , , を考えます。 として初期値問題を解くと、一般解は です。 から が直ちに求まり、 が得られます。この例は解析的に処理できましたが、非線形方程式や複雑な係数関数の場合には数値的な射撃法が威力を発揮します。

有限差分法

もう一つの主要な数値解法が有限差分法です。区間 等分し、格子点 , )上での近似値 を求めます。

2 階微分を中心差分で近似すると

となります。これを方程式 に適用すると、各内部格子点

という代数方程式が得られます。, は境界条件から既知なので、未知数は 個です。

この連立方程式を行列形式で書くと となり、係数行列 三重対角行列の構造を持ちます。

各行で隣接する 3 つの未知数のみが関与するため、帯幅が 3 の疎行列になる。

三重対角行列の連立方程式はトーマスのアルゴリズム(LU 分解の特殊版)により の計算量で解けるため、有限差分法は計算効率に優れています。射撃法が「初期値問題を繰り返し解く」のに対し、有限差分法は「連立方程式を 1 回解く」というアプローチの違いがあります。

有限差分法の具体例

, , の有限差分法で解いてみましょう。 で格子点は です。

各内部点で を立てると

を代入して整理すると、次の連立方程式が得られます。

格子点方程式

対称性から がわかり、, を代入すると , が得られます。厳密解 と比較するとやや粗いですが、 を大きくすれば精度は で改善されていきます。

境界値問題の解を保証する条件

解析的な観点から、境界値問題の解の存在と一意性を保証する代表的な定理を確認しておきます。線形方程式 のディリクレ問題 , について、次の条件が知られています。

上で連続かつ (区間全体で非正)であれば、解は一意に存在します。先ほどの の例では であったため、この条件に違反しており、実際に一意性が崩れていたことと整合します。

2 点境界値問題 , , で解が一意に定まらない根本的な理由は何ですか?

  • 方程式の係数が不連続だから
  • 対応する同次問題が非自明解 を持つから
  • 区間の長さ が無理数だから
__RESULT__

同次問題が非自明解を持つということは、対応する線形作用素の核が でないことを意味します。この場合、フレドホルムの交代定理により、非同次問題の可解性は右辺と境界条件に対する適合条件に依存します。

非線形の境界値問題に対しては、シャウダーの不動点定理や上解・下解の方法など、より高度な道具が必要になります。しかしいずれの場合も、「方程式の構造」と「境界条件の種類」が解の性質を決定するという基本的な枠組みは変わりません。