付値論の基礎 - 代数的整数論

代数的整数論では、素イデアルによる「割り切れ方」を数値化する道具として付値(valuation)が現れます。付値は素イデアル分解という代数的な操作を、実数値をとる関数として再定式化したものであり、 進数や局所体の理論への入口にあたります。

付値の定義

を体とします。 上の付値(valuation)とは、写像 であって、次の 3 条件を満たすものです。

また便宜上 と定めます。第 1 条件は が乗法群 から への群準同型であることを意味しており、第 2 条件は超距離的不等式(ultrametric inequality)と呼ばれます。

値群(value group) でないとき を非自明な付値と呼びます。値群が と同型であるとき、 を離散付値(discrete valuation)と呼びます。代数的整数論で登場する付値のほとんどは離散付値です。

進付値

最も基本的な例は有理数体 上の 進付値です。素数 を固定し、 でない有理数

と書くとき、 と定義します。整数 で「何回割れるか」を表しています。

なので

なので

で割れないので

なので

が付値の公理を満たすことは直接確認できます。加法に関する超距離的不等式 は、和をとったときに の因子が減ることはあっても増えることはないという事実を反映しています。

絶対値と付値の関係

付値と密接に関連する概念として絶対値(absolute value)があります。 上の絶対値とは、写像 であって、次を満たすものです。

第 3 条件は三角不等式です。三角不等式のかわりに、より強い条件

が成り立つとき、この絶対値を非アルキメデス的(non-Archimedean)と呼びます。そうでない場合はアルキメデス的(Archimedean)と呼びます。

付値 から非アルキメデス的絶対値を構成するには、定数 をとって

とすればよく、 進付値の場合は とするのが標準的です。

この定義により、 で何度も割れる数ほど 進絶対値は小さくなります。通常の感覚とは逆で、)です。

アルキメデス的と非アルキメデス的

有理数体 上の絶対値は、通常の絶対値 と各素数 に対する 進絶対値 に分類されます。

アルキメデス的絶対値

通常の実数の絶対値。 であり、 が大きいほど絶対値も大きい。三角不等式は成り立つが超距離的不等式は成り立たない。

非アルキメデス的絶対値

で割れるほど小さくなる。。超距離的不等式 が成立する。

非アルキメデス的絶対値の特徴的な性質として、 のとき が成り立つという点があります。これは「すべての三角形が二等辺三角形になる」という超距離空間の直観に反する性質を生み出します。

オストロフスキーの定理

上の非自明な絶対値の完全な分類を与えるのがオストロフスキーの定理です。

オストロフスキーの定理によれば、 上の非自明な絶対値は、通常の絶対値 のべき、またはある素数 に対する 進絶対値 のべきと同値になります。

2 つの絶対値 が同値とは、ある正の実数 が存在して がすべての で成り立つこと。

この定理は、 を「眺める窓」が通常の大きさの感覚()と各素数 ごとの割り切れ方の感覚()で尽くされることを意味しています。素数と無限遠点(アルキメデス的な場所)がまったく同等の資格をもつという視点は、代数的整数論の基本的な思想です。

証明は Neukirch の Algebraic Number Theory の第 II 章や Gouvêa の p-adic Numbers の第 3 章で扱われています。

積公式

オストロフスキーの定理で与えられるすべての絶対値を合わせると、有名な積公式が成り立ちます。 の場所(place)の全体を とすると、 に対して

が成立します。たとえば に対して、

となります。)なので、積に寄与するのは の 3 つだけです。

積公式は素因数分解の一意性を絶対値の言葉で表現したものとも解釈でき、大域的な情報(有理数そのもの)と局所的な情報(各素数での振る舞い)を結びつける等式です。この公式は数体に一般化され、アデールやイデールの理論の出発点になります。

数体への一般化

を代数体、 をその整数環とします。 の各素イデアル に対して、 進付値 が定まります。 に対し、 と素イデアル分解したとき です。

の場所は次の 2 種類に分かれます。

有限場所(finite place)

の各素イデアル に対応する非アルキメデス的絶対値。 と定義される。

無限場所(infinite place)

から または への埋め込み に対応するアルキメデス的絶対値。 で定義される。実埋め込みは実場所、複素共役のペアは複素場所に対応する。

次の拡大であるとき、実埋め込みの個数 と複素共役ペアの個数 を満たします。たとえば は実埋め込みをもたず()、 は 2 つの実埋め込みをもちます()。

付値環と局所化

非アルキメデス的付値 に対して、

の部分環であり、付値環(valuation ring)と呼ばれます。その唯一の極大イデアルは

で与えられます。付値環は局所環であり、剰余体 は有限体です。

数体 の素イデアル に対する付値環 は、 での局所化 に一致します。離散付値環(DVR)は整域の局所化として可換環論に頻出する対象ですが、付値の観点からはそれが「一つの素イデアルでの振る舞いだけを見る」という操作に対応していることがわかります。

完備化への展望

絶対値 上に距離 を定めます。この距離に関して を完備化すると、有限場所からは 進体 の場合は )が、無限場所からは または が得られます。

有限場所での完備化

:非アルキメデス的な局所体。付値環の完備化は完備離散付値環となり、 進整数環 の一般化にあたる。

無限場所での完備化

または :アルキメデス的な局所体。通常の実数・複素数の解析が使える。

すべての場所での完備化を一度に扱う枠組みがアデール環 (制限直積)であり、大域的な数論の問題を局所的な情報に分解して考える「局所大域原理」の舞台となります。付値論はその土台にあたる基礎理論です。

体上の付値と絶対値の概念を定義し、p 進付値やアルキメデス的・非アルキメデス的の区別を解説する