等角写像とは?角を保ったまま形だけが変わり、ラプラス方程式も保たれる
正則関数による写像は、2 つの曲線が交わる角度を変えません。ただし の点に限ります。
長さは変わります。形もゆがみます。それでも交わる角だけは、もとのまま残る。この性質を等角と呼びます[1]。
理由は微分の姿にあります。 を極形式で と書くと、 のごく近くで写像は 倍の拡大と の回転になる。どちらも角を変えません。
実の 2 変数写像なら、縦横で伸び方を変えたり、せん断を掛けたりできます。正則関数はそれができない。ヤコビ行列が、正の数と回転行列の積という特別な形に縛られています[2,3]。
等角の定義
2 つの滑らかな曲線が点 で交わり、そこでの接線がなす角を とします。像の 2 曲線が で作る角が同じ で、向きも同じなら、 は で等角。
角の大きさだけでなく、回る向きまで保つ点が大切です。向きが裏返るものは反等角と呼び、別扱いにします。
正則で ならば で等角になり、逆も成り立ちます。等角であることと、微分が消えない正則性が同じ意味になる。
なぜ角が保たれるのか
の近くで 1 次まで近似します。
主要部は を掛ける操作だけ。複素数を掛けるとは、回して伸ばすことでした。
曲線の接ベクトルは、どれも同じ を掛けられます。2 本の接ベクトルが同じだけ回るので、その差である交角は変わらない。
伸びる倍率も向きによりません。 という 1 つの数で決まるので、無限小の円は無限小の円へ写ります。だから局所的には相似変換に見える。
例: の局所的な姿
の導関数は です。原点以外では消えないので、そこでは等角。
での微分は なので、近くでは 倍に拡大するだけ。回転は入りません。
での微分は です。絶対値が 、偏角が なので、 倍して 度回す写像に見えます。
離れた点では話が別。大域的には正方形の格子が放物線の網へ変わりますが、どの交点でも直角は直角のまま残ります。
臨界点では角が何倍にもなる
の点を臨界点と呼びます。ここでは近似の主要部が消えるので、上の議論が効きません。
が で 位の零点を持つ、つまり展開の最初の項が なら、角はちょうど 倍になります。
偏角が 倍になるので、交角も 倍。 のときだけ角が保たれる、という読み方もできます。
例: の原点
原点で交わる 2 本の半直線を、偏角 と にとります。 で写すと偏角は と 。
交角は から へ変わります。直角に交わる 2 本は、像では一直線に伸びる。
第 1 象限が上半平面へ広がるのも同じ話です。開き の扇が、開き の半平面になる。
向きを裏返す写像
共役をとる は、角の大きさを保ちますが向きを裏返します。反等角と呼ばれる類。
正則ではないので、等角写像の仲間には入りません。 の形をした写像はすべてこの型になります。
鏡映を偶数回合成すれば向きが戻るので、等角写像に化けます。反転と共役を組み合わせた写像がその例。
基本の等角写像
よく使う写像を並べます。どれも導関数が消えないか、消える点をはっきり把握できるものです。
平行移動と回転と拡大の合成が 1 次関数 です。これに反転を組み合わせると、次のメビウス変換になります。
メビウス変換
分数の形をした写像です。
条件 は、写像がつぶれないための条件。導関数は なので、極を除いてどこでも消えません。
リーマン球面まで広げると、球面全体を球面全体へ写す等角写像になります。球面の自己同型はこれで尽きる[4]。
円と直線を、円と直線へ写す性質があります。直線を無限遠点を通る円と見なせば、円は円へ写るという 1 つの規則にまとまる。
指数関数の写す先
は を へ写します。絶対値が 、偏角が 。
縦の直線 一定は、半径 の円へ写ります。横の直線 一定は、原点から出る半直線へ。
だから縦横の格子が、同心円と放射状の直線の網に変わる。直交する 2 つの族が、また直交する 2 つの族になります。
例:帯を上半平面へ
という高さ の帯を考えます。 で写すと、偏角が から までを動く。
つまり像は上半平面。帯の下の辺が正の実軸へ、上の辺が負の実軸へ移ります。
逆向きの写像は で、上半平面を帯へ戻します。角度の情報が高さに、大きさの情報が横位置に変わる。
帯の高さを ではなく にすると、像は原点を抜いた平面全体になります。高さが を超えると重なりが起きて、1 対 1 でなくなる。
べき関数で角を開く
は原点での角の開きを 倍にします。 は正の実数でよい。
開き の扇形を半平面へ写したければ、 ととる。 なら で、 が第 1 象限を上半平面へ広げます。
逆に とすれば角が半分になります。上半平面が第 1 象限へ折り込まれる。
分枝を選ばないと一価にならない点に注意が要ります。扇形を切り開いた領域で 1 つの分枝を固定してから使う。
ジューコフスキー変換
翼のまわりの流れを扱うときに使われる写像です。
導関数は なので、 が臨界点。そこでは角が 倍になり、なめらかな円周が鋭い後縁へ折れます。
原点中心の単位円は、実軸上の線分 へつぶれる。中心をずらした円をとると、像が翼の形になります。
円が臨界点 を通るように半径を選びます。そこだけ角が 倍になり、 度が 度に開いて後縁の鋭い先が生まれる。
円のまわりの流れは手で書けるので、写像で引き戻せば翼のまわりの流れが得られます。等角写像が実際の設計に使われた例です。
シュワルツ・クリストッフェル変換
多角形の内部へ写す写像には、積分の形の公式があります。
は実軸上の点で、多角形の頂点に対応します。 が頂点の内角。
各因子が で角を開く働きをします。べき関数で角を変える仕組みを、頂点ごとに並べた形です。
ラプラス方程式が保たれる
等角写像がよく使われるいちばんの理由は、調和性が保たれることにあります。
が調和で が正則なら、 もまた調和。合成の計算をすると、ラプラシアンに が掛かる形になるためです。
なら右辺は です[5]。だから難しい形の領域での境界値問題を、円板や半平面の問題へ移して解ける。
境界の条件も、境界どうしが対応していれば移ります。解いてから写像で戻せば、もとの領域での解になる。
応用の形
静電場の電位、定常状態の温度、渦のない流れの速度ポテンシャル。どれもラプラス方程式に従います。
複雑な形の導体のまわりの電位を、円のまわりの電位に置き換えて解く。角のある領域では、べき関数で角を伸ばして扱いやすくする。
流体では、円柱まわりの流れという解ける問題から出発します。典型はジューコフスキー変換で、円を翼の形へ移します。
リーマンの写像定理
どこまで自由に形を変えられるか、という問いに答える定理があります。
複素平面全体でない単連結領域は、どれも単位円板へ等角に、しかも 1 対 1 に写せます。領域の形がどれだけ入り組んでいても関係ありません。
平面全体だけが例外です。有界な像へ写す正則関数は、リウヴィルの定理から定数になってしまうため。
写像は 1 つに決まりません。中心へ送る点を 1 つ選び、そこでの微分の偏角を決めると、そこで初めて一意になります。自由度は 3 つ[6]。
証明は存在を言うだけで、写像を書き下す方法は与えません。具体的な形が分かるのは、多角形や扇形のような限られた場合だけです。
よくある誤り
角を保つという 1 つの条件が、正則性とぴったり重なります。複素微分可能という代数の条件と、角度を変えないという幾何の条件が、同じものの表と裏になっている。










