有界な整関数はどれも定数になってしまう〜リウヴィルの定理から代数学の基本定理へ
複素平面全体で正則な関数が有界なら、それは定数です[1]。
実関数では通りません。 は実数全体で何回でも微分でき、 から に収まり、それでも定数ではない。
複素では、この 2 つが両立しません。全平面で正則という条件と有界という条件がぶつかり、動く余地が残らなくなります。
理由はコーシーの評価式にあります。導関数の大きさが、半径を大きくとるほど小さく抑えられてしまう[3]。
整関数
複素平面全体で正則な関数を整関数と呼びます。多項式、、、 がその例。
は原点で正則でないので外れます。 も極が並ぶので整関数ではない。
整関数は原点まわりのテイラー級数が全平面で収束します。収束半径をさえぎる特異点がどこにもないため。
多項式は係数が途中で止まった整関数です。止まらない整関数を超越整関数と言います。
定理と証明
コーシーの積分公式から、導関数は円周上の積分で書けます。半径 の円をとる。
長さによる評価を当てます。分子は 以下、分母は 、経路の長さは 。
が整関数なら、 をいくらでも大きくとれます。右辺は へ行く。
したがって です。 は任意だったので となり、連結な平面の上で は定数になります[2]。
テイラー係数で書いた証明も同じ形です。 で とすれば、 の係数がすべて消える。
例: は有界にならない
が有界だとすると、リウヴィルの定理から定数になってしまいます。、 なので定数ではない。
実際、 を実軸上で大きくすれば はいくらでも大きくなります。有界でない理由を直接見るのも簡単。
面白いのは逆向きの読み方です。 が定数でないという当たり前の事実だけから、どこかで発散することが言えます。
例: も複素では有界でない
実軸上では です。ところが虚軸へ出ると様子が変わる。
を大きくすれば指数関数の速さで伸びます。実軸だけを見ていると気づかない振る舞い。
同じことは でも起きます。実軸で有界に見える関数が、複素平面では必ずどこかで発散する。
実部が抑えられているだけでも足りる
条件をもっと弱くできます。 が整関数で、実部が上から抑えられているとする。
を作ると です。実部に上界があれば にも上界があり、 は有界な整関数になる。
リウヴィルの定理から は定数で、 が定数なら も定数です。実部だけを見た条件で、関数全体が決まってしまう。
二重周期の整関数も定数になる
と を同時に満たす整関数を考えます。
値は 1 辺 の正方形の上だけで決まります。閉じた正方形はコンパクトなので、連続な はそこで最大値をとる。
平面全体の値がその繰り返しなので、 は有界です。したがって定数になる。
零でない楕円関数が必ず極を持つのは、この議論の裏返しです。定数でない二重周期関数は、整関数ではいられない。
多項式まで広げる
有界という条件を、多項式の速さで伸びてよいという条件にゆるめられます。
が十分大きい で成り立つなら、 は 次以下の多項式です[1,2]。
証明は係数の評価から。 で とすれば、 で右辺が へ行きます。
とすればもとのリウヴィルの定理に戻る。定数は 次の多項式なので、話がつながっています。
例:増大度から次数を決める
整関数 が、大きい で を満たすとします。
係数の評価は です。 なら指数が負になり、 を大きくすると へ落ちる。
したがって が で成り立ち、 は 1 次以下です。増大度の が整数でなくても、次数のほうは整数に落ちます。
代数学の基本定理
複素係数の多項式は、次数が 以上なら必ず複素数の根を持ちます。
実係数に限っても、実数の範囲では根がないことがあります。 がその例。複素数まで広げると、この不足が完全に解消する。
名前は代数ですが、純粋に代数的な証明はありません。実数の連続性をどこかで使う必要があり、複素解析を使う筋がいちばん短くなります。
リウヴィルによる証明
根がないと仮定します。 がすべての で成り立つので、 は整関数。
が大きいところでは が の程度で伸びます。したがって は へ落ちる。
十分大きい半径の外で とでき、内側の閉円板では連続関数として有界です。合わせて は全平面で有界。
リウヴィルの定理から は定数で、 も定数になります。 に反するので、根がないという仮定が崩れました。
像が原点を何周するか
もう一つの見方が偏角の原理です。半径 の円を で写した像が、原点のまわりを何周するかを数える[5]。
が小さいと像は原点から離れたところにあり、回転数は です。 を大きくすると最高次の項が効き、 周するようになる。
回転数が途中で から へ変わるということは、その間のどこかで像が原点を通ります。像が原点を通る点が根。
ルーシェによる証明
ルーシェの定理は、同じ話を不等式の形で書いたものです。閉曲線の上で なら、 と は内部に同じ個数の零点を持つ[4]。
、 とおきます。 の上で次が成り立つよう を大きくとる。
左辺は の程度、右辺は の程度なので、 を大きくすれば必ず成り立ちます。
は原点に 位の零点を持つので、零点の個数は重複を込めて 。したがって も の内側に 個の根を持ちます。
追い越したあとは、いくら を大きくしても差が広がる一方です。だから根はすべて有限の円板に収まる。
最小値からの証明
3 つ目の筋もあります。 は が大きいところで発散するので、最小値は有限の円板の中でとる。
その最小値が でないと仮定すると、矛盾が出ます。最小の点で を展開し、値の絶対値をさらに小さくする方向が必ず見つかるため。
正則関数の絶対値が内部で最小をとれるのは、そこが零点のときだけ。最大値原理を に当てた形になっています[6,7]。
根の個数は次数に等しい
根が 1 つ見つかれば、あとは因数定理を繰り返すだけです。 と分け、 の次数は 下がる。
これを繰り返すと、 次式は 1 次式 個の積に分かれます。重複を込めて根がちょうど 個。
複素数の範囲では、多項式が因数分解できないという事態が起きません。代数閉体という言葉はこの性質を指します。
例:3 次方程式の根を数える
の根を、実数の範囲だけで探すと 1 つしか見つかりません。
複素数まで広げると 3 つあります。実根が 1 つと、互いに共役な複素根が 2 つ。
実係数の多項式では、複素根が必ず共役の組で現れます。 が成り立つため。
したがって実係数の奇数次方程式には、実根が必ず 1 つ以上あります。共役の組は偶数個しか作れない。
整関数の像はどこまで広がるか
リウヴィルの定理は、定数でない整関数の像が有界にならないと言っています。もっと強い結論も知られています。
像は複素平面で稠密になる。さらにピカールの小定理によれば、高々 1 つの例外を除いてすべての値を実際にとります[8]。
の例外は です。指数関数だけが漏らす値で、それ以外はすべて拾う。
多項式には例外がありません。代数学の基本定理から、どの値についても が解を持つためです。
よくある誤り
有界という弱そうな条件から定数という強い結論が出る。この落差が、正則性という条件の重さを示しています。代数学の基本定理が複素解析の側から落ちてくるのも、同じ重さの表れ。










