ピカールの定理(真性特異点の振る舞い)

真性特異点における関数の振る舞いは極めて複雑で、ピカールの定理がその本質を捉えている。この定理は、正則関数が真性特異点の近くでほとんどすべての複素数値を取ることを主張する。

ピカールの大定理

で真性特異点を持つとする。このとき、 の任意の除外近傍 0 < |z - z_0| < \varepsilon において、 は高々 1 つの例外値を除くすべての複素数値を無限回取る。

これは驚くべき主張だ。極であれば と単純に発散するが、真性特異点では値が「暴れまくる」のである。

極での振る舞い

と一方向に発散。値域は の近傍に限られる。

真性特異点での振る舞い

のほぼ全体を何度も覆う。例外は高々 1 点のみ。

具体例:

で真性特異点を持つ。任意の に対して、 を解くと

を様々に取ることで、 のいくらでも近くに解が存在する。したがって は 0 以外のすべての値を 0 の近くで無限回取る。例外値は で、 は決して 0 にならない。

ピカールの小定理

ピカールの大定理には「小定理」と呼ばれる系がある。整関数で定数でないものは、高々 1 つの例外値を除くすべての複素数値を取る。

たとえば は 0 を除くすべての値を取る。 は例外値がなく、すべての複素数値を取る。

整関数の例外値

の例外値は 0。多項式には例外値がない(代数学の基本定理)。

超越整関数

, などは例外値を持たないものが多い。

カソラティ・ワイエルシュトラスの定理

ピカールの定理の弱いバージョンとして、カソラティ・ワイエルシュトラスの定理がある。 で真性特異点を持てば、 の像は で稠密である。つまり、任意の複素数の近くに の値が存在する。

ピカールの定理はこれを大幅に強化し、「稠密」どころか「高々 1 点を除いて到達」と主張する。

証明の難しさ

ピカールの定理の証明は初等的ではなく、モジュラー関数や楕円モジュラー関数を用いる方法、あるいは値分布論(ネヴァンリンナ理論)を用いる方法などがある。いずれも複素解析の深い理論を必要とする。

一方、カソラティ・ワイエルシュトラスの定理は最大値原理から比較的容易に証明できる。もし の像がある点 の近傍を避けるなら、 が有界正則となり、 が除去可能特異点か極となって矛盾する。

応用

ピカールの定理は、超越関数の値域に関する問題で威力を発揮する。たとえば、 がどの値を取るかという問いに対して、この関数は定数でない整関数なので、例外は高々 1 つ。実際に例外値は存在しないことが確かめられる。