無限個の零点をもつ「因数分解」〜ワイエルシュトラスの積表示で整関数を組み立てる
多項式は、零点をすべて並べた積の形に書けます。整関数でも同じことをしたい。
零点が無限個になると、素朴に積を並べただけでは収束しません。項が に近づいても、ずれが積もれば積は崩れる。
ワイエルシュトラスは、各因子に指数関数の補正を掛けて収束させる方法を見つけました。零点をどこに何個置いても、それを実現する整関数が作れる[1]。
代数学の基本定理を、次数が無限の場合まで運んだ定理です。
素朴な積が壊れる理由
零点を とし、 を作ってみます。
各因子は に近づきます。それでも積が収束するとは限らない。
対数をとると和になります。 なので、 が発散すれば和も発散する。
零点が と並ぶ場合がその例です。 が発散するので、素朴な積は使えません。
初等因子
打ち消すために、指数関数を掛けます。 のテイラー展開の頭を、指数の肩で相殺する形。
これを初等因子と呼びます[2]。 が大きいほど、 からのずれが小さくなる。
零点の位置は でも のまま変わりません。指数関数は決して にならないので、掛けても零点が増えない。
定理の主張
零点を並べた列 が、絶対値が無限へ発散するように与えられているとします。
このとき、それらをちょうど零点に持つ整関数が存在します。原点での零点の位数 も自由に指定できる。
は任意の整関数で、 は収束させるために選ぶ非負整数。 ととれば、どんな列でも必ず収束します。
逆に、零点が同じ整関数どうしは の違いしかありません。商をとると零点のない整関数になり、その対数が整関数として作れるためです[6]。
例:サインの積表示
零点が整数全体に並ぶ関数として、 があります。
と を組にして掛けているので、補正の指数が打ち消し合っています。 と が消えるため、素朴な形で書ける。
組にしなければ、初等因子 を使うことになります。片側だけ見ると が発散するので、補正が要る。
因子を足すと、零点が内側から順にそろっていきます。無限に続ければ、サインの形になる。
例:コサインとガンマ関数
の零点は半整数に並びます。同じ形で書ける。
ガンマ関数の逆数は、零点が と負の整数に並ぶ整関数です。こちらは補正が消えず、指数が残ります。
はオイラー・マスケローニ定数。 の部分が、定理の にあたります[3]。
零点が片側にしか並ばないので、組にして打ち消す手が使えません。だから の形がそのまま残る。
収束指数
補正の項数をいくつにとればよいかは、零点の散らばり方で決まります。
これを満たす最小の非負整数 を選べば、 をそろえて使えます。零点が疎なほど は小さくてよい。
零点が に比例するなら 。 に比例するなら が収束するので で足ります。
位数
整関数の伸び方を測る量が位数です。 を での最大値とする。
多項式は位数 、 は位数 、 は位数 です。 を 2 回とるので、指数の肩の次数が拾えます。
位数と零点の散らばり方は結びついています。位数が なら、半径 の中の零点の個数は 程度で押さえられる。
アダマールの因数分解定理
位数が有限なら、ワイエルシュトラスの形をもっと絞れます。
は多項式で、その次数は位数 以下。補正の項数 も、すべての因子で同じ値にそろえられて 以下です。
と の大きいほうを種数と呼びます。位数との間に という関係が成り立つ。
任意の整関数 という自由が、多項式の指数まで狭まります。位数が分かれば、関数の形がかなり決まる[1]。
例:位数から形を決める
位数 の整関数で、零点を持たないものを考えます。
アダマールの定理から の形しかありません。 の次数が 以下で、積の部分が空になるため。
は位数 で、零点が整数に並びます。個数は半径に比例するので、 が収束して 。
は位数 です。零点は に並び、個数は半径の平方根に比例する。 が収束するので で足ります。
零点はどこにでも置ける
定理の言うことは、零点の配置に制限がないという事実でもあります。集積点を持たない列でありさえすればよい。
有限の点に集まってはいけません。集まれば一致の定理から、関数が恒等的に になってしまう[5]。
だから条件は、絶対値が無限へ発散することだけ。どんなに疎でも密でも、実現する整関数が作れます。
有理型関数は商になる
分母と分子に整関数を置けば、有理型関数が作れます。逆も成り立つ。
領域全体で有理型な関数は、共通零点を持たない 2 つの整関数の商として書けます。極の位置を零点に持つ整関数を分母に作り、掛けて分子を得る。
多項式の商が有理関数だったのに対応する形です。次数が無限の場合でも同じ構造が保たれる[7]。
極の側を指定するとどうなるか
零点ではなく、極とその主要部を指定する定理もあります。ミッタク・レフラーの定理[4]。
の極はすべて整数にあり、留数はどれも です。主要部を並べて足すだけでは収束しないので、そこでも補正を入れます。
ワイエルシュトラスが積で零点を作るのに対し、ミッタク・レフラーは和で極を作る。対数微分をとると、片方がもう片方に移ります。
サインの積表示を対数微分すると、コタンジェントの部分分数分解が出ます。2 つの定理が裏表であることが、この計算に現れている。
よくある誤り
零点の場所を決めるだけで整関数が作れる。逆に、整関数は零点と 1 つの指数因子で書き尽くせる。多項式で当たり前だったことが、無限次数まで持ち上がりました。









