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経路をどう選ぶか?留数定理で実積分を解くときの半円、鍵穴、長方形

実の積分を留数で解くとき、いちばん考えるのは経路の選び方です。

留数定理そのものは 1 行で書けます。難しいのは、求めたい実積分がその 1 行に乗るように、閉じた経路を用意するところ。

閉じた経路のうち、狙う部分が実積分になり、残りの部分が消えるか、既知の量になる[2]。この形に持ち込めるかどうかで勝負が決まります。

被積分関数の形ごとに、使う経路がだいたい決まっています[1]。まずは全体の並びから。

型 1:三角関数を単位円へ

から までの三角関数の積分は、単位円の周積分に書き換えます。

有理式の三角関数なら、置き換えたあとも有理関数です。単位円の内側の極を拾うだけで終わる。

周期が ちょうどであることが効いています。区間の端が同じ点へ戻るので、閉曲線になる。

例:分母に が入る積分

のとき、次の値が出ます。

置き換えると分母が の 2 次式になります。根のうち単位円の内側にあるほうを拾う。

2 つの根の積は なので、片方が内側なら他方は外側です[3] が、根が円周に乗らない条件になっています。

型 2:有理関数を半円で閉じる

実軸全体の広義積分は、上半平面の半円で閉じます。直径が求めたい積分で、円弧が消えてほしい部分。

円弧の寄与は長さによる評価で押さえます。半径 の半円の長さは

の程度なら、積は です。 なら へ落ちる。

有理関数では、分母の次数が分子より 以上大きければ足ります。 しか違わなければ別の議論が要る。

例:

上半平面の極は です。どちらも 1 位。

商の公式から、極 での留数は 。分母の を使うと に直せます。

次数の差が なので、円弧の寄与は で消えます。条件は余裕を持って満たされている。

型 3:振動する因子とジョルダンの補題

が掛かった積分では、まず に直します。最後に実部か虚部をとる。

上半平面では で、 なら 以下です。虚部が大きいところで指数的に小さくなる。

この減衰のおかげで、次数の差が しかなくても円弧の寄与が消えます。

ジョルダンの補題と呼ばれる評価です[5] へ行きさえすればよく、速さは問いません。

例:

を上半平面の半円で積分します。極は だけ。

留数は です。

のほうは虚部をとって です。被積分関数が奇関数なので、当然の値。

に替えてはいけません。 は上半平面で の程度に発散するので、弧の寄与が消えない。

型 4:実軸の上に極があるとき

被積分関数の極が実軸に乗ると、経路がその点を通ってしまいます。小さな半円でよけて通る。

よけた半円の寄与は、極が 1 位なら留数の 倍になります。1 周ぶんの の、ちょうど半分。

符号は回る向きで決まります。上へよけて時計回りに通れば負。

よけ方を変えると答えが変わるので、先に経路を決めてから計算します。ふつうは、主値をとるという約束をしておきます。

例:

を、原点をよけた半円で積分します。 の極は原点だけで、経路の内部には入りません。

したがって周積分は 。実軸の 2 本と、大きい弧と、小さい弧の和が になります。

大きい弧はジョルダンの補題で消えます。小さい弧は

実部からは の主値が だと分かります。奇関数の主値なので、これも当然の値。

もとの は原点で に伸びるので、そもそも特異点がありません。 に直したときだけ極が現れる。

型 5:分枝があるとき

が入ると、複素へ延ばしたとき多価になります。切れ目を入れて分枝を決める。

正の実軸を切れ目にとり、その上下すれすれを往復する鍵穴の経路を使います。上側と下側で値がずれることが、計算の手がかりになる[6]

上側では 、下側では です。差の因子 が残る。

内側の極は の 1 つで、留数は 。整理すると上の値になります。

ガンマ関数の相反公式と同じ右辺が現れます。ベータ関数を経由すると、両者がつながる[7,8]

型 6:長方形の経路

指数関数の周期を使う場合には、長方形が向きます。高さを周期にとると、上下の辺で被積分関数が定数倍だけ違う。

高さ の長方形をとります。上の辺では で、分母は のまま。

だから上の辺の積分が、下の辺の 倍になります。差をとると求めたい積分が係数付きで残る。

内側の極は の 1 つ[4]。左右の辺は を大きくすると消えます。

型 7:対数を掛ける手

分枝のない有理関数でも、わざと を掛けて鍵穴を使う手があります。

上下で ずれるので、差をとると が消えてもとの積分だけが残る。 を 2 乗して掛けると、 を 1 つ含む積分がとり出せます。

半直線上の積分を、対称性のない形のまま扱えるようになります。偶関数でないと半分にできない、という制約を回避する手筋。

主値をとる約束

実軸上に極があるとき、積分そのものは通常の意味では発散します。左右から同じ速さで近づける約束をすると、極限が存在することがある。

くぼませた経路の計算は、この主値を求めていることになります。近づけ方を変えると値が変わるので、どの意味の積分かを先に決めておく。

選び方のまとめ

被積分関数を見て、次の順に考えると迷いません。

三角関数の から なら、単位円へ置き換える
有理関数で次数の差が 以上なら、半円で閉じる
振動する因子があるなら、指数へ直してジョルダンの補題を使う
実軸に極があるなら、そこをくぼませて主値をとる
分枝があるなら、切れ目にそう鍵穴を使う
指数関数の周期があるなら、高さを周期にした長方形をとる
どれも当てはまらないなら、対数を掛けて鍵穴を試す

上から順に当てはめて、消えない部分が残らないか確かめる。残ってしまうときは、経路を選び直します。

よくある誤り

をそのまま複素へ延ばすと、弧の寄与が消えません。 に直します
次数の差が しかないと、半円の議論が通りません。別の減衰が要ります
実軸の極をよけた寄与は ではなく 倍。半周ぶんです
のときは下半平面で閉じます。 の減衰する側が変わる
分枝を決めずに鍵穴を回すと、上下の値の差が出せません
主値と通常の積分は別物です。どちらを求めているかを最初に決めます
単位円へ置き換えたあと、極が円周に乗っていないか確かめます
偶関数でない半直線の積分は、半分にできません。鍵穴か別の工夫が要ります

留数定理を使うところより、経路を用意するところに手数がかかります。被積分関数の形と経路の対応を覚えてしまえば、あとは機械的な計算に落ちる。

参考文献

Methods of contour integration - Wikipedia
Residue theorem - Wikipedia
Théorème des résidus - Wikipédia(フランス語)
留数定理 - 维基百科(中国語)
Jordan's lemma - Wikipedia
Complex logarithm - Wikipedia
Gamma function - Wikipedia
Beta function - Wikipedia
留数定理そのものは一行です。手数がかかるのは、求めたい実積分がその一行に乗るように閉じた経路を用意するところ。三角関数なら単位円へ置き換え、有理関数は次数の差が二以上なら半円で閉じ、振動する因子があれば指数に直してジョルダンの補題を使い、実軸に極があればくぼませて主値をとり、分枝があれば鍵穴を回し、指数関数の周期があれば高さを周期にした長方形をとる。どの型でも、消えてほしい部分がなぜ消えるかの評価まで添えました。当てはまらないときに対数を掛ける手も。