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English

複素平面に無限遠点を一つ足すと球になる - リーマン球面と立体射影

複素平面に点を 1 つ足すと、球面になります。足すのは無限遠点と呼ばれる 1 点だけ。

平面の果ては上下左右のどの向きにもありますが、それを全部 1 点にまとめる。左へ行っても右へ行っても、同じ場所へ着くという約束です。

得るものは大きい。有理関数の極と零点の個数がそろい、メビウス変換が全単射になり、 が原点と果てを入れ替えるだけの写像になります。

つなぎ方は立体射影で与えます[1]。単位球面の北極から光を当てて、赤道面へ影を落とす操作。

座標で書く

単位球面 をとり、赤道面を複素平面と同一視します。北極 から球面上の点 を通る直線が、 の面と交わる点が影。

南極 が原点へ、赤道が単位円周へ落ちます。南半球が円板の内側、北半球が外側。

逆向きの式も書けます。

を大きくすると へ近づく。北極だけが、どの複素数にも対応しません。そこに を置きます。

2 つのチャートで覆う

球面全体を 1 枚の座標では覆えません。北極を抜いた部分を で、南極を抜いた部分を別の座標で覆います。

2 つの座標が重なるのは、両極を抜いた部分。そこで という貼り合わせが効きます。

の座標では が見えず、 の座標では として見える。無限遠点が特別でなくなるのは、この 2 枚目のおかげです[2]

球面の上では、 は対等な 2 点にすぎません。どちらを原点と呼ぶかは、座標の選び方の問題。

円は円へ

立体射影には、角を保つという性質があります。球面上の 2 曲線の交角が、影の側でもそのまま残る。

もう 1 つ大切な性質が、円が円へ写ることです。球面を平面で切った切り口の円は、影の側でも円になる。

例外は、切り口が北極を通る場合。そのときだけ影が直線になります[5]

直線は無限遠点を通る円

平面の直線を球面へ持ち上げると、北極を通る円になります。だから直線は、無限遠点を通る円だと読める。

この読み替えで、円と直線の区別が消えます。メビウス変換が円を円へ写すという主張も、球面の上ではもっと素直な形になる。

平行な 2 直線は、球面では北極で交わります。無限遠で交わるという言い方の、幾何としての中身がここ。

弦距離

球面の上での近さを、平面の言葉へ翻訳できます。2 点を結ぶ弦の長さを使う。

平面では遠く離れた 2 点でも、どちらも絶対値が大きければ球面では近くなります。北極のまわりに集まるため。

との距離も書けます。 の弦距離は で、 が大きいほど小さい。

この距離で測ると、球面はコンパクトになります。どんな点列にも収束する部分列がある。平面ではできなかった議論が通るようになります。

無限遠での正則性

で正則かどうかは、座標をとり替えて調べます。 と置き、 で正則かを見る。

で正則なら、 で正則。 が極を持てば で極を持ちます。

多項式は で極を持ちます。 なら で、 位の極。

が真性特異点です。 の主要部が無限に続く。

例:有理関数を球面で見る

を考えます。 での振る舞いは、2 つの次数の大小で決まる。

になる。零点として数える
で最高次係数の比に落ち着く
で極を持つ。位数は次数の差

無限遠点まで込めて数えると、零点と極の個数がぴったりそろいます。どちらも 個。

たとえば に極を 1 つ、 に零点を 1 つ持ちます。平面だけで見ると数が合いませんが、球面なら合う。

一般に、次数 の有理関数はどの値も重複を込めてちょうど 回とります。値 も含めて成り立つ主張です。

メビウス変換は球面の回転

球面の等角な自己同型は、メビウス変換で尽きます[3,4]。逆にメビウス変換は、球面全体の全単射。

そのうち剛体回転にあたるものもあります。 がその代表で、 軸のまわりの半回転に対応する。

球面の点 へ移す操作が、平面では になります。座標の式に入れれば確かめられる。

有理型関数は球面への写像

極を という値だと認めれば、有理型関数は球面への連続な写像になります。

極のところで値が定義できないという不都合が消える。 は原点で という値をとる、と言えるようになります。

正則関数と有理型関数の違いも、行き先の違いとして整理されます。前者は平面への写像、後者は球面への写像。

コンパクトであることの効き目

球面は閉じた面で、コンパクトです。連続関数が最大値をとる、点列に収束する部分列がある、といった性質が使えます。

平面ではこれらが成り立ちません。点が無限に遠くへ逃げられるためです。逃げ場を 1 点にまとめると、逃げられなくなる。

この効き目がはっきり出るのはリウヴィルの定理[6]。整関数が でも正則なら、球面全体で正則ということになる。

球面はコンパクトなので は最大値をとり、最大値原理からその関数は定数です。有界という条件を、球面まで延びるという条件に置き換えた形。

例:整関数と有理関数の線引き

整関数のうち、 で極を持つものは多項式に限られます。 での位数が次数になる。

が真性特異点なら、多項式ではありません。 がそれにあたります[7,8]

球面全体で有理型な関数は、有理関数だけ。極が有限個しかありえず、それらを分母に集めれば商の形になるためです。

球面という舞台を用意すると、関数の種類がこのように整理されます。平面のままでは、無限遠での様子が視野に入らない。

よくある誤り

無限遠点は 1 点です。向きごとに別の点があるわけではありません
に符号はありません。実数の は同じ点になります
立体射影は角を保ちますが、面積は保ちません。北極に近いほど引き伸ばされます
での正則性は に直してから調べます。そのまま極限をとるだけでは足りない
零点と極の個数がそろうのは、無限遠点まで込めて数えたときです
球面で有理型なら有理関数。 が真性特異点なので外れます
は定義されません。演算は平面の中の話です
北極を通る円の影は直線。円が消えるわけではありません

平面に 1 点を足すという小さな操作で、扱いにくかった無限遠がふつうの点になります。 が対等になり、円と直線の区別が消え、有理関数の数え上げがそろう。舞台をとり替えるだけで、見通しがここまで変わります。

参考文献

Riemann sphere - Wikipedia
Riemannsche Zahlenkugel - Wikipedia(ドイツ語)
Möbius transformation - Wikipedia
Möbiustransformation - Wikipedia(ドイツ語)
Conformal map - Wikipedia
Liouville's theorem (complex analysis) - Wikipedia)
Isolated singularity - Wikipedia
Laurent series - Wikipedia
上下左右のどの果ても、まとめて一点に押し込みます。北極から光を当てて赤道面へ影を落とす立体射影で、球面と平面がつながる。二枚の座標で覆えば無限遠点は特別な点でなくなり、0 と対等になります。球面の円が平面の円へ、北極を通るときだけ直線へ落ちること。遠くへ逃げた点どうしが球面では近いこと。無限遠まで込めて数えると有理関数の零点と極の個数がそろうこと。1/z が球面の半回転にすぎないこと。そしてコンパクトさがリウヴィルの定理をどう言い換えるかまで。