L 関数とディリクレ指標(代数的整数論)

リーマンのゼータ関数 が素数の分布を支配するという事実は広く知られている。ディリクレはこのゼータ関数を「ひねる」ことで、算術級数中の素数分布を解析する道具を作り上げた。それがディリクレ指標と L 関数であり、代数的整数論においてはイデアル類群の構造や類数公式と密接に結びつく。

ディリクレ指標

正整数 を法とする ディリクレ指標(Dirichlet character)とは、群準同型

のとき として 全体に拡張した関数のことである。完全乗法的、すなわち任意の に対して が成り立ち、周期 を持つ。

最も単純な例は 主指標 で、 のとき 、それ以外で となるものである。非自明な指標の典型例としては、ルジャンドル記号 がある。これは法 (奇素数)の指標であり、 を法とする二次剰余なら 、非剰余なら を返す。

指標の直交関係

の指標全体は の双対群を成し、 個存在する。指標の間には直交関係

が成り立つ。この直交性が、特定の剰余類に属する素数だけを「フィルタリング」する鍵となる。

原始指標と導手

指標 がより小さい法 )の指標から誘導されない場合、 を原始指標と呼ぶ。原始指標の法を 導手(conductor)という。L 関数の解析的性質は導手に大きく依存する。

ディリクレ L 関数

指標 に対して ディリクレ L 関数

で定義する。 で絶対収束し、オイラー積表示

を持つ。主指標 の場合は

となり、有限個の因子を除いてリーマンゼータ関数に一致する。

非自明な指標に対する L 関数が持つ決定的な性質は、 での非消滅である。

ディリクレは )を証明することで、算術級数 )の中に素数が無限に存在することを示した。

ディリクレの算術級数定理(1837 年)。指標の直交関係と L 関数の非消滅を組み合わせた証明は、解析的数論の出発点となった。

算術級数中の素数

ディリクレの議論の核心を簡単に振り返っておこう。 を満たす に対し、直交関係を使うと

と書ける。右辺の各項は での振る舞いに帰着する。主指標の寄与は の発散から来るため に飛ぶ。非自明な指標の寄与が有界であること、すなわち さえ示せれば、左辺も に発散し、素数の無限性が従う。

の証明には二つのケースがある。複素指標()の場合はゼータ関数や L 関数の積を使った比較的短い議論で済む。難しいのは実指標(、すなわち の値が のみ)の場合であり、ここで代数的整数論との接点が現れる。

L 関数と二次体の類数

実指標の典型例はクロネッカー記号 は基本判別式)である。この指標に付随する L 関数 は、二次体 のデデキントゼータ関数 と次の関係で結ばれる。

リーマンゼータ関数

上の素数(有理素数)についてのオイラー積。 で単純極を持つ。

デデキントゼータ関数

の整数環 のイデアルについてのオイラー積。 で単純極を持ち、留数が類数 を含む。

この因数分解は各素数 でのオイラー因子を比較すれば確認できる。 で分解するとき 、惰性のとき 、分岐のとき であり、それぞれ のオイラー因子が の因子の積に分かれる。

解析的類数公式との接続

の両辺で 付近の振る舞いを比較すると、 が類数 を含む明示的な公式で表される。虚二次体 )の場合、結果は

となる。ここで の単数の個数である( なら なら 、それ以外では )。

実二次体()の場合は

であり、 は基本単数を表す。いずれの場合も右辺は正だから が従い、ディリクレの算術級数定理における実指標のケースが解決する。

この公式の意味するところは深い。L 関数という解析的対象の での値が、類数という純代数的な量を決定しているのである。

ヘッケ L 関数への拡張

ディリクレ指標は 上の理論だが、一般の数体 に拡張したものが ヘッケ指標(Hecke character, Größencharakter)である。 のイデアル群上の指標 に対してヘッケ L 関数

を定義でき、解析接続や関数等式といったディリクレ L 関数と同様の性質を持つ。ヘッケ L 関数は類体論において重要な役割を果たし、アルティン L 関数やモチーフの L 関数へと発展していく起点でもある。

ディリクレが算術級数の素数を数えるために導入した L 関数は、代数的整数論の解析的側面を支える基盤となった。ゼータ関数を指標で「ひねる」という着想は、現代の数論が追求するラングランズ・プログラムにまで連なる壮大な流れの源流に位置している。