∫1+sinxdx のように、三角関数が分母に入った分数は手がかりがつかみにくい。次数下げも置換も、そのままでは当たらない。
こういうときには t=tan2x の置換が効く。sinx も cosx も t の分数式に化けるので、三角関数の問題が有理関数の問題に変わる[1]。
sinx=1+t22t,cosx=1+t21−t2,dx=1+t22dt
どんな三角関数の分数式にも当たるので、万能置換と呼ばれる。オイラーが 1768 年の教科書で使っている[1]。
3 つの式を導く
半角の関係から出る。cos22x=1+t21 が出発点になる。
1+tan2θ=cos2θ1 に θ=2x を入れれば、この形が出る。
2 倍角の公式に代入する。
sinxcosx=2sin2xcos2x=2tan2xcos22x=1+t22t=cos22x−sin22x=cos22x(1−tan22x)=1+t21−t2
dx は t=tan2x の両辺を微分して出す。dt=21⋅cos2(x/2)1dx=21+t2dx である。
円の上で見る
3 つの式には幾何的な意味がある。単位円の点 (−1,0) から引いた直線の傾きが t になる。
円周角の定理から、その直線が円と交わる点の中心角は x になる。傾き t の直線 1 本と、円周上の点 1 つが対応している。
円周角が中心角の半分になるので、直線のなす角は 2x である。傾きが tan2x になる理由がこれになる。
例 1:∫1+cosxdx
1+cosx を t で書く。分母が驚くほど簡単になる。
1+cosx=1+1+t21−t2=1+t22
これで積分が計算できる。
∫1+cosxdx=∫1+t22dt⋅21+t2=∫dt=tan2x+C
答えが置換した t そのものになった。微分して確かめると (tan2x)′=2cos2(x/2)1=1+cosx1 である。
例 2:∫1+sinxdx
こんどは分母が平方になる。
1+sinx=1+1+t22t=1+t2(1+t)2
∫1+sinxdx=∫1+t22dt⋅(1+t)21+t2=∫(1+t)22dt=−1+t2+C=−1+tan2x2+C
例 3:∫sinxdx
分母が sinx だけでも当たる。
∫sinxdx=∫1+t22dt⋅2t1+t2=∫tdt=logtan2x+C
sinx1 の原始関数が logtan2x になる[3]。この形は覚えておくと速い。
数値がぴたりとそろう。sinx と cosx が、t の分数式として完全に書けている。
定積分では区間も置きかえる
x=0 なら t=0、x=2π なら t=tan4π=1 である。
| x | 2x | t=tan2x | | 0 | 0 | 0 |
| 2π | 4π | 1 |
| 32π | 3π | 3 |
| π | 2π | 定まらない |
x=π で t が発散する。この点をまたぐ区間では使えない[2]。区間を分けるか、別の手を探す。
例 4:∫0π/21+sinxdx
例 2 の原始関数に代入する。x:0→2π で t:0→1 である。
=[−1+t2]01=−22+12=1
答えはちょうど 1 になる。
例 5:∫0π/22+cosxdx
分母を t で書く。
2+cosx=2+1+t21−t2=1+t23+t2
∫0π/22+cosxdx=∫01t2+32dt
ここから先は分母が t2+(3)2 の形なので、t=3tanθ と置く。t:0→1 で tanθ:0→31、つまり θ:0→6π。
=2⋅31⋅6π=93π
万能置換で有理関数に落とし、そのあと三角置換でしめる。2 段構えになる。
例 6:部分分数分解につながる形
∫3+5cosxdx
分母を書きかえる。
3+5cosx=3+1+t25(1−t2)=1+t28−2t2
∫3+5cosxdx=∫8−2t22dt=∫4−t2dt
4−t2=(2−t)(2+t) なので、部分分数分解に回る。
4−t21=41(2−t1+2+t1)
=41log2−t2+t+C=41log2−tan2x2+tan2x+C
分母の 2 次式が因数分解できるかどうかで、行き先が三角置換か部分分数分解かに分かれる。
いつ使うか
万能置換はどんな三角関数の分数式にも当たるが、計算量は多い。まず簡単な手を試すほうが速い。
sin か cos の奇数乗があるなら、1 つ抜いて置換する。
1+cosx のような形は、半角の公式で書き直せることがある。
最後の手段として持っておく道具になる。使えると分かっていれば、解けないという事態は起きない。
参考文献
$t = \tan\dfrac{x}{2}$ と置くと $\sin x$ も $\cos x$ も $t$ の分数式になり、三角関数の問題が有理関数の問題に変わります。半角の関係 $\cos^2\dfrac{x}{2} = \dfrac{1}{1+t^2}$ から $3$ つの式が出る。単位円で見ると、$(-1,0)$ から引いた直線の傾きが $t$ で、円周角が中心角の半分だから $\tan\dfrac{x}{2}$ になります。$x = \pi$ で $t$ が発散するため、そこをまたぐ区間では使えません。