どんな単連結領域も円板になる、リーマンの写像定理はなぜ例外が一つだけか
複素平面全体でない単連結な領域は、どれも単位円板へ等角に、しかも 1 対 1 に写せます。
形がどれだけ入り組んでいても関係ありません。細長くても、ぎざぎざでも、切れ目が入っていても、円板と同じものだと言い切る定理です。
除かれるのは平面全体だけ[1]。空集合を別にすれば、例外はこの 1 つです。
領域の形という幾何の情報が、単連結かどうかという位相の情報だけに潰れてしまう。ここがこの定理の驚きどころ。
平面全体が除かれる理由
から円板への正則写像を考えると、それは有界な整関数です。リウヴィルの定理から定数になる。
定数写像は 1 対 1 ではありません。だから平面全体を円板へ等角に写すことはできない。
位相の意味では、平面と円板は同相です。 が全単射で連続な写像になる。等角という条件を課した瞬間に、できなくなります。
球面も除かれます。コンパクトなので、円板と同相にすらならない。
一意性
写像は 1 つに決まりません。円板の自己同型を後ろに合成すれば、別の写像ができます。
条件を 2 つ足すと一意になります。ある点 を原点へ送り、 を正の実数にする。
自由度は 3 つ[2]。 の位置で 2 つ、微分の偏角で 1 つです。円板の自己同型の自由度とちょうど一致します。
証明はシュワルツの補題から。2 つの写像が同じ条件を満たすなら、合成が原点を止める自己同型になり、恒等写像しかありえない[5]。
決めた点がどこへ行くかと、そこでの回り方を固定して、はじめて 1 つに決まります。
証明の骨組み
存在の証明は 3 段階に分かれます。どれも直接には写像を書きません。
第 1 段は、 から円板への単射な正則写像を 1 つでも作ること。第 2 段は、そういう写像を全部集めた族の中で、指定した点での微分の大きさを最大にするものを選ぶこと。第 3 段は、その最大を実現する写像が全射だと示すことです。
第 1 段:円板の中へ入れる
が平面全体でないので、 に属さない点 がとれます。 は単連結なので、 の平方根が一価に定義できる。
は単射です。 なら 2 乗して 。
さらに と は交わりません。交われば から となり、 すなわち になってしまう。
は開集合なので、そこに円板が入ります。その円板を避ける を、反転と平行移動で有界にすれば、円板の中へ収まる。
第 2 段:微分を最大にする
を固定し、 から円板への単射な正則写像で を満たすもの全部を とします。第 1 段から空ではありません。
の上限を とする。円板へ写すので族は局所有界で、モンテルの定理から正規です。
上限へ向かう列をとり、収束部分列を選ぶと極限 が得られます[3,4]。 が成り立つ。
極限が単射であることは、フルヴィッツの定理から出ます。単射な関数の列の広義一様極限は、単射か定数[7]。 なので定数ではありません。
第 3 段:全射でなければ改良できる
が全射でないとします。 に入らない点 をとる。
自己同型で を原点へ送り、平方根をとり、もう一度自己同型で原点へ戻す。この合成をシュワルツの補題で評価すると、微分の大きさが真に大きくなります。
係数は のとき より大きい。相加平均と相乗平均の関係からすぐ出ます。
が上限だったことに反するので、 は全射です。ケーベによるこの平方根の使い方が、証明の山場になります。
具体的に書ける例
証明は存在を言うだけで、写像の式は与えません。それでも、形の整った領域なら手で書けます。
どれも、いったん上半平面を経由します。上半平面と円板の対応が 1 本あれば、あとはその手前をつなぐだけ。
多角形の内部へ写す場合は、シュワルツ・クリストッフェルの積分公式があります。頂点の角度から積分の形が決まる[8]。
一般の領域では、閉じた式が書けません。数値的に近似する方法が研究されています。
境界はどうなるか
写像は領域の内部で定義されます。境界まで連続に延びるかどうかは、別の問題です。
境界が単純閉曲線なら、延びます。カラテオドリの定理と呼ばれ、閉円板から閉領域への同相写像に延長できる。
境界が複雑だと崩れます。たとえば内側へ無限に細い切れ目が入っていると、境界の点が 1 対 1 に対応しない。
局所連結であることが、連続に延びるための条件になります[6]。
ケーベの 1/4 定理
写像がどれくらい像を広げるか、という定量的な結果もあります。
が単位円板で単射な正則関数、、 とする。このとき の像は、原点を中心とする半径 の円板を含みます。
という値は最良です。ケーベ関数 の像が、負の実軸の から先を切り取った平面になる。
回転してもへこみの深さは変わりません。どの向きから見ても、原点から までは必ず像に入っています。
穴があると成り立たない
単連結という条件は外せません。円環領域は、どれも円板とは等角に対応しない。
さらに、円環どうしでも一般には対応しません。内半径と外半径の比が同じ円環だけが、互いに等角に写り合います。
この比をモジュラスと呼びます。穴が 1 つ増えるだけで、連続的に変わるパラメータが現れる。
穴が 個の領域では、パラメータの個数が増えていきます。パラメータがまったく現れない単連結の場合が、むしろ特別です。
一意化定理へ
リーマン面まで広げた形が一意化定理です。単連結なリーマン面は、円板か平面か球面のどれか 1 つに等角同値になります。
3 つしかない、という結論の強さがリーマンの写像定理と同じ性格を持っています。曲面の幾何が、双曲か放物か楕円かの 3 種類に分かれる。
平面の領域についての定理が、曲面の分類にまで届きます。
よくある誤り
領域の形という細かい情報が、単連結かどうかという 1 ビットに潰れる。この定理は、複素解析の中でも特に強い言明のひとつです。











