定義できない点があってもいい!代数幾何の有理写像
有理写像は、全体では定義されていなくてもよい写像です。
稠密な開集合の上で射になっていれば、それを 1 つの写像として扱います[1]。定義域の外側は、あとから議論します。
分数を思い浮かべると分かりやすい。 は で値をもちませんが、関数として扱いたい場面はいくらでもあります。
以下では定義を整え、6 つの例で不定点を探します。関数体との対応と、双有理同値までたどる。
定義
を体 上の多様体とします。有理写像 とは、空でない開集合 の上で定義された射 のことです[1]。
矢印を破線で書くのが習慣です。全域で定義されていないことを、記号で示しています。
が既約なら、空でない開集合はいつでも稠密です。ザリスキ位相では、閉集合が真に小さいためです。
2 つの射を同じものと見なす規則も要ります。 と の上の射が、さらに小さい開集合の上で一致するなら、同じ有理写像とします。
同値類として扱うので、「どこで定義されているか」は写像そのものの一部ではありません。
定義域は最大にとれる
同値類の中で、定義域がいちばん大きいものが 1 つ決まります。
定義されている開集合をすべて合わせればよい。重なりの上で一致するので、貼り合わせて 1 つの射になります。
この最大の開集合を定義域といい、その補集合を不定点集合といいます。閉集合になります。
不定点集合がどれだけ小さいかが、写像の素性を表します。曲線から射影多様体への有理写像なら、不定点は現れません。
例: 割り算から出る有理写像
いちばん基本的な例を並べます。
、 です。定義域は 、不定点は原点 1 つになります。
、 です。 の 1 点だけが不定点になります。
、 です。不定点は直線 の全体で、余次元 の集合になります。
、 です。 と が同時に になる原点だけが不定点で、余次元 になります。
3 番目と 4 番目の違いに注目します。行き先を射影直線にすると、 でも として値が決まります。
行き先が射影的だと不定点が小さくなる。これは一般に成り立つ現象です。
不定点を絵にする
定義域と不定点の位置関係を描いておきます。

左では赤い直線ぜんぶが不定点です。右では原点 1 点まで縮んでいます。
式は同じ でも、 と書き直せば でも意味をもちます。分母が になる場所で、比としてなら値が決まるためです。
支配的であること
有理写像 の像が で稠密なとき、 は支配的であるといいます。
支配的でない例はすぐ作れます。、 は像が直線なので稠密ではありません。
定値写像も支配的ではありません。像が 1 点だからです。
支配的かどうかは、関数体との対応で効いてきます。
関数体との対応
を既約とし、関数体を 、 と書きます。
支配的な有理写像 から、 代数の埋め込み が定まります。
上の有理関数 を へ送るだけです。 が支配的なので、 が恒等的に になることはありません。
支配的でないと、この構成が壊れます。像の上で消える関数を引き戻すと になってしまうためです[1]。
逆向きもあり、埋め込みからは支配的な有理写像が作れます。支配的な有理写像と、関数体の埋め込みが 1 対 1 に対応します。
双有理写像
に対して、逆になる有理写像 があるとき、 を双有理写像といいます[1]。
と が、それぞれ定義域の上で恒等写像になることを要求します。
このとき と は双有理同値であるといい、開集合どうしが同型になります。
関数体の言葉では、 が 上の同型として成り立つことと同値です[1]。
次元は双有理不変です。関数体の超越次数で書けるためです[3]。
例: 円を 1 変数で書く
双有理同値の代表例が、円の有理パラメータ表示です[1]。
この点が単位円の上にあることは、分子を計算すれば分かります。 です。
作り方は立体射影です。円の南極 から 軸へ向かって直線を引きます。
軸の点 と円の点が 1 対 1 に対応します。南極だけが、どの にも対応しません。
逆写像は です。、つまり南極でだけ定義されません。
点を除いて同型なので、円とアフィン直線は双有理同値です。円は有理曲線になります。
有理多様体
射影空間と双有理同値な多様体を、有理多様体といいます[1]。
円は有理曲線でした。尖点曲線 も 、 で書けるので有理です。
結節点をもつ 3 次曲線 も有理です。、 が全射に近い形で書けます。
特異点のない 3 次曲線は有理ではありません。種数が で、種数は双有理不変だからです。
次曲面 は と同型で、有理曲面です[1]。
ブローアップという双有理射
有理写像を射に直す標準的な方法があります。
、 の不定点は原点でした。原点をブローアップすると、この写像が射になります。
ブローアップは双有理射です[1]。定義された射で、逆が有理写像にとどまります。
原点が 1 本の射影直線に置き換わり、その上の点が「原点へ入る方向」を表します。方向ごとに行き先が違うので、原点では値が決まらなかった。
曲面の分類では、ブローアップで得られる例外曲線を潰す操作が中心になります[4]。
双有理不変量
双有理同値で保たれる量を、双有理不変量といいます。
不変でない量もあります。次数や埋め込みの形は、双有理変換で変わります。
同型でなく双有理同値で分類するのは、扱いやすさのためです。特異点を許して形を単純にできます[5]。
練習
有理写像 から関数体の埋め込み を作るために要る条件はどれですか。
- が全域で定義されている
- が支配的である
- が単射である
- と の次元が等しい
支配的という条件が、体の側で単射性を保証しています。
よくある誤り
まとめます。
分数として書いたときに分母が消える場所、そこを探すのが出発点になります。











像が稠密でないと、像の上で消える関数を引き戻したときに 0 になり、体の準同型になりません。定義域が全体である必要はなく、稠密な開集合で足ります。支配的でありさえすれば、次元が違っても埋め込みは作れます。