べき級数はどこまで届くのか?収束半径をコーシー・アダマールで決める
べき級数が収束するかどうかは、中心からの距離だけで決まります。
ある があって、 なら絶対収束、 なら発散する。この が収束半径です[1]。
境目がちょうど円になるところが、実の級数と違って見える点。実数だけを見ていると区間の端が 2 つあるように見えますが、複素平面では円周 1 本にまとまります。
は でも無限大でもよい。 なら中心以外どこでも発散し、無限大なら全平面で収束します。
アーベルの補題
収束の様子が円で決まる理由は、1 つの補題から出ます。
ある点 で項 が有界だとする。このとき を満たす で、級数は絶対収束します。
比を と置くと、項の大きさが で抑えられるため。等比級数と比べるだけの議論です。
つまり 1 点で収束すれば、それより内側ではすべて収束する。逆に 1 点で発散すれば、それより外側ではすべて発散します。
収束する点の集合が円板になるのはこのため。半径の上限が収束半径です[2]。
コーシー・アダマールの公式
係数から半径を計算する式があります。
上極限を使うところが要点です。極限が存在しない係数列でも、この式なら必ず値が決まります。
右辺が なら は無限大、無限大なら は と読みます。どんな係数列にも半径が定まる[1,2]。
導出は根の判定法から。 が より小さければ収束します。
ダランベールの形
比の極限が存在する場合には、こちらのほうが計算しやすい。
階乗や指数が入った係数では、比をとると大きく約分できます。根をとるより手数が少ない。
ただし極限が存在しないと使えません。係数が振動する場合は、コーシー・アダマールに戻ることになります。
例:指数関数
の係数は です。比をとる。
したがって収束半径は無限大。全平面で収束し、 は整関数です。
や も同じ形の係数を持つので、やはり整関数になります。
例:幾何級数
の係数はすべて です。根をとっても比をとっても になり、。
和は で に一致します。 で分母が消えるので、そこが半径を決めている。
半径が になる理由が、係数の側からも関数の側からも読める例です。
例:係数が振動する場合
を、 が偶数なら 、奇数なら とします。
比 は と を行き来し、極限を持ちません。ダランベールの形は使えない。
根のほうは と なので、上極限は です。したがって 。
上極限を使う理由がここに出ています。振動する係数でも、いちばん大きい寄り先を拾えばよい。
半径は最も近い特異点まで
級数が正則関数を表しているとき、半径には幾何的な意味があります。中心から、関数が正則に延ばせなくなる最も近い点までの距離。
級数が特異点を飛び越えて収束することはありません。飛び越えたなら、その点でも正則になってしまう。
逆に、収束円の内側では必ず正則です。項別に微分できるので、導関数も同じ半径のべき級数になります。
例:実軸では見えない特異点
は実軸のどこでも滑らかで、値も有限です。それでも原点まわりの級数は でしか収束しない。
実数だけを見ていると、 で止まる理由がどこにもありません。複素平面へ出ると に極があり、原点からの距離がちょうど 。
収束半径が実軸上の様子と合わないときは、虚軸の側に原因があります。実数だけの世界では説明がつかない現象。
収束円の内側でできること
の内側では、級数は広義一様収束します。コンパクトな部分集合の上で一様。
だから項別に微分も積分もできます。得られた級数の収束半径は、もとと同じ 。
を掛けても なので、上極限は変わりません。何回微分しても半径は保たれる。
級数の和は収束円の内側で正則です。逆に正則関数はべき級数に開けるので、2 つは同じものを別の言葉で言っているだけ[4,5]。
境界の上では場合による
の上での振る舞いは、級数ごとに違います。全部収束することも、全部発散することも、混ざることもある。
代表的な 3 つを並べます。どれも収束半径は です。
真ん中の例が、混ざる場合の典型です。 では調和級数になって発散し、 では交代級数で収束します。
アーベルの定理
境界の点で級数が収束しているとき、その値と内部からの極限がつながります。
が収束するなら、 を へ近づけたときの の極限が に一致する。
複素数の場合は、近づき方に条件が付きます。境界に接するように寄ってはいけません。 を満たす角の中から近づく必要があります。
この定理のおかげで、有名な値がいくつも計算できます。
の展開は で成り立ちます。 での級数が収束するので、アーベルの定理から左辺の値へつながる。
こちらは の展開に を入れた形です。どちらも境界の点での値を、内部からの極限として正当化しています。
逆向きの主張は一般には成り立ちません。極限が存在しても、級数が収束するとは限らない。条件を足した形はタウバー型の定理と呼ばれます[3]。
和や積の収束半径
2 つの級数を足すと、半径は小さいほうより小さくなりません。
半径が違えば等号が成り立ちます。同じなら大きくなることもある。 と を足せば になり、半径は無限大です。
積についても同じ形の不等式が成り立ちます。コーシー積の係数を評価すれば出る。
よくある誤り
係数という数列の情報が、収束円という幾何に翻訳されます。さらにその円は、関数の特異点の位置で説明される。数列と幾何と関数の 3 つが、1 つの半径で結ばれています。










