ガンマ関数とベータ関数〜階乗を実数の世界へ広げる
階乗は正の整数にしか定義されていません。ガンマ関数は、それを複素平面まで広げたものです。
正の整数 で になります[1]。番号が 1 つずれる形で階乗をなぞる。
広げ方はいくらでもあるのに、この 1 つだけが特別扱いされます。理由は後に出てくるボーア・モレルップの定理で、対数凸という条件を付けると候補が 1 つに絞られるため。
積分が収束する範囲
の近くでは が効きます。 なら指数が より大きく、可積分になる。
が大きいところでは が効きます。多項式の増大は指数関数の減衰に勝てないので、上端では問題が起きません。
したがって右半平面で収束します。左半平面へは、次の漸化式を使って延ばす。
漸化式
部分積分を 1 回だけ行います。
境界項は両端で消えるので、次の関係が残ります。
階乗の をそのまま写した形。 から始めて繰り返せば が出ます。
左半平面へ延ばす
漸化式を裏返すと、定義の外へ出られます。
右辺は で意味を持ちます。 だけが例外。
この操作を繰り返せば、 は複素平面全体へ有理型に延びます。極は に並び、どれも 1 位[2]。
留数も漸化式から読めます。
零点は 1 つもありません。 が整関数になるという事情が、無限乗積の表示につながります。
が になる
を入れて と置換します。
ガウス積分がそのまま出てきます。円周率が階乗の話に現れるのは、この経路から。
漸化式を使えば半整数の値がすべて決まります。
は奇数の二重階乗です。 なら 。
相反公式
と の値が、三角関数で結ばれます。
右辺の極は整数点に並び、左辺の極とちょうど対応します。 を入れれば が出る[3]。
の側で書くと、 の無限乗積と結びつきます。 に零点がないことも、右辺が有限のところで消えないという形で読めます。
倍数公式と乗法公式
引数を 2 倍する式がルジャンドルの倍数公式です。
倍に一般化したものがガウスの乗法公式。
とすれば倍数公式に戻ります[4]。等間隔にとった引数での値をまとめて扱えるので、和や積の計算で効く。
ワイエルシュトラスの無限乗積
は零点を に持つ整関数です。零点の位置から積の形が組めます。
はオイラー・マスケローニ定数で、およそ 。 の因子は積を収束させるために付けます。
この表示は、極と零点の位置だけから関数を組み立てる考え方の代表例です。
ボーア・モレルップの定理
階乗を延ばす関数は無数にあります。条件を 3 つ課すと、 に決まる。
正の実軸上でこの 3 つを満たす関数は しかありません[2]。 を標準とする根拠がこの定理です。
対数凸という条件は、被積分関数にヘルダーの不等式を当てれば確かめられます。滑らかさではなく凸性が決め手になる点が面白い。
スターリングの近似
大きな引数での振る舞いは、指数と平方根で書けます。
とすれば の近似式。相対誤差は の程度で、 が小さくてもよく合います。
近似の出どころは、被積分関数の山を正規分布で置き換える議論です。山の高さと幅を測ってガウス積分に帰着させる。
ベータ関数
もう 1 つのオイラー積分がベータ関数です。区間 上の積分で定義します。
両端で発散しないための条件が、そのまま収束条件になります。 の側で が、 の側で が効く。
と置換すれば、対称性がすぐ出ます。
ガンマ関数との関係
2 つのガンマ積分を掛けてから変数を置き換えると、ベータ関数が出てきます。
、 と置くと、ヤコビアンが になって積分が 2 つに分かれます。
前半が なので、次の関係が残る。
ベータ関数の計算は、これでガンマ関数に帰着します[5]。独立した関数というより、ガンマ関数の組み合わせを表す記号に近い。
三角関数の形
と置換すると、区間が に移ります。
と のべきの積分が、この 1 本で片づきます。ウォリスの積分と呼ばれる一群がここに収まる[6]。
とすれば左辺が 、右辺が で、両辺が合います。ここから を導く筋もある。
二項係数との関係
正の整数では、階乗の比になります。
二項係数の逆数に近い形。実際、 は の逆数になります。
だからベータ関数は、二項係数を実数の引数まで広げたものとも読めます。組合せの言葉と積分の言葉が同じものを指す。
漸化式
ガンマ関数の漸化式を持ち込むと、ベータ関数にも同じ形が出ます。
引数を 1 ずらすだけで値が比で決まるので、整数点での値を順に作れます。
例:具体的な値を出す
は です。被積分関数が定数 なので、区間の長さそのもの。
は になります。三角関数の形で書けば で、確かに 。
なら です。積分 と一致します。
使いどころ
確率論では、ベータ分布の正規化定数がベータ関数そのものです。密度は の形。
ガンマ分布やカイ二乗分布の正規化にはガンマ関数が出ます。指数の肩と積分区間が、そのまま定義に一致するため。
幾何では、 次元の球の体積にガンマ関数が現れます。
なら 、 なら から が出ます。次元が偶数か奇数かで見た目が変わる理由も、半整数の値から説明できる。
よくある誤り
階乗を延ばすという素朴な問いから始めて、極の並び、無限乗積、漸近の形まで一続きにつながります。ベータ関数はその途中に現れる、区間の上での対になる積分。











