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無限乗積の収束条件と具体例|サインからオイラー積まで

零点の場所を先に決めて、そこでだけ消える正則関数を作りたい。多項式なら と書けば済む。

零点が無限個あると、同じ手は使えない。因子を無限に掛けた式が値を持つとは限らないからだ。

無限乗積の収束理論は、この操作をいつ正当化できるかを決める。級数の理論を対数で移しただけに見えて、実際には級数にない現象がいくつも起きる。

収束の定義から 0 を外す理由

複素数列 に対し、部分積を と書く。無限乗積 は、この の極限として定義される。

ただし極限が 0 の場合を収束と呼ばない。因子が 1 つでも 0 なら残りが何であっても になり、ほかの因子の情報が完全に消えてしまうためだ。

そこで、有限個を除くすべての因子が 0 でなく、 が 0 でない有限値に収束するときに限って収束という。区別を強調するときは狭義収束と呼ぶ。

収束

が 0 でない有限値に近づく。無限乗積が収束するといえば、通常はこの場合だけを指す。

0 に発散

因子に 0 がないのに となる場合。値としては 0 に落ち着くが、収束とは扱わない。

発散

が極限を持たない場合と、無限大に飛ぶ場合。

この約束は狭すぎるように見えるが、そうしないと次の節の判定条件が成り立たなくなる。

部分積の比で書く収束条件

判定は部分積そのものではなく、比で書くと見通しがよい。任意の に対しある があって、 なら となること。これが収束の必要十分条件である。

級数のコーシー条件が和の差を見るところ、乗積では商を見ている。 で割る操作が許されるのは、極限から 0 を外しておいたおかげだ。

ここから必要条件がすぐ出る。 の極限は なので、 でなければならない。級数の にあたる条件である。

絶対収束の判定条件

もっとも使う定理を先に書く。 ならば は収束し、どの因子も 0 でなければ狭義収束する。

証明は対数を経由する。 が収束するので、ある番号から先は となる。

主値対数のべき級数から、 のとき次の評価が立つ。

よって は絶対収束する。その和を とおこう。

指数関数は連続だから、部分積は となる。先頭の有限個を掛け戻せば全体の収束が従う。

が絶対収束

指数関数で戻して積が収束

この条件を満たすとき、乗積は絶対収束するという。級数と同じで、因子の順序を入れ替えても値は変わらない。

対数を使わない証明

複素数の対数には分枝の選び方がついて回る。関数列を扱う段になると、対数を経由しない証明のほうが安全で、しかも一様性がそのまま出る。

かつ とする。 より は有限である。

隣り合う部分積の差は で、 だから となる。

が収束するので、 を差の和として書いた望遠鏡和は絶対収束する。したがって は収束する。

0 にならないことも同じ道具で言える。 とおくと であり、 の範囲では から が出る。

同じ議論で も収束する。その極限を とすれば なので、 である。

評価に使ったのは だけで、 の偏角には触れていない。関数列に持ち上げるときに効いてくるのは、この点だ。

級数が収束しても積は収束しない

で考える。交代級数なので は収束する。

対数を展開すると、2 次の項が符号を持たない形で残る。

第 1 項の和は収束し、第 3 項の和も絶対収束する。ところが に発散してしまう。

対数の和が に落ちるので、部分積は 0 に近づく。数値で追うと でようやく 0.0053 ほどである。

のとき は収束する。では無限乗積 はどうなるか。

  • 同じく収束する
  • 0 に発散する
  • 無限大に発散する
  • 振動して極限を持たない
__RESULT__

を展開すると が残り、対数の和が に落ちる。部分積は 0 に近づくが、この場合を収束とは呼ばない。

級数の収束は、乗積の収束を保証しない。

積が収束しても級数は収束しない

逆向きの例も作れる。 ごとに因子を 2 つずつ並べ、 とする。

隣り合う 2 つを掛けると、 が打ち消し合って 3 次の項だけが残る。

は収束するから、偶数番目までの部分積は狭義収束する。奇数番目の部分積は、そこに の逆数を掛けたものなので、同じ極限を持つ。

ところが である。級数のほうは調和級数と同じ速さで発散してしまう。

2 つの反例の部分積を並べると、振る舞いの違いがはっきりする。

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CSS
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	<text x="290" y="196" font-size="11" fill="#d0562a">1/sqrt(n)</text>
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上が の部分積で、奇数番目でちょうど 1 に戻りながら 1 へ収束する。下が の部分積で、同じように振動しながら 0 へ滑り落ちていく。

分母の指数が かという違いしかない。それでも、収束するかどうかが分かれる。

二乗和を足すと同値になる

2 つの反例は、どちらも が発散している。ここを押さえると、級数と乗積はきちんと対応する。

のもとでは、 の収束と の収束は同値になる。

証明は展開の 3 次以降を評価すればよい。 のとき次が成り立つ。

の範囲では だから、 は絶対収束する。

したがって は同時に収束し、同時に発散する。片方だけが収束することは起こらない。

級数

項を足す。 が絶対収束の条件で、条件収束でも和は定まる。

無限乗積

因子を掛ける。 の収束だけでは足りず、二乗和が暴れると 0 に潰れる。

判定条件を整理すると、次の 3 つを押さえておけばよい。

なら積は収束する
の収束だけでは足りない
を加えると級数と積が同値になる

正則関数列の積

ここまでの評価は、そのまま関数列に持ち上がる。領域 上の正則関数 が、 の各コンパクト集合 を満たすとしよう。

このとき で広義一様収束し、極限 で正則になる。望遠鏡和の評価が 上で一様に効くからだ。

零点も追跡できる。 を含む閉円板 を取り、 となる を選ぶ。

の因子だけを掛けた積は、 の議論から 上で 0 にならない。よって における零点の位数は、最初の 個の因子の位数の和に等しい。

つまり の零点は各因子の零点の合併であり、位数は重複度の和になる。無限乗積が零点を指定して関数を作る道具になるのは、この事実による。

因子が消えない範囲では対数微分が和に化け、 が成り立つ。

のこと。積を和に変える操作で、有限積での等式を広義一様収束の極限に渡して得られる。

この形は青山学院大学に提出された無限積の公式についての卒業論文にも、証明つきで整理されている。

望遠鏡のように潰れる積

具体例に移る。まずは有限の計算だけで値が出るものから。

と分解すると、隣どうしが打ち消し合う。

になる。 が収束するので、判定条件からも収束は保証されている。

二進法が見える積

のとき、次の等式が成り立つ。

証明は差の公式の反復による。、これに を掛けて 、と続けていくと次の形になる。

だから右辺は 1 に近づく。両辺を で割れば主張が出る。

左辺を展開したとき の係数がすべて 1 になるのは、各 が 2 のべきの和として一意に書けること、つまり 2 進法表示の一意性そのものである。

倍角公式から出る積

三角関数の乗積は、加法定理だけでも作れる。

倍角公式 回繰り返すと、次の等式を得る。

と書けるので に近づく。両辺を で割って極限を取れば主張が出る。

ヴィエトの公式

前節に を代入すると、 から次が出る。

半角公式 を繰り返すと、右辺は根号の入れ子で書ける。

これが 1593 年にヴィエトが与えた式で、記録に残る最初の無限乗積とされる。収束の理論が整うより 300 年近く前の仕事である。

1593
ヴィエトの公式

根号の入れ子による の表示。無限乗積が数学に現れた最初の例とされる。

1655
ウォリスの公式

サインのべきの積分から、 を有理数の積で表した。

1748
オイラーの無限解析入門

サインの乗積をはじめ、無限乗積を体系的に扱った最初の書物。

1876
ワイエルシュトラスの因数分解定理

任意の零点分布に対して整関数を構成する方法が確立した。

1893
アダマールの因数分解定理

位数が有限な整関数について、指数部分が多項式に収まることを示した。

サインの無限乗積

もっとも有名な例に入る。

まず収束を確かめておく。 上で だから、右辺は広義一様収束して整関数を定める。

等式の証明は対数微分による。右辺を とおくと、次のようになる。

一方、余接には部分分数展開が知られている。

こちらはヘルグロッツの技法による初等的な証明があり、Proofs from THE BOOK に収録された証明が読みやすい。周期性と関数等式だけで押し切る議論である。

左辺は の対数微分だから、 上で 2 つの対数微分が一致する。この領域は連結なので、 は定数になる。

ではどちらも に漸近するから、その定数は 1 である。

ウォリスの公式

サインの乗積に を代入する。

したがって となる。逆数を取って書き直すと、有理数だけの積になる。

ウォリスは 1655 年に、サインのべきの積分の漸化式からこの式に達した。サインの乗積を先に知っていれば、代入 1 回で済んでしまう。

バーゼル問題

同じ乗積から の値も出る。テイラー展開は次の形である。

乗積のほうを展開すると、 の係数に平方数の逆数和が現れる。

両者を比べて 、すなわち を得る。

オイラーは 1735 年にこの係数比較でバーゼル問題を解いた。乗積の収束が厳密に正当化されるのは、ずっと後のことになる。

コサインの無限乗積

を使うと、コサインの乗積が出る。分子と分母をそれぞれ乗積で書いてみよう。

分子で の因子は になり、分母の因子とちょうど打ち消し合う。絶対収束しているので、偶数番と奇数番に並べ替えてよい。

残るのは奇数番の因子だけである。

零点は で、コサインの零点と一致している。

収束因子が要る場面

ここまでの例は が効いていた。零点を に置きたいときは、素朴な形では失敗する。

は、たとえば で部分積が となって発散する。 が発散する以上、判定条件も使えない。

打つ手は、零点を動かさない因子を掛けることだ。 は決して 0 にならないので、 の零点は のままである。

この因子の対数を展開すると 1 次の項が消え、 から始まる。今度は が収束するので、判定条件に乗る。

基本因子の評価

一般の零点列に対しては、打ち消す次数を上げていく。基本因子を次のように定める。

要になるのは、 での評価 である。証明は係数の符号を見るだけでよい。

微分すると、指数部分がそのまま残る形になる。

指数関数の展開係数はすべて非負だから、 の導関数は非負係数のべき級数で、 から始まる。

積分すれば と書ける。 を代入すると である。

したがって では次の評価が従う。

零点 に対して と取れば、 上で となる番号から先は になる。和が有限なので、判定条件が使える。

任意の零点分布から整関数を作れるというのがワイエルシュトラスの因数分解定理で、1876 年の仕事である。

円柱領域への拡張はクザンが 1895 年に、一般の形での解決はセールが 1953 年に与えたとドイツ語版 Wikipediaは記している。

ガンマ関数の無限乗積

基本因子 を使った形の代表例が、ガンマ関数の逆数である。

を落とすと が発散して積が壊れる。前節の収束因子が、ここで実際に働いている。

が出てくる理由は、ガウスの表示から追える。

逆数を取り、 を使うと、次の形になる。

各因子に を押し込むと、指数の肩に が残る。ここで は調和数で、 だから が現れる。

は整関数で、零点は にそれぞれ 1 位である。ガンマ関数そのものの性質はガンマ関数とベータ関数にまとめてある。

相反公式の導出

乗積表示からは相反公式も出る。 を掛けると、 が消え、 も消える。

サインの乗積から なので、右辺は になる。

を使って書き換えると、相反公式が出る。

使ったのは零点の位置だけである。そこからガンマ関数の対称性が出てくるところに、乗積表示の力がある。

ブラシュケ積

単位円板 の中では事情が変わる。有界正則関数の零点 は、 を満たさなければならない。

逆にこの条件のもとでは、零点をちょうど に持つ有界正則関数が作れる。

各因子は円板の自己同型で、境界では絶対値が 1 になる。 という定数は、 での値を正にそろえて収束を出すための調整である。

原点が零点のときは を別に掛ける。整関数における の役目を、ここでは自己同型の分母 が果たしている。

条件と構成はEncyclopedia of Mathematics の記述にまとまっている。

オイラー積と素数の無限性

素数を渡る乗積も、同じ理論で扱える。 のとき次が成り立つ。

ここで は素数全体を走る。収束は判定条件から出る。 とおくと である。

等式の中身は素因数分解の一意性そのものだ。 以下の素数だけで積を作り、各因子を等比級数に開くと、素因数がすべて 以下の について がちょうど 1 回ずつ現れる。

差を評価すると、 より大きい素因数を持つ数だけが残る。

右辺は で 0 に近づく。

の側で見ると、素数の無限性が落ちてくる。同じ展開から であり、右辺は発散する。

素数が有限個なら左辺は によらず有限にとどまるので、矛盾する。これがオイラーによる素数の無限性の証明である。

五角数定理

最後は解析よりも組合せ論に近い例を挙げる。 なら は有限なので、次の積は絶対収束する。

指数に現れる の形をしていて、五角数と呼ばれる。まとめて書くと次のようになる。

展開すれば無数の項が出るはずのところ、係数がほとんど 0 になり、残るのが だけという点が著しい。分割数の漸化式は、ここから導かれる。

収束の議論さえ済ませてしまえば、無限乗積は恒等式を運ぶ器としても働く。零点から関数を組み立てる道具であると同時に、こうした等式の住処でもある。

参考文献

複素関数論における無限積の公式
Produits infinis
Fonctions entières et produits infinis
Produit infini
Weierstraßscher Produktsatz
Целые функции в анализе
Cotangent and the Herglotz trick
Bounds for Weierstrass Elementary Factors
Weierstrass and Hadamard Factorization of Entire Functions
Hadamard factorization theorem
Blaschke product
無限積の定義と収束・発散
無限乗積がいつ値を持つかを、収束の定義から順に確かめる。絶対収束の判定条件を証明し、級数の収束とずれる反例を両方向から挙げる。正則関数列の積が零点を継承することを示したうえで、サインやガンマ関数の乗積表示、基本因子の評価、オイラー積を導く。