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アダマールの三円定理と三直線定理、最大値の対数はなぜ凸になるのか

円環で正則な関数について、円周上の最大値の対数が、半径の対数の凸関数になります。

での の最大値とする。3 つの半径 をとると、真ん中の値が両端で押さえられます。

最大値原理は、内側の値が境界で押さえられると言いました。三円定理はそれを定量的にして、どれくらい押さえられるかを不等式で書きます。

対数目盛りでグラフを描くと、曲線が弦の下に来る。凸性という 1 語で言い切れる形になります[1]

別の書き方

不等式は積の形にも直せます。 を外すと見やすい。

に近ければ、右辺はほぼ の何乗かになります。両端の値の、位置で決まる重み付き幾何平均。

を内分する比とすると、次の形になります。

なら なら で、両端で等号。間では幾何平均で押さえられる。

証明の筋

補助関数 を考えます。 は、あとで都合よく選ぶ数。

の対数は です。 に零点がなければ調和なので、この式も調和になる[6]

調和関数の最大値原理から、円環での最大は 2 つの境界のどちらかでとられます[4,5]

を選んで、内側の円と外側の円での上界を等しくする。すると円環全体でその値が上界になり、真ん中の円での評価が出ます。

零点があるときは、少し手当てが要ります。零点を含む小さな円を除いて議論するか、極限をとる。結論は変わりません。

等号の場合

不等式が等号になるのは、 の形のときだけです。そうでなければ、 は狭義に凸。

なら で、 です。 の 1 次式なので、凸性の境目にあたる。

は整数でなくてもよい。円環では の分枝が選べる場合があるので、非整数でも成り立ちます。

例:多項式

の最大値は です。 なので、 が正の実数になる向きで最大になる。

とすると が小さいところではほぼ で、大きいところではほぼ に近づきます。

グラフは折れ線をなめらかにした形で、確かに下に凸。傾きが から へ移り、次数が傾きの上限として現れます。

3 つの円で見る

3 つの円を描いて、それぞれの上での最大値を比べます。真ん中の円が両端に近いほど、評価は厳しくなる。

上界の線が本当の最大値の上に来ています。両端では 2 つが一致し、間では上界のほうが余裕を持つ。

3 直線定理

同じ主張を、円環ではなく帯で述べた形もあります。指数写像で移し合えるので、中身は同じ。

という帯で が有界かつ正則、 をその直線上での上限とする。このとき の凸関数です[2]

証明も同じ形。 のべきを掛けて両端で 以下になる補助関数を作り、最大値原理を当てます。

帯は有界でないので、そのままでは最大値原理が使えません。 を掛けて遠方を押さえ、 を大きくして極限をとる、という一手間が入ります。

フラグメン・リンデレーフの原理

帯や扇形は有界でないので、最大値原理をそのまま使えません。境界で押さえられていても、内部で発散する例が作れます。

そこで、遠方での増大に条件を付けます。増え方が一定の速さを超えなければ、境界の上界が内部でも成り立つ。

扇形の中心角が のとき、 で成り立てばよい、という形です。角が鋭いほど、許される増大が速くなります[3]

補助関数を掛けて遠方を潰し、有界な部分で最大値原理を当ててから極限をとる。3 直線定理の証明と同じ手つきです。

補間への応用

3 直線定理は、作用素の評価を補間する道具になります。2 つの端点で評価が分かっていれば、間の評価が幾何平均で出る。

リース・トリンの補間定理がその代表です。関数空間の指数を複素数へ延ばし、帯の上の正則関数として扱う。

不等式の証明に複素解析を持ち込む筋道として、実解析の側でもよく使われます。

増大度の評価

整関数の位数を調べるときにも効きます。 の増え方が、凸性のおかげで扱いやすくなる。

凸関数の傾きは単調です。だから のような量の振る舞いが押さえられ、位数の定義が安定して働きます。

ゼータ関数の増大についても、同じ形の凸性が使われます。虚部を大きくしたときの増え方を実部の関数として見ると、それが凸になる。

臨界帯の中での評価が、両端での評価から補間できるようになります。未解決の予想も、この凸性からどれだけ改善できるかという形で述べられる[7]

よくある誤り

そのものが凸なのではありません。対数をとった量が、対数目盛りで凸になります
円環で正則であることが前提です。中に極があると成り立ちません
等号は のときだけ。それ以外では狭義に凸です
帯の場合は有界という条件が要ります。外すとフラグメン・リンデレーフの枠になる
最大値原理は有界領域の話です。帯や扇形にそのまま持ち込めません
真ん中の半径は、対数目盛りでの内分比で効きます。ふつうの比ではありません
零点があっても定理は成り立ちます。証明で少し手当てをするだけ
補助関数の肩の数は実数でよい。整数に限る必要はありません

最大値原理は、内側が境界で押さえられるとだけ言いました。三円定理はそこに目盛りを入れて、どれくらい押さえられるかを凸性 1 語で書きます。定性的な主張が定量的な道具へ変わる、いい例です。

参考文献

Hadamard three-circle theorem - Wikipedia
Hadamard three-lines theorem - Wikipedia
Phragmén-Lindelöf principle - Wikipedia
Maximum modulus principle - Wikipedia
Principio del módulo máximo - Wikipedia(スペイン語)
Harmonic function - Wikipedia
Riemann zeta function - Wikipedia
最大値原理は、内側の値が境界で押さえられるとだけ言いました。三円定理はそこに目盛りを入れます。円周上の最大値の対数が半径の対数の凸関数になるので、真ん中の円での値が両端の幾何平均で押さえられる。補助関数の肩の数を動かして両端の高さをそろえる、という証明の手つきを追い、等号が c z のラムダ乗に限ることを見ます。指数写像で帯へ移した三直線定理、有界でない領域へ運ぶためのフラグメン・リンデレーフの原理、作用素の評価を端点から補間する使い方、整関数の位数やゼータ関数の増大への応用まで。