とりこぼす値はいくつか……ピカールの小定理と大定理が言い切る
定数でない整関数は、高々 1 つの値を除いてすべての複素数を値にとります。落とせるのはたった 1 個。
これがピカールの小定理です[1]。有界な整関数は定数だ、というリウヴィルの定理を、はるかに強くした形になっています。
大定理はもっと強い。真性特異点のどんな小さな近傍でも、高々 1 つの例外を除くすべての値を、無限回とります。
近づくのではなく、実際にその値をとる[2]。しかも 1 回ではなく無限回です。
小定理
主張はこうです。 が複素平面全体で正則で定数でないなら、 の像は そのものか、 から 1 点を除いたもの。
つまり、2 つ以上の値を落とすことはできません。落とせるとしたら 1 個まで。
多項式なら 1 つも落としません。代数学の基本定理から、 はどの についても解を持ちます。
落とす値が本当に現れるのは、超越整関数の場合です。
例:指数関数
は という値だけをとりません。それ以外の複素数はすべて、しかも無限個の で実現されます。
を解くと です。 なら ごとに解があり、無限個。
のときだけ解がありません。 が正の数なので、決して にならない。
小定理の言う例外が、ちょうど 1 つ現れる例です。 なら例外は で、平行移動すれば例外の位置も動きます。
リウヴィルからピカールまで
同じ主題について、強さの違う 3 つの主張が並びます。
下へ行くほど結論が強くなります。像が広いというだけの主張から、抜ける値の個数まで数えた主張へ[3,4]。
大定理
が で真性特異点を持つとします。 を抜いたどんな小さな近傍をとっても、 の像は高々 1 点を除く複素平面全体。
しかも、それぞれの値は無限個の点でとられます。「近づく」ではなく「とる」であることと、「無限回」であることが、カゾラーティ・ワイエルシュトラスとの差です。
有理型の場合は例外が 2 つまで許されます。 という値も数えるためで、極を持つ関数では が例外にならない側へ回る。
例: が原点の近くでとる値
に対して を解きます。
を大きくすると分母の絶対値が大きくなり、 は へ近づく。だからどんな小さな近傍にも、解が無限個入ります。
だけは解を持ちません。例外がちょうど 1 つ現れる形です。
極なら像は外側の環に押しやられ、除去可能なら 1 点のまわりに縮まります。真性特異点だけが、枠のすみずみまで埋める。
大定理から小定理が出る
整関数は、無限遠点での振る舞いで 2 つに分かれます。多項式か、そうでないか。
多項式なら は極です。代数学の基本定理から、どの値もとります。
多項式でなければ、 は真性特異点。 の原点まわりの展開に、正の次数が無限に現れるためです。
そこへ大定理を当てると、高々 1 つの例外を除いてすべての値を無限回とることが出ます。これが小定理。
例外がちょうど 1 つになる理由
例外が 2 つ以上ありえないことは、被覆の言葉で説明されます。
と を抜いた平面には、単位円板からの正則な普遍被覆があります。モジュラー 関数と呼ばれる写像。
が と を落とすなら、 を被覆へ持ち上げられます。持ち上げた関数は平面全体から円板への正則写像なので、有界。
リウヴィルの定理から定数になり、 も定数です。落とせる値が 1 つまでだという結論が、ここから出ます[1]。
例外の位置は自由です。 の例外は で、どこへでも置けます。個数だけが 1 つに縛られる。
正規族による証明
もう 1 つの筋が、正規族を使う方法です。モンテル・カラテオドリの定理を土台にします。
球面の相異なる 3 値を落とす有理型関数の族は、正規である[5,6]。この定理から大定理が導けます。
真性特異点 のまわりで が 2 値を落とすと仮定する。縮小した円環の上で という族を作ると、これが正規になる。
正規性から部分列が広義一様収束し、 が で極か除去可能特異点を持つことが出ます。真性という仮定に反する。
定量的な形
ピカールの定理には、数値で押さえた形もあります。ショットキーの定理と呼ばれるもの。
が単位円板で正則、 と を落とし、 が与えられているとする。このとき での の上界が、 と だけで決まります。
ランダウの定理も同じ系列です。 と を決めると、 と を落とせる円板の半径に上限が付く。
これらから、極限の議論を経ずにピカールの定理を導くこともできます。定量的な評価のほうが、応用では使いやすい場面もある。
例外値の探し方
具体的な関数の例外値は、方程式を解いて調べます。 に解がないような を探す。
には例外がありません。 は についての 2 次方程式に直り、どの でも解を持ちます。
の例外は 、 の例外も です。指数関数を重ねても、落ちる値は増えません。
には例外がありません。 で をとり、それ以外の値も拾います。落とす値を持つ整関数のほうが、むしろ特別。
有理型の場合
有理型関数では、球面の値として も数えます。例外は 2 つまで。
は原点の近くで と を落とします。ちょうど 2 つの例外が出る例。
は原点が真性特異点ではありませんが、極が原点へ集まる非孤立特異点です。ピカールの枠の外になります[7,8]。
よくある誤り
真性特異点のまわりでは、関数が値をほとんどとり尽くします。そのことを、抜ける値をきっちり 1 個まで数え上げる形で言い切ったものがピカールの定理です。カゾラーティ・ワイエルシュトラスの「稠密」から、ここまで踏み込めます。









