代数曲面の分類……小平次元という 4 段の物差しで並べる
代数曲面の分類は、双有理同値で束ねてから小平次元で 4 段に分ける、という 2 段構えで進みます。
同型で分けようとすると細かくなりすぎます。ブローアップで点を膨らませただけの曲面まで別物になってしまうためです。
そこで双有理同値を採用し、各類から代表を 1 つ選びます。代表が最小モデルです。
以下では最小モデルの作り方をたどり、小平次元による 4 段の枠と、それぞれの段に入る曲面を並べます。
双有理同値で束ねる
2 つの曲面が双有理同値であるとは、稠密開集合どうしが同型になることでした[2]。関数体が 上同型であることと同値です。
ブローアップは双有理射です。点を 1 本の射影直線に置き換える操作で、関数体は変わりません。
したがって と、その 1 点をブローアップした曲面は双有理同値です。同じ類に入ります。
類の中には無限に多くの曲面があります。ブローアップは何度でもできるためです。
代表を選ぶ規則が要ります。膨らませていない、いちばん縮んだものを選びます。
曲線と最小モデル
曲面 の上の曲線 が、 に同型で自己交点数 をもつとき、 曲線といいます。
曲線は、ブローアップで現れる例外曲線の形です。カステルヌオーヴォの縮約定理から、逆に潰すこともできます[1]。
曲線を 1 本も含まない曲面を、最小といいます。他の曲面をブローアップして得られない曲面のことです[1]。
どの曲面も、有限回の縮約で最小モデルに到達します。ピカール数が毎回 1 ずつ減るので、いつか止まるためです。
なら最小モデルは同型を除いて一意です。 では一意にならず、 と線織曲面という 2 系統が現れます。
膨らませて、潰す
ブローアップと縮約を動かして見ます。
原点を通る方向が 1 点ずつに分かれ、集まって 1 本の射影直線になります。これが例外曲線です。
潰すと元の点に戻ります。行き来できるので、双有理同値は保たれます。
最小モデルとは、これ以上潰せない状態のこと。潰す相手がなくなった段階です。
小平次元
段を分ける物差しが小平次元です[1]。
標準因子 の倍数がもつ大域切断の個数を、 を増やしながら見ます。 が の程度で伸びるとき、 を小平次元といいます。
すべての で なら と約束します。切断が 1 つも育ちません。
曲面では のとる値が の 4 つです。次元が なので上限が になります。
は双有理不変量です。ブローアップしても変わらないので、類ごとに 1 つ決まります[2]。
4 段の枠
分類の骨格を並べます[1]。
| 小平次元 | 代表的な曲面 |
|---|---|
| 有理曲面、線織曲面 | |
| K3、アーベル、エンリケス | |
| 楕円曲面 | |
| 一般型曲面 |
が大きいほど、標準因子が育ちます。育つほど曲面は「大きい」と見なされる。
複素解析の側では、代数的でない曲面も入ります。VII 型や小平曲面がそれにあたり、代数曲面の分類からは外れます[1]。
の段
いちばん小さい段です。標準因子の切断がまったく育ちません。
有理曲面は と双有理な曲面です[2]。 や、 を何点かブローアップしたものが入ります。
線織曲面は、種数 の曲線の上に が並んだ形の曲面です。 なら有理曲面になります。
次曲面 は と同型で、有理曲面です[2]。
この段だけ最小モデルが一意になりません。 と線織曲面の 2 系統が代表になります。
の段
標準因子が育ちも縮みもしない段です。代表的なものを並べます。
標準因子が自明で、 です。したがって 、 になります。4 次曲面 が例です。
次元の複素トーラスで代数的なものです。標準因子は自明で 、 なので になります。
標準因子は自明でありませんが、 倍すると自明になります[1]。、 です。K3 曲面の 対 商として得られます。
アーベル曲面の有限群による商です。標準因子は有限位数で、やはり になります。
自明かどうかではなく、有限位数かどうかで段が決まります。 倍して自明になれば、切断は増えも減りもしません。
と
残る 2 段です。
の曲面は楕円曲面です[1]。曲線の上に、種数 の曲線が族として並んだ形をしています。
すべての楕円曲面が とは限りません。 が や になる楕円曲面もあります。逆向きの包含だけが成り立ちます。
が一般型です。標準因子が大きく育ち、 かつ をみたします[1]。
一般型がいちばん数が多く、分類も細かくなります。 と の組で細分する研究が続いています。
数値的不変量
段を判定する道具として、いくつかの数を使います[1]。
を幾何種数、 を不正則数といいます。
が正則オイラー標数です。ネーターの公式から とも書けます[1]。
| 有理曲面 | 、、 |
| 種数 の線織曲面 | 、、 |
| K3 曲面 | 、、 |
| アーベル曲面 | 、、 |
と を計算すれば、候補がかなり絞れます。 を直接計算するより手が短い。
図として並べる
4 段を縦に置いてみます。

上へ行くほど標準因子が育ち、曲面が複雑になります。いちばん下が有理曲面です。
曲線の場合と形が似ています。種数 、、 以上の 3 段に分かれ、 で言えば 、、 になる。
曲線では種数 1 つで済みますが、曲面では に加えて と が要ります。次元が上がったぶん、情報が増えています。
特異点をどう扱うか
分類は滑らかな曲面について述べられます。特異点があるときは、先に解消します。
標数 の体の上では、いつでも解消できることが知られています[5]。広中平祐の定理です。
曲面の場合は古くから知られていて、正標数でも解決しています。次元 までは全標数で完成した領域です[5]。
解消したあと最小モデルへ縮約し、そこで を測ります。手順が 3 段になっている点に注意が要ります。
練習
K3 曲面について正しいものはどれですか。
- 標準因子が豊富なので一般型である
- 標準因子が自明で、 なので になる
- と双有理なので有理曲面である
- 小平次元が である
と を先に計算する。それだけで段がほぼ決まります。
よくある誤り
まとめます。
双有理同値で束ね、代表を選び、 で段を決める。この 3 手が全体の骨格です。










K3 曲面は標準因子が自明なので mKX の切断が増えも減りもせず、小平次元は 0 です。pg=h0(KX)=1、q=0 なので χ=1−0+1=2 になります。有理曲面なら pg=0 なので、K3 は有理曲面ではありません。