零点はいくつあるか……偏角の原理とルーシェの定理で数える
零点と極の個数は、積分で数えられます。
は の内部の零点の個数、 は極の個数で、どちらも重複と位数を込めて数えます。これが偏角の原理です[1]。
数えるという離散的な操作が、積分という連続的な操作で書けてしまう。しかも中身を調べる必要はなく、境界の上での振る舞いだけを見ればよい。
左辺は、 にそって の像が原点のまわりを何周するかと同じ値です。だから式を見ずに、絵で数えることもできます。
対数微分
という組み合わせを対数微分と呼びます。 を微分した形。
零点や極の近くでの姿を見ると、なぜこれが数を運ぶのか分かります。、 と書ける場合を考える。
第 2 項は の近くで正則です。したがって は で 1 位の極を持ち、留数はちょうど 。
零点なら は正の整数で、極なら負の整数です。位数がそのまま留数として出てくる。
留数定理を当てれば、留数の総和が になります[3,4]。偏角の原理はこれで出ます。
偏角という名前の由来
積分の中身を の微分と見ると、値の意味が変わって見えます。
を一周すると はもとの値に戻るので、実部の変化は です。残るのは偏角の変化だけ。
名前は、偏角が の何倍だけ増えたかを数えるところから来ています。像が原点のまわりを回った数と同じ意味になります。
例:多項式の零点を数える
を単位円で調べます。零点は 1 の 3 乗根で、どれも の上。
境界に零点があると原理は使えません。半径を にとり直します。
の上で の像を追うと、原点のまわりを 3 周する。したがって の中に零点が 3 個あります。
半径を にすると、像は原点を囲みません。回転数は で、内部に零点がないことが分かります。
極があると引かれる
零点は回転数を増やし、極は減らします。 を を囲む円で見ると、像は原点のまわりを逆向きに 1 周する。
零点と極が同じ数だけ入っていれば、回転数は です。中身が空だという意味ではなく、打ち消し合っただけ。
だから偏角の原理は個数そのものではなく、差しか教えません。個数を分けて知りたいときは、零点だけを持つ関数に組み替える必要があります。
例:有理関数で確かめる
を、原点中心の円で見ます。
半径が より小さいと、中には何も入りません。回転数は 。
半径を にすると零点が 1 つ入り、回転数は になります。 まで広げると極も入り、 へ落ちる。
まで広げれば零点が 2 つと極が 1 つで、 です。増えたり減ったりする様子が、零点と極の位置をそのまま映します。
ルーシェの定理
比較の形にした主張があります。 の上で次が成り立つとする。
このとき と は、 の内部に同じ個数の零点を持ちます。 と はどちらも とその内部で正則とします[2]。
不等式は の上でだけ要ります。内部での大小は問いません。
証明は偏角の原理から。 の値は より右半平面の単位円板の中にあり、原点を囲めません。だから の変化は で、 の偏角の変化は のそれと一致します。
犬に鎖をつけて散歩する絵で説明されることがあります。人が原点のまわりを歩き、鎖の長さが人と原点の距離より短ければ、犬も同じ回数だけ回る。
対称な形
もう少しゆるい条件で済ませる形もあります。 の上で次が成り立てばよい。
この条件は、 と が 上で同時に消えず、しかも決して真逆を向かないことを意味します。どちらを主役にするか選ばなくてよいので扱いやすい。
もとの形は を に足す書き方でしたが、こちらは 2 つの関数を対等に並べます。
例:単位円板の中の零点を数える
が に持つ零点の個数を求めます。
主役を にとる。 の上で が成り立ちます。
の零点は原点だけなので、 の零点も 1 個。半径を に広げると主役が変わります。
の上では です。 の零点は重複を込めて 5 個なので、 に 5 個。
差し引き、 の輪の中に 4 個あることが分かります。方程式を解かずに、根のいる場所が絞れました。
例:超越方程式にも使える
の解が にいくつあるかを調べます。
、 とおく。 の上で です。
したがって の零点の個数は と同じで、4 個。多項式でなくても、大きさの比較さえできれば数えられます。
例:代数学の基本定理
を考えます。主役を にとる。
の上で、残りの項の和は の程度です。 を十分大きくとれば が勝ちます。
は原点に 位の零点を持つので、 も に重複を込めて 個の零点を持ちます。この証明の得なところは、根の存在だけでなく個数まで一度に出ることです[7]。
極限に移っても零点は消えない
正則関数の列が広義一様収束するとき、零点の様子も引き継がれます。フルヴィッツの定理と呼ばれる結果です[5]。
極限 が で 位の零点を持つなら、小さな円板をとって を大きくすれば、 もその中にちょうど 個の零点を持つ。
証明は偏角の原理から。 が へ一様に収束するので、積分値も収束します。整数値なので、いつかは一致する。
系として、零点を持たない関数の列の極限は、恒等的に でなければ零点を持ちません。単葉な関数の列の極限も、単葉か定数のどちらかになります。
開写像定理と逆関数
ルーシェの定理は、値のとり方についても答えます。 の零点の個数を数える形に読み替えればよい。
を の近くで動かしても、零点の個数は変わりません。したがって は のまわりの値をすべてとり、像が開集合になります[6]。
なら零点は 1 位なので、個数はちょうど 1 個。近くで 1 対 1 になり、逆関数が作れます。
で零点が 位なら、近くの値は 回ずつとられる。 対 1 の写像として振る舞います。
数値計算での使い方
根を求めるアルゴリズムでも、この原理が使われます。まず領域に根がいくつあるかを積分で数え、区画を分けて絞り込む。
計算するのは境界にそう積分だけなので、内部を調べずに済みます。個数は整数なので、多少の誤差があっても丸めれば正しい値が出る。
零点を数える手順と、根を求める手順を分けられる点が実用上の利点です。
よくある誤り
数を積分で数える、という発想はここから先も繰り返し現れます。位相的な量を解析の道具でとり出す最初の例として、覚えておく値打ちのある定理です。










