ミンコフスキーの定理 - 代数的整数論
代数的整数論において「類数は有限である」という事実は基本的な定理の一つだが、その証明の核心にあるのがミンコフスキーの凸体定理である。幾何学的な直感を数論に持ち込むこの手法は、格子と凸体という素朴な道具立てから驚くほど強力な結論を引き出す。
格子と基本領域
次元実ベクトル空間 の中に、 個の線型独立なベクトル を取る。これらの整数係数線型結合
を 格子(lattice)と呼ぶ。格子は の中に規則正しく散らばる点の集まりであり、結晶構造のようなものだと思えばよい。
格子 に対して、基本領域(fundamental domain)を
で定義する。基本領域の体積は であり、これを格子の 余体積(covolume)と呼ぶ。 全体を基本領域の平行移動でタイル張りできるという点が重要になる。
ミンコフスキーの凸体定理
ミンコフスキーの定理の主張は次の通りである。
を の格子、 を原点対称()な凸集合とする。 の体積が
を満たすならば、 は原点以外の格子点を含む。すなわち である。
を半分に縮小した集合 の体積は となる。体積が基本領域より大きい集合を格子で「折りたたむ」と、鳩の巣原理によって必ず重なりが生じる。この重なりから原点以外の格子点の存在が従う。
証明の骨格を見ておこう。集合 を各格子点 で平行移動した たちを考える。これらを基本領域 に「折り返す」と、体積の合計が を超えるため、ある二つの異なる格子点 に対して が空でなくなる。つまり、ある が存在して が成り立つ。整理すると
となる。 が原点対称だから 、凸性から であり、左辺は なる格子点だから、 は原点以外の格子点を含む。
数体への応用:ミンコフスキー限界
ミンコフスキーの凸体定理を数体 のイデアル類群に適用すると、すべてのイデアル類の中に「ノルムが小さい」整数イデアルが見つかることが示せる。
を次数 の代数体とし、 を実埋め込みの個数、 を複素埋め込みの共役対の個数とする()。 の整数環 を に埋め込む標準的な方法(正準埋め込み)を使うと、 の像は の格子を成す。任意のイデアル も格子を成し、その余体積は判別式とイデアルのノルムで表される。
の像が成す格子の余体積は で与えられる。ここで は の判別式、 は のノルムである。
で定まる原点対称凸集合を取る。パラメータ を十分大きくすれば凸体定理の条件を満たす。
凸体の体積と格子の余体積を比較して凸体定理を適用すると、 の中にノルムの絶対値が
を満たす が存在することがわかる。右辺はイデアル に依存しない定数であり、これを ミンコフスキー限界(Minkowski bound)と呼ぶ。
類数の有限性
ミンコフスキー限界の意味するところは明快である。イデアル類群 の任意の元は、ノルムがミンコフスキー限界以下の整数イデアルを代表元に持つ。ノルムが有限の範囲に収まる整数イデアルは有限個しかないから、イデアル類群は有限群となる。
この論法の美しさは、幾何学(凸体定理)と代数(イデアル論)が自然に結びつく点にある。ミンコフスキー限界は実際の類数計算にも不可欠な道具であり、限界以下のノルムを持つ素イデアルをすべて調べ上げれば、それらの間の関係からイデアル類群の構造が決定できる。
具体例: の類数
で計算してみよう。, , , である。ミンコフスキー限界は
となる。したがって、ノルムが 以下の素イデアルだけを調べればよい。
において、 と分解される。この素イデアル は単項イデアルではない(ノルム の元が に存在しないため)。一方 は単項だから、 はイデアル類群の中で位数 の元を定める。これ以外に調べるべき素イデアルはないので、、すなわち類数は である。
この結果は が一意分解整域でないことと整合する。 という「二通りの分解」が存在するのは、まさに類数が でないことの帰結にほかならない。