代数曲面の分類理論
代数曲面の分類理論は、複素代数曲面(複素射影多様体で次元2のもの)を、その双有理同値類に基づいて体系的に整理する理論である。19世紀後半にイタリア学派が直感的に始めた研究を、20世紀に入って幾何的・解析的に厳密化したものが今日の形である。
双有理幾何の基礎
代数曲面の分類では、まず「同じ曲面」とみなす基準を双有理同値にとる。すなわち、有理写像で互いに逆写像をもつ関係を同値とし、そのクラスを「双有理同値類」と呼ぶ。双有理変換で得られる曲面は、基本的に同じ関数体をもつ。
代数曲面の多くは射影空間内の代数方程式で表されるが、双有理変換により特異点を消去(解消)した「滑らかなモデル」を考える。このとき、任意の曲面は有限回のブローアップによって特異点を除けることが知られている。
最小モデルと曲面の基本型
代数曲面の分類の中心概念が「最小モデル」である。滑らかな射影曲面 が与えられるとき、双有理変換で に移し、もはや 曲線(自己交叉数が の例外曲線)を含まないものを最小モデルという。すべての代数曲面は有限回のブローアップで最小モデルに還元できる。
この最小モデルに基づき、曲面は次のような型に分類される。
やそのブローアップで得られる曲面。関数体が有理関数体と同型で、双有理的に に等しい。
倍化によってK3曲面になるような曲面。正の標数では挙動が異なる。
標準因子が0()で、第一ベッチ数 。リッチ平坦なケーラー構造をもつ。
複素トーラスで代数的なもの。標準因子が0だが、。
標準因子が豊富で、曲面の複雑さを表す種数的関数が急速に増加する。最も「一般的」な曲面にあたる。
数値的不変量と分類
分類理論では、曲面の基本的な数値的不変量として次の3つが重要である。
不変量 (幾何種数)
不変量 (不正規性)
エウラー数
これらと、自己交叉数 によって曲面の型が決定される。特に、エンリケス–小平–志村の理論では、 の値によって最小モデルの型が系統的に整理される。
エンリケス–小平の分類
複素射影曲面の分類は、次のような表でまとめられる。
| Kodaira 次元 | 代表例 |
|---|---|
| 有理曲面、-束 | |
| K3 曲面、アーベル曲面、エンリケス曲面 | |
| 楕円曲面 | |
| 一般型曲面 |
Kodaira 次元 は標準因子 の増大度を測るものであり、曲面の「複雑さ」を示す量である。特に の曲面が「一般型」と呼ばれ、代数幾何において最も研究が進んでいる領域である。