二次形式と類数|代数的整数論

整数論における二次形式の理論は、ガウスが『算術研究』(Disquisitiones Arithmeticae, 1801)で体系化した古典的な分野である。二変数の二次形式をどう分類するかという問題は、一見すると代数的整数論とは無関係に見えるが、実際には二次体のイデアル類群と深い対応関係にある。この記事では、二次形式の基本概念を整理し、その分類がいかにして類数と結びつくかを見ていく。

二変数二次形式

整数係数の二変数二次形式とは

の形の式である。ここでは原始的(primitive)な形式、すなわち を満たすものだけを扱う。二次形式の性質を支配するのが 判別式(discriminant)

であり、 のとき正定値、 のとき不定値と呼ばれる。正定値とは、 のとき常に となることを意味し、幾何学的には楕円に対応する。

たとえば は判別式 の正定値形式である。一方 も判別式 であり、同じ判別式を持つ別の形式になっている。

同値と類

二つの二次形式が「本質的に同じ」かどうかを判定するために、同値の概念を導入する。整数係数の行列 (つまり の元)による変数変換

を施しても判別式は変わらない。この変換で移り合う二つの形式を 固有同値(properly equivalent)と呼び、同値類のことを (class)と呼ぶ。

同値な形式

のように、 の変換で移り合う形式は同じ類に属する

同値でない形式

はどちらも判別式 だが、互いに移り合わないので異なる類を成す

判別式 の原始的二次形式の固有同値類は有限個しか存在しない。その個数を と書き、形式類数(class number of forms)と呼ぶ。 の場合、 の 2 類しかないので である。

ガウスの合成

ガウスは二次形式の類の集合に群構造を定義した。二つの形式の類から新しい類を構成する操作を 合成(composition)と呼ぶ。合成の定義は技術的にやや複雑だが、本質的には次のような考え方に基づく。

形式 が表す整数と形式 が表す整数の積が、ある形式 で表される――この関係を類のレベルで定式化したものが合成である。主形式 が偶数のとき)または が奇数のとき)が単位元の役割を果たし、形式類数 はこの群の位数に一致する。

合成の具体例(

を自分自身と合成すると主形式 に戻る。したがって は位数 の元であり、類群は と同型になる。

合成の歴史的意義

ガウスの合成は 19 世紀の数論で中心的な道具だったが、その定義の煩雑さが長年の課題であった。ディリクレやデデキントがイデアル論を通じてこの操作をより自然に再定式化したことで、代数的整数論が誕生する契機となった。

二次体のイデアル類群との対応

判別式 の二次形式の類群が、二次体 のイデアル類群 と一致するという事実は、この理論の核心をなす。ここで の平方因子を除いた部分(基本判別式に対応する平方自由整数)である。

対応の仕組みを , の場合で見てみよう。 のイデアル に対して、 の元のノルムを計算すると二次形式 が現れる。逆に、判別式 の二次形式 からイデアル を構成できる。

二次形式対応するイデアル
(単項イデアル)
(非単項イデアル)

この対応は類のレベルで全単射を与え、合成とイデアルの積が整合する。すなわち形式類群とイデアル類群は群として同型になる。

形式類数 とイデアル類数 が一致するのは、この同型の直接的な帰結にほかならない。

形式が表す素数

二次形式と類数の関係は、「どの素数がどの形式で表されるか」という問題にも繋がっている。オイラーが経験的に発見し、後に厳密に証明された結果として、次の事実がある。

奇素数 に対して、 と表せる条件と、 と表せる条件は、 を法とした合同条件で完全に記述される。具体的には、 と書けるのは のうち特定の場合に限られ、残りの場合は で表される。

この現象は類体論の言葉で自然に説明できる。 のヒルベルト類体 であり、 がどちらの形式で表されるかは、 で完全分解するかどうかに対応する。類数が ならヒルベルト類体は 自身と一致し、表現の問題は単純な二次剰余の条件に帰着する。類数が だからこそ追加の判定条件が必要になるわけである。

不定値形式と実二次体

の場合(不定値形式)にも同様の理論が展開できるが、事情がやや複雑になる。正定値の場合と異なり、被約形式の個数を直接数え上げるのが難しい。これは実二次体の単数群が無限群であることに由来しており、形式の自己同型群が大きくなるためである。

正定値形式(

の有限部分群が自己同型を与える。被約形式の有限集合を直接列挙でき、類数の計算が比較的容易。

不定値形式(

連分数展開を用いて被約形式の巡回列を求める。周期が単数に対応し、ペル方程式 の解と密接に関連する。

たとえば の場合、基本判別式は となる。 の類数は であり、(判別式 )がただ一つの類を成す。基本単数 (黄金比)の存在が、不定値形式の自己同型を生み出している。

ガウスから現代へ

ガウスの二次形式の理論は、デデキントのイデアル論を経て、現代の代数的整数論に至る道筋を作った。二次形式の合成がイデアルの積に対応するという洞察は、「数の性質を調べるために数そのものではなくイデアルを見る」という代数的整数論の基本姿勢を先取りしていたと言える。

さらに、二次形式の類数を解析的に求めるディリクレの類数公式や、類体論による素数の表現問題の完全な解決など、この理論は代数的整数論の多くの分野に影響を与え続けている。形式の分類という素朴な問いが、これほど豊かな数学的構造に繋がっていることは、数論の奥深さを象徴している。