留数の計算方法と実積分への応用|1 位・n 位の極・本質的特異点・4 つの経路
留数定理は、閉曲線に沿う複素積分を、内部の特異点での留数の総和に置き換えます。
左辺の積分がどれだけ複雑でも、右辺はいくつかの留数を足すだけ。だから留数定理を使いこなす鍵は、ただ一点、特異点での留数をすばやく正確に求められるかにかかっています。ここでは留数の計算法をひととおり整理し、そのまま実積分の計算へつなげます。手を動かす例を数多く置くので、読みながら一緒に計算してみてください。留数を求める作業は、いつも同じ流れをたどります。
被積分関数の特異点をすべて見つける
各特異点が極か本質的特異点かを見分ける
極なら公式、本質的特異点ならローラン展開で留数を出す
経路の内部にある留数を足し、 を掛ける
留数とは:ローラン展開の の係数
留数のいちばん根本の定義は、ローラン展開の係数です。孤立特異点 のまわりで を
とローラン展開したとき、 の係数 を の における留数と呼び、 と書きます。なぜこの一項だけが特別かというと、閉曲線に沿って項別に積分したとき、 が のときだけ になり、ほかはすべて になるからです。留数だけが積分に生き残るのです。
この定義は、極でない特異点にもそのまま使えるのが強みです。たとえば は で本質的特異点をもち、あとで出てくる極の公式は通用しません。それでも指数関数の展開に を代入すれば、
と展開でき、 の係数は 。ですから とすぐわかります。以下では、特異点が極の場合に、展開を経由せず留数を出す公式を順に見ていきます。
1 位の極(単純極)
が で 1 位の極(単純極)をもつとき、留数は次の極限で求まります。
を掛けて極を打ち消し、 を代入するだけです。いちばん簡単な なら、 なので になります。
極が複数ある場合は、一つずつ処理します。 を見ましょう。 では に を入れて 、 では に を入れて です。二つの留数の和が になるのは、 が無限遠で のように振る舞うことの表れで、のちの無限遠点の話につながります。
分数型の必殺公式
の形で、 かつ 、 のとき、つまり が分母の単純な零点のとき、留数は微分ひとつで書けます。
分母をわざわざ因数分解しなくてよいので、実戦でもっとも出番の多い公式です。 なら、 で ですから、 と一発です。
三角関数がからむと威力が際立ちます。 は で極をもち、 だから 。どの整数点でも留数は です。同じく の では、 になります。分母が高次でも使えて、 の極 ()では、 より と、極そのもので簡潔に表せます。
高位の極
極が 位になると、微分が要ります。 が で 位の極をもつとき、留数は次で与えられます。
を掛けて極を消し、 回微分してから代入します。 なら微分は 回で、さきほどの単純極の公式にちょうど戻ります。
例を見ましょう。 は で 2 位の極です。 を 1 回微分すると 、 を代入して 、 を掛けて です。分子が定数でないと、微分がちゃんと効いてきます。 は 3 位の極で、 を 2 回微分して で 、 を掛けて 。もう一つ、 の (2 位)では、 を 1 回微分して 、 で 、 です。ちなみに のように分子が定数なら、 の 2 階微分が となって とあっさり消えます。微分が結果に効くのは、分子に が残るときです。
本質的特異点はローラン展開で
極の公式が使えるのは、特異点が極のときだけです。本質的特異点では がどんな でも有限になってくれず、頼れるのはローラン展開だけになります。定義そのものに立ち返り、 の係数を読み取ります。
を で考えます。 の展開に を入れると、
これに を掛けると となり、 の係数は 。したがって です。特異点が極か本質的特異点かで、使う道具ははっきり分かれます。
が正則になります。 位なら と 回微分の公式で、展開せずに留数が出せます。
どんな でも が発散します。公式は使えず、ローラン展開して の係数を直接読むしかありません。
見分け方は単純で、 を掛けて有限に収まる があれば極、いつまでも収まらなければ本質的特異点です。
無限遠点の留数と総和ゼロ
特異点は有限の場所だけとは限りません。無限遠点 にも留数を定義でき、 と置き換えて次で与えられます。
これがなぜ便利かというと、次の美しい事実があるからです。有限個の特異点しかもたない関数では、無限遠点も含めたすべての留数の総和が になります。
この総和ゼロを使うと、面倒な高位の極を回り道できます。 の での留数を、まともに求めれば 5 位の極で 4 階微分が必要です。ところが総和ゼロなら一瞬です。 での留数は単純極で 、無限遠では が のように速く減衰するので 。したがって
から と、微分をいっさいせずに求まります。念のため を展開して の係数を見ても で、ぴたりと一致します。
どの経路を選ぶか
ここから実積分へ入ります。実積分を留数で解く決め手は、積分を複素平面の閉曲線へ化けさせる経路を、うまく選ぶことです。積分の形ごとに、たどるべき定石の経路が決まっています。
の形です。 と置くと単位円 上の積分になり、内側の極だけを拾います。
の形です。上半平面に大きな半円を足して閉じ、半円上の積分が で消えることを使います。
極を小さな半円でよけた「くぼみ経路」を使い、主値と半円の寄与を分けて評価します。
順に、具体例で計算していきます。
応用①三角関数型の積分
まず三角関数型です。 とおくと、 が から まで動くとき は単位円をちょうど一周し、、 と書き換わります。
<div class="ucirc">
<svg viewBox="0 0 320 300" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="単位円と内側・外側の極">
<rect x="0" y="0" width="320" height="300" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<line x1="42" y1="150" x2="278" y2="150" stroke="#dfe3e8" stroke-width="1"/>
<line x1="160" y1="46" x2="160" y2="254" stroke="#dfe3e8" stroke-width="1"/>
<circle cx="160" cy="150" r="80" fill="#eef4fe" fill-opacity="0.6" stroke="#5b8def" stroke-width="1.8"/>
<polygon points="152,70 161,66 161,74" fill="#5b8def"/>
<circle cx="160" cy="150" r="3" fill="#33373d"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="15" text-anchor="middle" stroke="#fafbfc" stroke-width="3" paint-order="stroke">
<text x="126" y="167" fill="#e5484d">×</text>
<text x="188" y="126" fill="#e5484d">×</text>
<text x="272" y="155" fill="#8b9098">×</text>
</g>
<text x="170" y="163" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="11" fill="#5b6169" text-anchor="middle">0</text>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="11" fill="#5b6169" text-anchor="middle">
<text x="160" y="280">単位円 |z|=1 上の積分に帰着</text>
<text x="160" y="295">内側の極(赤 ×)だけが寄与・外側(灰 ×)は無視</text>
</g>
</svg>
</div>.ucirc { margin: 0; text-align: center; }
.ucirc svg { width: 100%; max-width: 320px; height: auto; }でやってみます。置換すると、次のように単位円上の積分になります。
分母の零点は で、単位円の内側にあるのは だけです。単純極なので 公式を使い、 から留数を求めます。
あとは留数定理を当てるだけです。
同じ手順は一般の ()にそのまま効いて、結果は になります。たとえば なら と即座に出ます。
応用②有理関数の広義積分
次に、実軸全体にわたる有理関数の積分です。上半平面に半径 の半円を足して閉曲線を作り、 とします。
<div class="uhalf">
<svg viewBox="0 0 340 240" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="上半平面の半円経路と上半面の極">
<rect x="0" y="0" width="340" height="240" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<line x1="25" y1="170" x2="315" y2="170" stroke="#dfe3e8" stroke-width="1"/>
<path d="M 55 170 A 115 115 0 0 1 285 170" fill="#eef4fe" fill-opacity="0.6" stroke="#5b8def" stroke-width="1.8"/>
<line x1="55" y1="170" x2="285" y2="170" stroke="#5b8def" stroke-width="1.8"/>
<polygon points="188,170 179,166 179,174" fill="#5b8def"/>
<polygon points="160,55 169,51 169,59" fill="#5b8def"/>
<text x="170" y="114" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="15" fill="#e5484d" text-anchor="middle" stroke="#fafbfc" stroke-width="3" paint-order="stroke">×</text>
<text x="182" y="114" font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" fill="#33373d" text-anchor="start" stroke="#fafbfc" stroke-width="3" paint-order="stroke">i</text>
<circle cx="170" cy="170" r="2.5" fill="#33373d"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="11" fill="#5b6169" text-anchor="middle">
<text x="55" y="186">−R</text>
<text x="285" y="186">R</text>
<text x="305" y="164">実軸</text>
<text x="170" y="224">上半平面の半円経路・弧の積分は R → ∞ で 0(ジョルダンの補題)</text>
</g>
</svg>
</div>.uhalf { margin: 0; text-align: center; }
.uhalf svg { width: 100%; max-width: 340px; height: auto; }分母の次数が分子より 以上大きければ、半円上の積分は で に収束し、実軸上の積分だけが残ります。 では、 が上半平面に極 をもち、 なので、次のようになります。
もう少し歯ごたえのある例をいくつか挙げます。 は、上半平面の極 の留数を足して 。分母が高次の も、分子が 次・分母が 次で次数差 を満たし、やはり になります。2 位の極が出る では、 が 2 位の極で、 を で評価して留数 、積分は です。
応用③フーリエ型とジョルダンの補題
被積分に や がかかると、そのままでは半円上で発散しかねません。うまい手は、、 と複素指数へ持ち上げることです。 は上半平面 で と減衰するので、半円上の積分がちゃんと消えます(ジョルダンの補題)。
を求めましょう。 を上半平面で積分すると、極 での留数は なので、
この実部をとって を得ます。虚部は で、被積分が奇関数になる 側ときちんと整合します。同じやり方で も、 の虚部から取り出せます。
応用④実軸上に極:くぼみ経路
最後は、極が積分路の実軸そのものに乗っている難しい場合です。代表が で、 が問題になります。 を使い、原点を半径 の小さな半円でよけた経路(くぼみ経路)で積分します。
閉曲線の内部には極がないので、経路全体の積分は 。大きい半円は で消えます。原点をよける小さな半円は、時計回りに半周するぶん、留数のちょうど半分だけ寄与し、 を与えます。残る実軸上の主値積分がこれを打ち消すので、
となります。両辺の虚部をとれば、。有名なディリクレ積分が、留数の半分ぶんの寄与としてきれいに現れます。 は で穴があかず連続なので主値と通常の積分は一致し、 も同時に得られます。
理解の確認
の における留数はいくつでしょうか。
- 。分子が なので消える
- 。2 位の極なので を で評価する
- 。3 位の極として扱う
留数は積分の万能ドライバー
留数の求め方はたった数種類、実積分の経路も型が決まっているのに、そこから引き出せる積分は驚くほど幅広い。 の微分公式と 、そしてローラン展開さえ押さえれば、あとは経路を選んで内部の留数を足すだけです。ここで扱った四つの型の先には、原点から切り込みを入れて を出すキーホール経路や、 の留数がどこでも になることを使って を導く級数和の技法が広がっています。積分や級数を「特異点での留数」という一点に集約して眺める。留数計算は、複素解析がもつその強力な視点を、そのまま手を動かす道具に変えたものなのです。











z=0 は 2 位の極なので、公式は Res(f,0)=(2−1)!1limz→0dzd[z2⋅z2ez]=dzdezz=0=e0=1 です。(z−a)n を掛けて n−1=1 回微分するのがポイントで、分子が定数でないぶん、微分が結果に効いてきます。分子が定数の z21 なら微分が 0 で留数も 0 になり、両者の違いがはっきりします。