フロベニウス自己同型|代数的整数論
Galois 拡大 において、不分岐な素イデアル に対して Galois 群の中に自然に定まる元が存在します。これがフロベニウス自己同型(Frobenius automorphism)であり、素イデアルの分解の情報を Galois 群の一つの元に凝縮したものです。
有限体のフロベニウス写像
フロベニウス自己同型の起源は有限体にあります。 を 個の元をもつ有限体とすると、写像
は の自己同型であり、これをフロベニウス写像と呼びます。拡大 の Galois 群は、 で生成される位数 の巡回群です。
有限体の拡大は常に巡回的であり、その生成元がフロベニウス写像で与えられるという事実が、代数的整数論におけるフロベニウス自己同型の出発点になっています。
数体におけるフロベニウス元の定義
を数体の Galois 拡大、 を の素イデアルとし、 を の上にある の素イデアルとします。 が で不分岐であるとき、惰性群 は自明群であり、分解群から剰余体の Galois 群への写像が同型を与えます。
右辺は有限体の拡大の Galois 群なので、()で生成される巡回群です。この同型を通じて、剰余体のフロベニウス写像に対応する の元をフロベニウス元と定義します。
この合同条件がフロベニウス元を一意に特徴づけます。剰余体上の 乗写像という「簡単な」操作が、Galois 群の中の具体的な元を指定するという点がこの構成の本質です。
共役類としてのフロベニウス
の上にある素イデアル の選び方を変えると、フロベニウス元は共役で移り合います。すなわち、 となる に対して、
が成り立ちます。したがって、 の選択によらずフロベニウス元は Galois 群の共役類を一つ定めます。
は の共役類として定まる。 の選び方で元自体は変わるが、共役類は不変。
が可換なので共役類は一点集合になり、 は の一つの元として確定する。
アーベル拡大でフロベニウス元が well-defined な群の元になるという性質は、アルティンの相互法則の定式化において本質的な役割を果たします。
フロベニウス元の位数と素イデアル分解
の位数は剰余次数 に等しくなります。これは が分解群 の生成元であり、不分岐のとき であることから直ちに従います。
この事実から、素イデアルの分解の型がフロベニウス元の位数で完全に決定されることがわかります。 の上にある素イデアルの個数は です。
のとき , 。 は最大個数の素イデアルに分解される。
が の生成元のとき , 。 はそのまま素イデアルとなる。
具体例: 二次体
を平方因子をもたない整数、 とします。()は位数 2 の巡回群です。
奇素数 が を割らないとき、 は で不分岐です。剰余体 は または のいずれかであり、フロベニウス元は次のルジャンドル記号で決まります。
( が を法とする二次剰余)のとき は完全分解し、 のとき は惰性的です。 の場合のガウス整数 を例にとると、 で完全分解、 で惰性的となります。
具体例: 円分体
を 乗根の原始根とします。 であり、 が対応します。 なる素数 に対して、 は不分岐であり、
となります。フロベニウス元が という初等的な情報で完全に記述されるのが円分体の特長です。
の分解の型は の における位数 で決まり、 は 個の素イデアルに分解されます。ここで はオイラーの 関数です。
| 条件 | 分解の型 | ||
|---|---|---|---|
| 完全分解 | |||
| が原始根 | 惰性的 | ||
| それ以外 | 部分分解 |
アルティン写像との関係
がアーベル拡大のとき、不分岐素イデアル に対する対応 は、イデアル群からの準同型に拡張されます。具体的には、 で分岐する素イデアルを除いた分数イデアル群 から への準同型
が定まります。この写像はアルティン写像(Artin map)と呼ばれます。
アルティンの相互法則は、このアルティン写像が適切な主イデアルの部分群を核にもつ全射準同型であることを主張します。
イデアル類群から Galois 群への同型が得られ、類体論の中心定理となる。
フロベニウス元はアルティン写像の「素イデアルでの値」にあたり、アルティン写像の全体像はフロベニウス元の積で生成されます。Neukirch の Algebraic Number Theory の第 V 章や Milne の Class Field Theory では、この写像の構成と基本性質が詳しく扱われています。
フロベニウス元の密度定理への応用
チェボタレフの密度定理は、Galois 群の任意の共役類 に対して、 となる素イデアル の集合が自然密度 をもつことを述べています。これはディリクレの算術級数定理の広範な一般化です。
二次体の場合、チェボタレフの密度定理は二次互恵法則と組み合わさって、 となる素数 の密度が であるというディリクレの定理を回復します。円分体の場合も同様に、フロベニウス元の分布がディリクレ指標を通じた 関数の非零性と結びつきます。
このように、フロベニウス自己同型は個々の素イデアルの分解を記述する局所的な道具であると同時に、素イデアルの全体的な分布を支配する大域的な理論の出発点でもあります。