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判別式ひとつ計算すれば数体で分岐する素数が全部わかる

二次方程式の判別式 は、根が重なるかどうかを係数だけで言い当てます。数体の判別式も役目は同じで、素数が重なるかどうか、つまりどの素数が分岐するかを つの整数に畳み込む。

しかも情報は分岐だけにとどまりません。整数環を格子と見たときの体積、類数の評価、 で割った余りの制限まで、判別式から出てきます。

定義は行列式の 2 乗

次の数体、 を整数環 基底とします。 から代数閉包への埋め込みを と書く。

判別式は埋め込みを並べた行列の行列式を 乗したものです[1]

乗する理由は、埋め込みの並べ方で符号が変わるためです。行を入れ替えると行列式の符号が反転しますが、 乗すれば消える。

計算するときはトレースを使う形のほうが楽です。 を転置と掛け合わせると、 成分が になります。

こちらは有理数の行列なので、手で計算できます。

基底を変えても動かない

整数環の基底のとり方はいくつもあります。それでも判別式は変わりません。

つの基底を とすると、 となる整数行列 があります。逆向きにも整数行列があるので の元、つまり

埋め込みの行列は 倍されるので、行列式は 倍。 乗した判別式は 倍になり、値が動きません。基底に依存しない量として が定まります。

一般の基底では、判別式は平方数の因子だけずれることが知られています[1]

整数環の基底に限れば、そのずれが に潰れて完全に一意になる。

例:二次体を最後まで計算する

は平方因子を持たない整数とします。埋め込みは つ。

のとき、整数環の基底は です[2]。トレースは なので、

のときは基底が に変わります[2] なので、そのトレースは です。

基底が半分に縮んだぶん、判別式が になった、と読めます。

なので
なので
なので
なので
なので
なので
なので

格子の体積として見る

虚二次体では、整数環を複素平面の格子として描けます。このとき基本領域の面積が になる。

canvas: 絵を作れませんでした

の網目は の正方形なので面積 、公式のほうも です。 は底辺 、高さ で面積 は底辺 、高さ で面積 。どちらも と一致します。

判別式が大きいほど格子が粗い。粗い格子には小さいノルムの元が少なく、そのぶん類数が大きくなりやすい、という見通しがここから立ちます。

円分体の判別式

の次数は で、整数環の基底は です[3]

素数べきの場合、判別式は という形になります[3] を代入すると指数が に落ち、符号を決めれば次の式です。

なら なら では になり、 の判別式 と一致します。

分岐する素数はここに全部いる

判別式がいちばん強く効くのがこの定理です。素数 で分岐することと、 であることが同値になります[1]

を素因数分解すれば、分岐する素数の一覧がそのまま出る。 なら なので、分岐するのは だけです。

分岐は本来、素イデアル分解を計算しないと見えない現象です。それを つの整数の約数の問題に置き換えたところに、この不変量の価値があります。

4 で割った余りは 0 か 1

判別式には形の制限もあります。どの数体でも または になる。シュティッケルベルガーの判別式定理と呼ばれます[4]

古典的な証明が短くて気持ちいい。行列式 を、偶置換から来る項の和 と奇置換から来る項の和 に分けます。行列式は なので、

と書き直せる[4] は置換で動かない対称式なので有理数、しかも代数的整数なので有理整数です。

整数の 乗を で割った余りは しかありません。 は消えるので、 が出ます。

さきほどの表を見返すと、 の倍数、 で割って 余ります。 という条件が二次体の分かれ目だったことと、きれいに対応している。

下から押さえる

判別式には下からの評価もあります。 以外の数体では になる[1]

分岐と組み合わせると、強い結論が出ます。 なら素因数が必ずあるので、どの数体にも分岐する素数が少なくとも つ存在する。 の上に、どこでも不分岐な拡大は作れません。

どの数体の判別式にもなりえない数はどれですか。

__RESULT__

で割ると 余り、実際 の判別式です。 の倍数で の判別式。 で割ると 余るので、シュティッケルベルガーの制限に引っかかります。

分岐、格子の粗さ、 を法とする形。 つの整数を計算するだけで、これだけの情報が同時に手に入ります。

参考文献

Discriminant - Encyclopedia of Mathematics
Quadratic field - Encyclopedia of Mathematics
Cyclotomic field - Encyclopedia of Mathematics
A Auel, O Biesel, J Voight, *Stickelberger's discriminant theorem for algebras*
$d_K = \det(\mathrm{Tr}(\omega_i \omega_j))$ を計算すると、$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$ では $d \equiv 1 \pmod 4$ のとき $d$、それ以外で $4d$ になります。基底を変えても動かないのは、変換行列の行列式が $\pm 1$ で、$2$ 乗すると消えるため。素数 $p$ が分岐することと $p \mid d_K$ は同値なので、$-20 = -2^2 \cdot 5$ を見れば分岐するのが $2$ と $5$ だと分かります。虚二次体では格子の網目の面積が $\frac{\sqrt{|d_K|}}{2}$。$d_K \equiv 0, 1 \pmod 4$ というシュティッケルベルガーの制限を、$(P-N)^2 = (P+N)^2 - 4PN$ から出すところまで。