複素べき関数の多価性、i の i 乗はなぜ実数になるのか
複素数のべき乗は、対数を経由して定義します。
が多価なので、 も多価になります。指数がどんな数かによって、値の個数が変わる。
最後の因子 が、 を動かしたときにいくつの値をとるか。それが多価性の正体です。
整数なら 1 つ、既約分数 なら 個、それ以外なら無限個。この 3 段階で分かれます[1]。
整数の指数
が整数なら です。 を変えても値が動きません。
だから通常のべき乗と一致します。 や を書くとき、分枝を気にする必要はない。
多価性が出るのは、指数が整数から外れたときだけ。ここが分かれ目です。
有理数の指数
既約分数 とします。 は が 進むごとに元へ戻る。
したがって値はちょうど 個。 個の値は、絶対値が同じで偏角が ずつずれた点として並びます。
いちばん素朴な例が 乗根です。 の値は、正 角形の頂点の形に並ぶ。
例: の 乗根
で とします。 なので、値は次の 個。
単位円周を 等分した点です。 なら と 。
これらを足すと になります。正 角形の頂点の重心が中心にあるため。
例:
実数の世界では と答えます。複素数では 3 つの値が出る。
、 なので、主値は次のとおり。
残りの 2 つは偏角を ずつずらして、 と です。実数の は 3 つのうちの 1 つにすぎない。
主値が実数にならない点に注意が要ります。実数の感覚のまま主値を使うと、答えがずれます。
無理数や複素数の指数
が無理数なら、 は ごとに違う値です。値は無限個あり、円周上に稠密に散らばります。
が複素数だと、絶対値まで動きます。 と書いて計算する。
虚部 が でなければ、 を変えるごとに絶対値が 倍される。値は等比的に並ぶ螺旋の点になります。
例:
を使います。
どの でも実数、しかも正です。虚数の虚数乗が実数になる。
主値は の 。他の値は 倍ずつ小さくなったり大きくなったりします。
不思議に見えますが、 の偏角が純虚数の指数と掛かって実数の指数に化けただけ。仕組みは単純です。
主値と正則性
主値対数を使って定義した値を、 の主値と呼びます。
負の実軸を切った領域で正則です。切れ目のところで値が跳ぶのは、対数と同じ事情[2,3]。
導関数の形は実の場合と変わりません。
ただし右辺の も同じ分枝でとる必要があります。混ぜると等式が崩れる。
が正の実数なら、原点まで連続に延びて を値にとります。 が負なら原点で発散する。
指数法則が崩れる
実数では当たり前の等式が、主値をとると成り立ちません。原因は対数法則の崩れがそのまま移ることです。
と は、 の因子だけずれます。
、 で試す。左辺は で、右辺は です。
も崩れます。
順序を変えただけで符号が変わりました。指数を約分してよいのは、途中に多価の操作がない場合だけ[1]。
底が正の実数なら安心
のとき、 の主値は実数の です。ここに を足しても、 の形を選べば一価になる。
この約束のもとでは、指数法則がそのまま成り立ちます。
や を書くときに分枝を気にしないのは、底が正の実数だからです。底が複素数になった瞬間に、事情が変わる。
平方根のリーマン面
の場合を幾何で見ます。原点のまわりを一周すると、偏角が だけ進んで符号が反転する。
もう一周すると偏角がさらに 進み、もとの値へ戻ります。だから面は 2 枚で閉じる。
対数のリーマン面が無限に続くのに対し、平方根は 2 階建てです。指数の分母 が、そのまま階数になります。
分岐点と切れ目
原点は分岐点です。まわりを一周すると値が別の枝へ移るので、そこで一価な関数として定義できません[5]。
無限遠点も分岐点になります。 と置くと の形になり、 のまわりで同じことが起きる。
が整数のときだけ、分岐点が消えます。値が 1 つなので、枝を移りようがない。
切れ目は原点から無限遠まで届く必要があります。2 つの分岐点を結ぶ線を引く、という見方もできる。
例: の切れ目
の分岐点は の 2 つです。無限遠点は分岐点になりません。
が大きいところでは で、一価に振る舞うため。2 つの分岐点で符号の反転が打ち消し合っています。
だから切れ目は と を結ぶ線分 1 本で足ります。無限遠まで伸ばす必要はない。
切れ目の入れ方を変えて、 と の 2 本にする流儀もあります。どちらを選ぶかで、関数の見え方が変わります。
積分への応用
被積分関数に の形が入る実積分では、分枝の跳びを利用します。
正の実軸を切れ目にとり、その上下すれすれを往復する鍵穴の経路を使う。上側では 、下側では になります。
差が の因子として残り、 での留数と組み合わせて上の値が出ます。多価であることが、かえって計算の手がかりになる[4]。
ガンマ関数の相反公式と同じ右辺が現れるのも偶然ではありません。ベータ関数を経由すると、両者が結びつきます[6,7]。
よくある誤り
対数の多価性が、そのまま指数の側へ流れ込んでいます。値がいくつになるかは、 という 1 つの因子を見れば決まる。仕組みが分かれば、どの場面でどれだけ気をつければよいかも見えてきます。









